地域起こしの有望株 短期連載 ウィズコロナの観光コンテンツ、いま城泊が熱い!(中)

ジョルダンニュース編集部

イタリア発祥の「分散型ホテル」を手本に城を生かす


 日本文化に憧れを抱く外国人富裕者層をメーンターゲットにした「城泊」。
 だが、城泊がもたらす効果はインバウンドばかりではない。城下町の“アイコン”である城を中核拠点とし、少子高齢化や過疎化が進む地域を元気にしようというプロジェクトが各地で生まれている。
 こうした取り組みは、イタリア発祥の「アルベルゴ・ディフーゾ」が手本となっている。訳して「分散型ホテル」。集落内の古民家や空き家をホテルとして再生、レセプション機能を持たせて拠点とし、半径200m以内にレストランや宿舎、観光施設を点在させ、まち全体をホテルに見立てるものだ。
 アルベルゴ・ディフーゾの提唱者は、イタリア国立ペルージャ大学教授のジャン・カルロ・ダッラーラ氏。ダッラーラ氏は1976年、北イタリアのフリウリ=ベネチア・ジュリア州を襲った地震の震災再興の取り組みがきっかけで、独自のおもてなしモデルを構築。2006年には「アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナル」を設立して会長に就いた。

「アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナル」公式ホームページのトップ画面

 現在、イタリア国内では100地域がアルベルゴ・ディフーゾに認定されている。成功例の一つに挙げられるのが、イタリア北東部、エミリア=ロマーニャ州にある人口350人ほどの村、ポルティコ・ディ・ロマーニャだ。
 同村には観光予算がほとんどなく、国や州政府からの援助もない。だが、中世の街並みを観光資産として、村人たちも参加して、村唯一のレストラン兼ホテルを中心に、空き家を活用した宿泊施設や公共図書館、イタリア語教室などを創出。さらに、地元産の食材を使って自家製の高い品質の食を提供し、欧州各国から富裕中高年層の観光客を集めている。リピーターも多く、そのまま移住する人もいるという。

日本のモデル事業、平戸城を中核に多彩な展開


 そのアルベルゴ・ディフーゾ インターナショナルは2022年7月、一般社団法人の極東支部を東京都内に設立した。同組織は国内5地域をモデル事業に認証。その一つが、平戸城を中核拠点として「分散型ホテル」事業に乗り出している長崎県平戸市である。
 九州本土の西北端に位置する平戸市は、北に玄界灘、西に東シナ海を望む自然豊かな町。イエズス会宣教師、フランシスコ・ザビエルが長崎で最初に布教活動をした地とされ、国際貿易港として栄えた歴史を持つ。
 ところが、2005年の合併当時約4万人だった人口は、現在約2万9000人と大きく減少。人口減少率が全国上位の長崎県の中でも、平戸市は地域コミュニティーの希薄化が危惧されている。
 そこで市では、平戸城を地域創生のシンボル的存在と位置づけ、本丸、石垣、見奏櫓(けんそうやぐら)などを大規模改修。懐柔櫓(かいじゅうやぐら)を宿泊施設化し、2021年4月、日本初となる常設の城泊事業をスタートさせた。
 昨年11月19日~今年1月15日には「平戸城下ナイトミュージアム」と題したイベントを開催。平戸城を中心とした城エリア、松浦資料博物館と寺院・教会の見える風景を中心とした歴史散策エリア、平戸オランダ商館と平戸港交流広場を中心とした国際貿易エリア、商店街を中心とした町屋灯りエリアの4つに分けて、平戸の街を色鮮やかに彩った。

三方を海に囲まれた丘陵に立つ平戸城。1704年、平戸藩松浦氏の居城として築城された 狼煙提供


「平戸城キャッスルステイ」の宿泊施設内。1階は和モダンなダイニング・リビングルーム。海に面した3面ガラス張りのバスルームからは平戸大橋を見渡せる 狼煙提供

「グッドデザイン賞」に選ばれた大洲市城下町


 一方、コロナ下の2020年7月、全国に先駆けて城泊事業を期間限定でスタートさせた大洲城(愛媛県大洲市)では、城泊と同時に、城下町に点在する文化財や町屋、古民家を活用した分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」をオープンさせた。
 大洲市には大洲城のほかにも、明治期の名建築「臥龍山荘(がりゅうさんそう)」をはじめとする歴史的建物が城下町エリアに数多くあるが、近年は古民家などの取り壊しが進んでいる。こうした背景を受けて、全国各地の歴史的建造物を宿泊施設や結婚式などの施設に再生する事業を手掛けるコンサルティング会社、バリューマネジメントが観光まちづくりに乗り出した。

江戸時代初期に伊予今治藩主の藤堂高虎らにより近世城郭として整備された大洲城。1888年に天守は取り壊されたが、2004年に木造で復元された バリューマネジメント提供


桜の名所としても知られる大洲城。城下町エリアに点在する古民家を改修して分散型ホテルを創出している バリューマネジメント提供

 2021年4月には、国の登録有形文化財「旧加藤家住宅」を活用した宿泊棟「MITI」がオープンした。旧加藤家住宅は、大洲藩主の加藤家が1925年(大正14年)に建てた近代和風建築。映画「男はつらいよ―寅次郎と殿様―」の撮影に使われたことから、「お殿様の家」として市民から親しまれている。外観や梁など歴史ある佇まいはそのままに、水回りやベッドなど宿泊に必要な機能を整備した。

全面ガラス障子の明るく開放的な造りが特徴的な旧加藤家住宅主屋を改修した「MITI」。名称は、同建物を建築し、晩年を過ごした貴族院子爵・加藤泰通(やすみち)に由来する バリューマネジメント提供

 さらに、大洲城に現存する最古の建物「三の丸南隅櫓(みなみすみやぐら)」(国重要文化財)でプライベートディナーを楽しめるプランや、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」一つ星を獲得した「臥龍山荘」の貸切ツアー、大洲城の麓でシャンパンや日本酒を楽しめる「キャッスルBAR」、二の丸に設置したカフェテラスで愛媛や瀬戸内の旬の野菜を使った朝食を楽しむ「お城で朝食」といった多彩な企画も実施。こうした「歴史的建造物を活用した観光まちづくり」が評価され、2021年度の「グッドデザイン賞」を受賞している。
 このように、「分散型ホテル」というコンセプトにおいて、城郭は中核拠点として必要不可欠なものとなっている。
 本場イタリアでは、「アルベルゴ・ディフーゾ」から、さらに「オスピタリタ・ディフーザ」というコンセプトが派生した。これは、それぞれ経営が別の事業者であっても一つの組織として連携し、地域全体が一体となって宿泊やその他のサービスを提供して集落再生を目指す仕組み。日本各地の城郭もやがてその中心的役割を担うことになるだろう。
(続く)

天野久樹(あまの・ひさき):1961年生まれ。早大卒。全国紙記者、旅行雑誌編集部などでの経験を生かし、ルポライター、翻訳家を務める。著書に『浜松オートバイ物語』(郷土出版社)、訳書に『アイルトン・セナ 確信犯』(三栄書房)。

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記事提供元:タビリス