日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」が建て替えへ。歴史的意義のあるマンションが伝えるもの

LIFULL HOME'S PRESS

日本初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」が建て替えへ。歴史的意義のあるマンションが伝えるものの記事画像

民間企業による運営管理や割賦販売の導入など、現在のマンション販売の先駆けとなった四谷コーポラス


1956年(昭和31年)竣工、日本での民間分譲マンションの第一号とされる「四谷コーポラス」(東京都新宿区)の建て替え決議が3月25日に成立、9月に解体工事が始まることとなった。

前述したように四谷コーポラスは「日本で初めて民間企業が販売した分譲マンション」とされる建物。1962年の区分所有法施行以前の建物で、所有形態の位置づけや共用部の管理責任などが明確ではなかった時代に初めて民間企業による運営管理がなされ、また住宅ローンが現在のように一般的でない中で割賦販売が導入されるなど、高額なマンションが庶民に普及するきっかけとなったと考えられている。5階建て28戸のマンションは当時珍しかったメゾネットタイプの間取りを採用。1階から入って1・2階を使う住戸や、4階から入って3・4階を使う住戸などがある、結果的に2・3階に玄関がないのが特徴だ。

四谷コーポラスでは、建て替え・大規模修繕等の検討会が2006年にスタート。その後東日本大震災をきっかけに耐震性能への不安が顕在化。建物の高経年化に伴う老朽化などの理由から建て替えを中心に検討されることとなり、決議が成立したという。

この四谷コーポラスの歴史的意義、建て替えの難しさ、新しいマンションへの展望などについて、今回の建て替え事業を請け負う旭化成不動産レジデンス株式会社 マンション建て替え研究所の大木祐悟さんと、同社開発営業本部 技術部 企画推進課の和田悠さんにお話を伺った。


日本初の民間分譲マンションとされる「四谷コーポラス」外観。もうすぐその61年あまりの歴史に幕が閉じられる



管理会社が管理する、規約的に管理するという2点においても歴史的な意義を持つマンション


「分譲マンションでは1953年(昭和28年)に分譲された宮益坂アパートメントがありますが、このアパートメントの売主は東京都。今の一般的な形態である民間の分譲会社が分譲するマンションでは四谷コーポラスが最初と言われています。2DKのアパートでの生活が夢だった時代に大きいもので80m2ほどの住まいがあったことはいわゆる高級マンションの第一号と言えると思いますし、日本の集合住宅の先駆けとなっていることは間違いないでしょう」と大木さん。

ソフト面も充実していたようだ。
「分譲会社が管理会社を子会社でつくったことも特徴で、管理会社で管理するという方法を採った最初のマンションかもしれません。またいわゆる管理規約もあったマンションで、内容も非常によく考えられたものでした。管理会社が管理する、規約的に管理するという2点においても歴史的な意義を持つマンションだと思います。管理規約でその時に出てきた文言、例えば『専有部分』という言葉が使われたのも四谷コーポラスが初めてかもしれません。このマンションが持つ歴史的意義を我々も検証しているところです」

設備面でも一歩進んだものが使用されていた。
「住戸の鍵がホテルの部屋のオートロックのように家を出たら勝手に締まる仕組みになっているんです。もちろん解除も可能です。ホテルでもそのようなことをやっていない時代に採用し、今でも使われていることが面白いと思います」(和田さん)


上/歴史を感じさせる管理人室。「独立した管理人室が置かれていた非常に先進的なマンション。クリーニングの受付サービスもあったようで、今確認をしているところです」(大木さん) 下/青が鮮やかな玄関扉と壁面。1956年(昭和31年)当時にホテルのようなオートロックが採用されていたのが画期的



再取得や転出など権利者と個別面談を行い、問題を一つひとつクリアして建て替えへ


建て替えをする場合、区分所有者それぞれに賛成か反対の意見を聞く必要がある。建て替えを希望する人としない人、再取得を希望する人と転出を希望する人。一言で建て替えといっても数多くの権利者の考えをまとめあげることの大変さは容易に想像がつく。

建て替えが決まった場合、同社ではまず権利者に再取得または転出の意思を確認し、1回目の個別面談で再取得希望者にはおおよそどのような間取りを希望するか確認を行う。2回目以降は何人で暮らすのか、どれぐらいの広さを希望するかなど、具体的な話を詰めていく。
「40m2台、50m2台、60m2台を希望する方が何人いるかなど、それぞれの方のご希望をお聞きし、調整を行いながらご希望より多い数の間取りを用意します。しかし、建て替えには大きな労力が必要ですから、どうしても目の前にある課題しか見えなくなってしまう方もいらっしゃいます。例えば当初40m2台を希望されていた方が後に『子どもたちと一緒に住むことになったので80m2欲しい』などということはしばしば起こりうる話です。お断りすることもひとつの選択肢ですが、全体のスケジュールの中で調整できるのであれば極力対応するように心がけています」(大木さん)

今回の四谷コーポラスの建て替えでは、51戸に対して41タイプの部屋を用意したという。
「共同住宅には色々なしがらみがありますが、その中でも可能な限り権利者様のご要望を採り入れることで、ものすごくエネルギーが必要な建て替えを、プランづくりや家具選びなどを通して少しでも楽しんでいただきたいと考えています。今回数多くのプランをご用意しましたが、これだけの数のプランをつくったのは記憶にないですね。その分手間がかかりますが、ご満足いただけると思いますし、仕事の喜びにもつながっています」(和田さん)


細長い敷地に建つ四谷コーポラスはスパンを広くとることで、採光に配慮した設計が行われていた。</br>建て替え後は現在の地上5階28戸から、地下1階・地上6階51戸のマンションへと生まれ変わる



売買のトラブルで建て替えができなくなるケースも


マンションの購入方法としてすっかり定着した感のある中古物件の購入+リノベーションという方法。しかし購入者が賢くならないと本人が損をするばかりかマンションの建て替えにも影響することがあると大木さん。

「例えば管理組合で3年後ぐらいに建て替えをしようという動きがあるマンションがあったとします。それを知らずに中古でそのマンションを購入して1500万円かけてフルリノベーションをしたオーナーさんがいたら、リノベーションにかけたお金は誰も補償してくれません。部屋の修繕をする時には管理組合の理事長さんに届けを出す旨が規約で定められているのが一般的ですので、その際に理事長さんからオーナーさんに『このマンションは3年後に建て替えを検討しています』と一言話してもらうようにアドバイスしています。
それがわかっていて1500万円を使うのならそれはオーナーさんの責任ですが、知らないで大金を使ったら非常に大きな禍根を残す原因になります。マンションの建て替えを知った時に『私が払った1500万円をどうにかして欲しい』という話になったとしても、その金額は誰も補償できません。また、もしそんな方が10人もいたらそれだけで建て替えは破綻するでしょう。ことあるごとにアナウンスはしておりますが、こればかりは買う側にも理解していただきたい問題です」

古いマンションを購入してリノベーションする場合の落とし穴。ぜひ気にとめておいていただきたい。


日本初の民間分譲マンションとされる「四谷コーポラス」が建て替えられることになった。管理会社による運営や割賦販売の先駆けにもなった築61年のマンションの歴史的意義を探る。



都心に住むということはまちに住むこと。まちでの暮らしを楽しむためにも安心安全なマンションが必要


多くのマンションの建て替え事業に関わってきた同社。今後の建て替えによるマンション建設やリノベーションについてどのように考えているのかお聞きした。
「現在日本には100万戸強の旧耐震基準のマンションがあると言われていますが、この20年ほどですべてが建て替わるかというと無理だと思います。多くのマンションには余剰容積がなく、建て替えても今と同じ大きさにしかならないためです。そのため今後は、建て替えて新しいマンションにする場合と、建て替えそのものが困難で使い切ってしまおうとするマンションとに分かれてくるでしょう。当社に話があったマンションで、建て替えると現状の半分ぐらいの大きさになってしまうようなケースでは、むしろ使い切りをお勧めしたこともあります」(大木さん)

「当社は駅の近くなど都心でマンションをつくらせてもらっています。ある大学の先生が面白いことを言っていたのですが、『都心に住むということは、冷蔵庫は5分先のスーパーで、キッチンはすぐ近くのイタリアン料理店やフランス料理店。少し行けば定食屋さんもある。都心に住まうということは即ちまちに住まうということではないでしょうか』と。当社はまさしくそういう場所にマンションを建てさせてもらっています。

そうしたら何を優先すべきかというと、まず安心安全な建物をつくることだと思うのです。年齢や家族構成によって生活形態は変わるかもしれませんが、ひとつの建物の中に様々な方がお住まいになる集合住宅。アフターメンテナンスも含め、安心で安全なマンションをご提供することがまちを楽しんでいただく、まちに住んでいただくということだと考えています」(和田さん)

同社で建て替えを行った場合、権利者が再取得をするのは約6~7割ほどとのことだが、四谷コーポラスでは約9割の人が再取得するという。それだけ建物や立地に愛着があるということだろう。
「もともと間口が狭く南北に長いマンション。隣地が多い囲まれた敷地に建っていました。現状の建物もそうですが、とにかく住戸のスパンをとって室内への採光を確保しようとしていたのが見受けられます。建築基準法などの法規が厳しくなっていますが、そこだけは必ず死守しようと可能な限りワイドスパンにして部屋に光を取り込むように設計しました」と和田さん。

再建後のマンションは2019年の完成予定。それまでに現在調査中という四谷コーポラスの歴史的価値がまた新たに発見される可能性もあるだろう。民間分譲マンション第1号という歴史を受け継ぐ新しいマンションが誕生する日を楽しみに待ちたいと思う。


写真左から、旭化成不動産レジデンス株式会社 マンション建て替え研究所の大木祐吾さんと同社 開発営業本部 技術部 企画推進課の和田悠さん。「過去の経験と新しい知恵をリンクさせてスムーズにマンション建て替えを行える『実現力』のある会社だと自負しています」(和田さん)



[関連記事]
建替え目前。日本初の分譲マンション「宮益坂ビルディング」を見て来た
同潤会による品川区中延二丁目の木造長屋群がいよいよ建替えへ
【マンション2棟共同建替え①】10年かかった苦難の道のり
マンション建替えで初の公道付替え。生まれ変わった調布富士見町住宅を見てきた
多摩ニュータウンに子育て世代を呼び戻すために。老朽団地の建て替えで多世代共生を目指す ①

出発:

到着:

日付:

時間:

test