古民家リノベーションで”いのちかよろこふ衣食住の営みと学ひの場”を。母のための「きさいち邸 産巣日」の取り組み

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「いのちかよろこふ衣食住の営みと学ひの場」をコンセプトに


核家族化が進み、母親一人が育児を負担する「ワンオペ育児」が問題となっている。ワンオペ育児の問題は、ただ母親の忙しさだけではない。むしろ、育児について相談する相手がおらず、インターネットや育児書の情報にのみ頼ってしまうことが大きな問題かもしれない。

そんな中、母親たちが気兼ねなく集まって相談しあえる施設もある。
たとえば、交野市にある「きさいち邸 産巣日(むすび)」は古民家を改装したシェアスペース。「産巣日」は『古事記』の冒頭に登場する、この世界の基礎となる神様の名前で、「いのちかよろこふ衣食住の営みと学ひの場」となるようにという、運営者・岸本玲子さんと管理人・松浦めぐみさんの思いが籠められている。

主に小さな子どもを持つ母親たちが集まって、子連れでも参加できる料理教室を開いたり、子どもを遊ばせながら子育てについて相談し合う場を設けたりしているようなので誕生の経緯や、思いを聞いてきた。


きさいち邸産巣日の外観



約30年間空き家だった古民家をシェアスペースに


もともと岸本さんは星田で助産院を開業しており、2階スペースを開放して、ベビーマッサージ教室や、料理教室を開いていた。しかし岸本家の子どもたちが高校生になると、家族と参加者がお互いに気を使い合うようになり、集会所にできる場所を探していたところ、古民家を使わないかと声がかかる。売る気はないが、約30年間空き家になっていたため、有効利用してほしいという要望だった。大家さんは、現在94歳の老婦人で、戦後の大阪が焼け野原だった時代に、大きな自動車で嫁入りをしたほどの財産家。この邸宅も、当時の人々にとっては目を見張るような豪邸だったのだろう。

邸宅の雰囲気は岸本さんの思い描いていた通りだったが、シェアスペースは和室2部屋あれば十分なので、広すぎる。母親たちのリーダー的存在だった松浦さんに相談すると、「こんな家で暮らしてみたかった」と、住み込みの管理人になってもらえることになった。
そこで、大家と相談してリフォームを開始するも、屋根が落ちている場所もあり、扉もボロボロで、工事は大がかりだったとか。桟はそのまま残してほしいという大家の希望や、「木の家で子どもたちを遊ばせたい」という岸本さんたちの思いもあり、改装後も昔の雰囲気がそのままに残っている。

「きさいち邸 産巣日」には、昔ながらの段差がそのまま残されている。これには岸本さんの想いがある。
「自分一人で必死になって子育てしているお母さんは、子どもが鼻水を垂らしているのに鼻もかませず、医学書やスマホで病名を調べていたりして、額で熱をはかったり、子どもの表情で体調を把握したりといった、野生のカンが鈍っている気がするんです。
お母さんの軸がしっかりしていたら、多少のことではブレないはずなのに、地に足がついていないから、揺れて不安になってしまうんじゃないでしょうか。土をさわって、畑を作っているような人は、自然には勝てないとわかっていますが、頭だけで考えている人は、自分が頑張ればなんとかなると勘違いしています。だから、木や土がある場所で、子育てについて話し合える場があれば、お母さんたちもカンを取り戻せるのではないかと考えました。
この家のテーマは、『お母さんが野生に戻る家』なんです」と語る。

岸本さんは子どもたちにも「便利すぎない生活」を経験してほしいという思いをもっている。
「今の生活は過保護すぎるというか、徹底的に危険を排除しようとしますが、人間には生まれながらの危機回避能力がそなわっています。それに、子どもたちが段差を経験するのは大切なこと。20センチの段差を落ちた経験のない子は、高所の怖さを知らず、6階のベランダの端に座っていたりするんです。
年配者より、バリアフリーの家に住む若い人の方が段差で怪我をしやすいのを見ても、家の中で上がったり下がったりすることで、感覚が研ぎ澄まされるのではないかと感じます」

交野市の用水路はほとんどが蓋をされているが、「きさいち邸 産巣日」前の用水路にはなく、子どもたちがザリガニ捕りをしている。事故が起きる可能性が皆無とは言えないが、年配の子が小さい子に配慮したりして、昔ながらの子ども供たちのコミュニティも生まれているという。

松浦さんは管理人として奥の部屋に住み、和室二部屋とキッチンをシェアスペースとして利用。フェアトレード商品と手ぬぐいの店も入っている。


りっぱな梁が、往時は豪邸だったことを偲ばせる



古民家に残る昔ながらの良さと現代に生かす改修が必要なポイント


岸本さんがリノベーションでこだわったのは、珪藻土の壁と、無垢の床板、キッチンや洗面所に木が使われていること、太い柱を残すことなど。子どもたちを集めたワークショップで、壁塗りもしたとか。

「妊婦さんや子連れのお母さんがほっこりできるのは、畳のにおいがして、縁側に寝転がれば、雨上がりには雨のにおいがして、夏にはセミの声が聞こえ、朝夕には風を感じられるような場所ではないかと考えました。視界に緑が見えたり、土を実際に触れられたりする場所がテーマでした」

基礎を調べると、大きな石の上に柱が建っているだけだったため、耐震基準にのっとって工事をしたが、岸本さんは大工さんへの感謝と共に、もったいなさも感じたという。
「この家は150年間、地震にもびくともせず建っていました。昔ながらの知恵で、この土地の地盤に最適な耐震対策がとられていたのではないでしょうか。畳が腐らず残っていたのも、基礎がなくて通気性が良かったからでしょう。それに、屋根の角度も絶妙で、冬は一日中太陽が隠れず、夏は昼の直射日光が入らないんです。昔の人の知恵にただただ驚き、だんだんと技術の発達や進歩に伴ってそういう知恵がなくなることが不安です」

しかしもちろん、古民家だからこその「ちょっと残念だな」と感じる点もある。
「30年間空き家だったので庭に土が積もってしまったのか、石畳の方が低くなり、雨が降ると川になって、長靴でないと玄関まで来られないんです。おくどさん(かまど)もあるのですが、防炎の壁ではなく消防法に適していないので煮炊き物は難しい。でも、手ぬぐいを並べるテーブルとして活用して、活かす工夫をしています」と、松浦さんは言う。


視界に緑が見え、土を実際に触れられる「きさいち邸 産巣日」では、子どもたちものびのびと遊んでいる



母の力を引き出すためのコミュニケーションの場に


シェアスペースは、「ここはみな子連れなので、気を遣わなくてよい」「いつも誰かがいるから、気分転換ができる」と好評で、子どもどもが幼稚園に行っている午前中を中心に、埋まっている時間が多い。今後も昔ながらの民家で、手ぬぐいで子ども服を作ったり、機織りをしたり、わらじを編んだりといった、昔の知恵を伝承できるイベントを計画しているそうだ。そのほか呼吸法のセミナーや和裁、おむすび試食会など、イベントの内容はバラエティ豊かだが、企画の苦労はあまりないとか。

「コミュニティができてくると、提案が向こうからやってくる感じです。たとえば、わらじを編むワークショップで、『まこもでわらじを編んでみたいんです』という声が上がったのに対して、受講者の一人が『うちはまこも農家です』と手を挙げてくださったこともありました。イベントのコンセプトがしっかり伝わっているおかげか、一つのイベントから別のイベントが派生することも多いのです」と松浦さん。

岸本さんは、「国策は『お母さんは大変だから守らなくてはいけない』というスタンスです。もちろんそれも大事ですが、大変でかわいそうだと価値観を押しつけられると悲しい気持ちになる人もいます。でも、ここにくると、『私にはもっと力がある』『子どもを産んだからこそ輝ける』と気づく人もいますし、一番しんどかった時期をここで乗り切った人が、そのノウハウを伝えてくれたりします。これからも昔ながらの隣近所のような、助け合いが出来る場になっていけばと思っています」と微笑む。

まだきさいち邸は2017年6月に開かれたばかりだが、今後も軸をぶらすことなく、活動を広げていくつもりだそうだ。


管理人の松浦めぐみさん(左)、運営者の岸本玲子さん(右)



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