佐賀「わいわい!!コンテナ」プロジェクト~街なかの空き地で挑む都市再生手法とは~

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街なかに増える虫食い状の駐車場と空き店舗


地方都市の中心市街地の空き家・空き地で、真っ先に行われる活用方法は時間貸しの「駐車場」にすることだ。
初期コストが安く、運営の手間もリスクも少ないため、固定資産税をカバーしてさらに収益を上げるには最適な方法なのかもしれない。
また、地方都市の多くは車社会である。車を駐めることができれば、その周りの店が栄えると信じられていた。確かに商業施設の近くに「駐車場がある」というのは施設側にとって集客ツールになるほか、市民にとっての利便性も高い。

しかし、その結果起きたのは更なる空き店舗の増加や、それによる商店街自体の衰退だった。
車は通り抜けるだけで、通りに「人」は呼び込まない。商店街はさらに寂れ、残るのは、駐車場ばかりの虫食い状の市街地と、夜の飲み屋街だ。昼間の人通りがほとんどない様子は、閑散として寂しい街という印象を与え、飲み屋と駐車場だけでは、街の安全性や安心は担保できない。そういった街なかにわざわざ足を運びたい・住みたいとは思えないだろう。ますます閑散としてゆく悪循環だ。
放っておくと駐車場だらけになってしまう状況を打破し、なんとか昼の街の賑わいを取り戻すことはできないか…。

今回は、中心市街地の空き地をなんと「原っぱ」にして、街を元気にしている事例、佐賀市呉服元町の「わいわい!!コンテナ2」を訪れた。
2011年6月から2012年1月の期間限定の社会実験「わいわい!!コンテナ」プロジェクトを経て、2012年6月から「わいわい!!コンテナ2」による社会実験が今もなお続いている。街の一角にある芝生の原っぱとコンテナでできた「誰もが無料で自由に楽しむことができる『空き地リビング』」の始まりと、街の変化について話を伺ってきた。


誰もが無料で自由に楽しむことができる『空き地リビング』に、と空き地を利用した「わいわい!!コンテナ」プロジェクト</br>(写真提供:ワークヴィジョンズ)



市民からの電話をきっかけに、広がる「なんとかしたい」の輪


「わいわい!!コンテナ」の仕掛け人は東京都内にある設計事務所、株式会社ワークヴィジョンズ代表の建築家西村浩氏。全国各地でまちづくりにも関わる西村氏は、地元佐賀新聞の取材を受けた際に『子ども時代を過ごした佐賀の街なかが寂しくなっている、なんとかしたい』とコメントした。その記事を読んだ一般市民の方から突然、事務所に電話があったという。

「自分も同じ想いです。このままではいけない。ぜひ話を聞いてほしい。」熱心な言葉と熱い想いに、西村氏も突き動かされた。
「せっかく声をかけてくれたのだから、とりあえず行ってみようか!と佐賀に来てみて、それから2ヶ月に1度のペースで市民の有志の方々と議論をしていました。議論といっても、お酒を飲みながら街の話している感じ。だんだん仲間が増えて、市役所の方々も参加されるようになって、1年くらい経った頃、佐賀市から正式に、中心市街地活性化に向けた『佐賀市街なか再生計画』策定の依頼がありました。」(西村氏)

依頼内容は、「なんとかしたい!」という、すごくざっくりとしたものだったそう。それが良かった…と西村氏は語る。
「僕らは設計事務所だし、通常は行政からの依頼も『何か造って』というものでしょう?でもそういうオーダーじゃなかった。人口が減少して都市が縮小していく21世紀は、モノを作って都市の再生がうまくいくとは思えません。何か新しい仕組みが必要です。依頼を頂いた部署が経済部の商業振興課だったからかもしれませんが、僕らにとってもいい経験でした。」

「ちなみに、商業振興課は、全国の自治体にあります。かつては名前のとおり商業の振興と商店街の発展のための施策を担っていましたが、現在はまちの賑わいを取り戻そうと奮闘されています。イベントをひたすら開催したり、ゆるキャラを作ったり、そのための補助金を獲得したりして。でもね、そういうイベントで本当に元気になった都市はないんです。もっと、体幹から鍛えるというか、基礎代謝を上げなくちゃいけない。街の日常が大事なんです。」

そうして西村氏が出したアイディアは、「空き地を原っぱにしよう」というものだった。


仕掛け人の西村浩氏。「僕らの仕事は、次の世代にバトンを渡すこと。何事もそれをやればうまくいくなんてものは1つもありません。今ここに必要なものを探す、その繰り返しなんです。」(撮影:山口)



戦略的な「空き地」をつくる


20世紀は人口が急激に増え、それに合わせて都市も形成されてきた。人の増加に合わせて街は、より合理的に区分けされてきた背景がある。

「中心市街地はいわゆる商業地です。『商業地は、高度に利用されるべきであって、収益を上げる物件を立てなければならない』という20世紀までの思考は未だ根強くて、だからモノを建てて解決しようということになる。そうではなくて、今必要なのは、土地が空いていることを認めて、まずは空き地を空き地のまま、その価値を高めること。そこからエリアの価値を高めていくのが、21世紀のあり方だと考えています。」(西村氏)

提示したのは前述の、空き地を「原っぱ」にするというものだ。「ドラえもんに出てくる、土管のある空き地のイメージ」と西村氏。
空き地を空き地のまま価値を上げるというかつてないアイディアに、難色を示す人も少なからずいたのだが、「では社会実験として実際に行ってみましょう。」と提案したそう。
ここから、わいわい!!コンテナプロジェクトはスタートした。

西村氏が意識したのは、①住民を巻き込むこと②コストを極力抑えること③プロジェクトによって起こる人の動きや街の変化を検証すること、である。
2010年11月にまず「佐賀市街なか再生会議」を結成した。メンバーは地域の住民や地元商店街、NPO、行政の人々。街の未来像を共有し、まちづくりの方向性や方法について住民も行政もフラットな関係で自由に意見を出し合い『自分事』にしていく環境を整えたそう。住民主体のこの会議で決めたことを行政が支援する仕組みだ。敷地は民間所有の空き地を、佐賀市が借り受けた。

コンテナは地元の建設会社が自費で施工し、佐賀市にリースしている。7年ほどで償却する計算だそうで、「コピー機を借りるような感覚」と西村氏は表現する。芝生は地元の造園業者から購入して、地域の住民や子どもたちと一緒に張り、コンテナ前のデッキも住民とDIYで製作した。コンテナには300種類の国内外の雑誌や絵本を入れて、運営は地元のNPOにお願いした。

そもそもなぜ、「原っぱ」と「コンテナ」なのか。
商業地である中心市街地には緑の空間がほとんどない。「車が多くて危ないので街なかには暮らせない」というお母さんの意見も多数あったそう。駐車場ばかり増えて人のいないこの悪循環を断ち切るために、車が入らず子どもが遊べる芝生の原っぱを作ることにしたのだ。

「公園にすると行政の管理下になるから、何かと規制が増えます。例えば、『芝生が傷むから入るな』等。おもしろくないしそれでは意味がない。」と西村氏。

原っぱの維持管理や活用を住民と一緒に行い、人がやってくる仕組みと動機を作った。原っぱには、日差しを避けたり、市民が集える居場所も必要だ。そこにコンテナを利用したのは、動産に興味があったから。移動可能で気軽に使え、再利用も可能、固定資産にならないので税制的にも有利である。


わいわい!!コンテナ2に集まる人々と敷地の全体像。「空き地にボッコボコの中古コンテナを置いただけの時は、まだまだ不安そうでしたが、塗装してそれっぽくなってくると、徐々に皆さんの表情が明るくなりました。」と西村氏(写真提供:ワークヴィジョンズ)



中心市街地再生新論「玉ねぎ戦法」


「わいわい!!コンテナ」による8ヶ月間の社会実験の期間中、延べ15,000人もの人が訪れた。
市民からの要望が強く、近隣の別の空き地に場所を移して2012年6月から「わいわい!!コンテナ2」が始まった。新しい敷地は、歩行者専用道路に面した最適な場所だ。前述の雑誌や絵本、漫画などを自由に閲覧できる「図書館コンテナ」のほか、サークル活動などに利用できる「交流コンテナ」、チャレンジショップの出店を支援する「チャレンジコンテナ」、「トイレコンテナ」の4つのコンテナとウッドデッキを設置している。

ある時、近所の英会話学校の講師が、子どもたち向けに無料の英語イベントをやり始めた。学校の営業活動のひとつだろう。しかし、子どもを英語に触れさせられる機会が無料であるとあって、コンテナは大盛況だったそう。その他にもヨガサークルができたり、キーボードを置いたら、市民のコーラスグループができたり、自然にコミュニティが発生した。

「作られたコミュニティは弱く、自然にできたものは持続しやすい。コミュニティを作るのではなく、コミュニティができやすいきっかけを作るのが大切です。」(西村氏)

人が集まる場所の周辺には、自然と商売が生まれる。原っぱの向かいの饅頭屋さんにはおやつに饅頭や団子を買いに来る人が増え、隣にはTシャツのプリントショップができた。ラーメン屋さんやハンドメイドの雑貨店、サイクルショップなども周辺に続々と出店した。これは、西村氏の当初からの狙いだ。

「たまねぎ戦法」と西村氏が提唱するその手法は、まずは絞り込んだエリアの価値を上げ、それを周囲に波及させていくもの。分散して薄まってしまわないよう、人々による街の変化の密度を高めていくことが重要なのだ。小さなエリアに集中して変化が起きれば、地域の人も「あの辺変わったね」と気づき、足を運んで、リピートや定着につながるそう。


「わいわい!!コンテナ2」の周辺に出店したTシャツプリントショップ(右上)とサイクルショップ(右下)ハンドメイドの雑貨店(左)。ハンドメイド雑貨は委託している作家が26名も。すでに店舗は手狭になり、増床や移転も検討中だそう(撮影:山口)



安心安全な拠点から、自ら賑わいを取り戻す街に


「わいわい!!コンテナ2」も来場者数は増加し、3年目の2014年には年間7万人近くにも及んだ。当初1年の予定だった第2弾のこのプロジェクトも、市民からの強い要望と高い実績により、もはやなくてはならない存在になっている。

2014年春にはワークヴィジョンズの佐賀事務所とシェアオフィス・カフェを併設した「マチノシゴトバCOTOCO215」がオープン。スタッフが常駐する拠点ができたことで、より地域との親密度が高まったそうだ。

また、2015年2月「街なかオープンシャッタープロジェクト」と称して、西村氏らはシャッターが閉じたままの空き店舗を期間限定で貸し出した。不動産オーナーが許諾した11の物件に対して応募数は42件。実際に入居できたのは21件だったが、1ヶ月の期間中は通りがパッと華やいだ。このイベントの後、本当に店舗を借りて出店した店もあるという。

道路空間を活用した週末限りのマルシェを開いたり、「わいわい!!コンテナ2」にも面したクリーク(用水路や治水の役割を持ち平野を網の目のように走る佐賀ならではの水路)をカヤックで遊ぶ企画を実施したり、当たり前にある公共空間に遊びをもたらし価値を見出していく、西村氏のチャレンジは止まらない。

「通りに面したこの駐車場の使ってない一部を常設マルシェにしたい。向かいのこの建物の壁で上映会をやりたい。」と取材当日も嬉々として今後の構想を語ってくれた。通りを歩くと方々から「西村さーん!」と声をかけられる様子も印象的だ。

「今、この敷地は市が借り上げてくれていますが、そのうちここの収益で回せる仕組みも考えたい。」と西村氏。街に寄与する公共施設として、税金の投入も十分意義はある気もするが、目線は自走する街の仕組みに向いている。

既に次の新たなプロジェクトも動き出しているそう。佐賀市発の取り組みに今後も目が離せない。


「マチノシゴトバCOTOCO215」佐賀に拠点を構えたことで、街の情報が集まりやすくなったそう。人繋ぎと情報発信は、管理人で街の案内人田中さんが担当(撮影:山口)



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