地域起こしの有望株 短期連載 ウィズコロナの観光コンテンツ、いま城泊が熱い!(上)

ジョルダンニュース編集部

「江戸300藩」と言われるように、江戸時代、全国に300近く(一説には500近くとも)の藩が存在し、その名残として現在も各地に城郭や城址、武家屋敷などの文化財が点在する。日本の城はこれまで保全一辺倒だったが近年、欧州の歴史的建造物なども参考に、インバウンド(訪日外国人客)集客策や地域創生の呼び水として観光資源化を図る試みが生まれている。これら官民挙げた取り組みを3回にわたりリポートする。

全国に先駆けて城泊を事業化した大洲城:バリューマネジメント提供

日本文化を知りたい外国人富裕層に城泊


 新型コロナの水際対策が昨年10月に大幅緩和された影響で、インバウンドの回復が鮮明になっている。日本政府観光局(JNTO)が発表した昨年12月の訪日外国人客は137万人。11月の約1・5倍となり、2020年2月以来、2年10カ月ぶりに100万人を超えた。
 さらに、一時1ドル150円台に乗せた円安も追い風に、外国人観光客の富裕層向けのコンテンツとして、国や自治体、観光業界が注目するのが「城泊(しろはく)」。その名の通り、「城」に「泊」まるもので、英語表記は「catsle stay(キャッスル・ステイ)」。城郭の天守、櫓(やぐら)を1組の客のために貸し切るゴージャスな日本文化体験プログラムだ。
 現在、城泊を事業化して実施しているのは、大洲城(愛媛県大洲市)と平戸城(長崎県平戸市)の二つ。さらに、昨年10月、広島県福山市が2023年度以降の事業化を検討するため、福山城で1泊2日の実証実験を開催した。
「1日城主」の体験モニターを務めたのは、日本在住のオーストラリア人でインバウンド観光アドバイザーのクリス・グレンさんと彼の友人の2人。殿様衣装を着ての入城体験、初代藩主・水野勝成も愛した能の鑑賞、福山名産「くわい」や「神石(じんせき)牛」など地元食材をふんだんに使った饗応料理、天守最上階での琴と尺八の生演奏などを堪能した。
 ちなみに、天守広場全体を貸し切った城泊プログラムの料金設定は1組(2人)100万円ほど。まさに富裕層に特化した観光コンテンツだが、「100万円でも満足できる」とグレンさんからお墨付きを得たという。

福山城の宿泊施設となる月見櫓。2階大広間(18畳)には福山藩水野家と阿部家の家紋があしらわれている:福山市提供

天守に泊まり殿様気分、1泊100万円から


 観光庁では城泊の全国展開を目指し、「訪日外国人旅行者周遊促進事業(歴史的資源を活用した観光まちづくり事業)」として補助金(上限1000万円)の公募を行っている。これまでに福山城のほか津山城(岡山県津山市)、丸亀城(香川県丸亀市)、中津城(大分県中津市)、臼杵城(大分県臼杵市)が選ばれ、城泊の事業化を検討している。
 コロナ禍の2020年7月、全国に先駆けて宿泊者の受け入れを開始した大洲城では、昨年末までに11組が宿泊。基本料金は1泊1人55万円(税込み)で、利用は2人から(最大6人)となる。天守での宿泊のほか、国の重要文化財、高欄櫓(こうらんやぐら)での夕食、近隣にある臥龍山荘(がりゅうさんそう 国の重要文化財)の和室を貸し切っての朝食と贅沢三昧だ。

入城体験から始まる大洲城の城泊プログラム:バリューマネジメント提供

宿泊イベントに7500人が応募、半数が外国人


 一方、平戸城は大洲城に続いて2021年4月に城泊を事業化した。きっかけは、17年に「一夜限定」で宿泊イベントを企画した際、英国BBCなど海外メディアも取り上げ、約7500人の応募者の半数以上が外国人だったこと。インバウンド需要を見込んだ平戸市は、約1億2000万円をかけて懐柔櫓(かいじゅうやぐら)を改修し、宿泊施設にリフォームした。こちらも1日2組(各2名)限定で1泊の基本料金は67万1220円(2名)。

平戸城の城泊では茶道や座禅、写経などの文化体験も用意されている:狼煙提供

 このように城泊のメーンターゲットは、日本文化に憧れを抱く外国人富裕者層だ。ところが、城泊がもたらす効果はインバウンドばかりではない。城下町の“アイコン”である城を核として、周囲に点在する町屋や古民家を改修する動きが生まれている。次回は、こうした町全体を一つのホテルに見立てた「分散型ホテル」の取り組みについて紹介する。
(続く)

天野久樹(あまの・ひさき):1961年生まれ。早大卒。全国紙記者、旅行雑誌編集部などでの経験を生かし、ルポライター、翻訳家を務める。著書に『浜松オートバイ物語』(郷土出版社)、訳書に『アイルトン・セナ 確信犯』(三栄書房)。
記事提供元:タビリス