オートノマス・アーキテクチャーAutonomousArchitecture(自律建築) 「希望のコミューン 新・都市の論理」より(2)

ジョルダン


希望のコミューン 新・都市の論理

本記事は9月25日に出版された「希望のコミューン 新・都市の論理(著:布野修司, 森民夫, 佐藤俊和)」の内容を抜粋したものです。

オートノマス・アーキテクチャーAutonomousArchitecture(自律建築)

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量の約30%は、産業界(重工業)に由来するが、その70%は鉄、セメント、石化製品の製造によって排出される。鉄の生産にかかるCO2排出量は、主に鉱石を還元する際の燃料の燃焼によるもので、世界のCO2排出量の約7%、コンクリートの生産にかかるCO2排出量は、セメント製造プロセスでの燃料の燃焼、原料の石灰石の加熱、そして輸送によるもので約8%、ガラスの生産にかかるCO2排出量は、主に原料の石灰石、ソーダ灰、および燃料の燃焼によるもので約1%である。鉄そしてセメント、ガラスは、現代建築の基本材料である。地球環境問題は建築の存在基盤を根底から揺さぶっているのである。建築についての指針ははっきりしている。目指すべきは、オートノマス・アーキテクチャー(自律建築)である。

オフ・ザ・グリッド

オフ・ザ・グリッドという概念もわかりやすい。すなわち、電気、ガス、水、廃棄物処理など全て遠隔のインフラストラクチャーに頼らない建築、地域で生活に必要なものを循環させる建築である。
日本でいう「環境共生建築(エコ・サイクル・アーキテクチャー)」も、環境との循環系を強調する意味ではわかりやすい。地域の生態系に基づく建築である。要するに、ヴァナキュラー建築の現代的再生である。そんな建築は可能なのか? などという余裕はない。可能な限り一定の地域において循環系を再生させることは最優先すべき指針である。木造建築の木材の植林│伐採│利用・再利用という循環系を再生していくこともわかりやすい指針であるが、建築の維持管理のためのエネルギー循環も大きな課題である。

パッシブ・デザイン

大規模な機械的(アクティブ)手法を用いずに太陽エネルギーや風力などの自然エネルギーを建築の設計の中に活かすことによって、化石燃料の消費をできるだけ抑えるパッシブ・デザインの手法は、今では広く共有されているといっていい。アメリカの建築家フロリダ大学のA・バウエン教授によって提唱されたPLEA(PassiveandLowEnergyArchitectur65 e)という建築家・研究者の国際ネットワークが組織されたのは1982年である。以降、ほぼ毎年1回、世界各地で会議を開いてきている。日本でも、奈良で第7回会議「脱工業化時代の地球環境と建築」(1989)、釧路で第14回「持続可能なコミュニティと建築:寒冷地における生物気候デザイン」(1997)が開かれた。筆者はこの釧路会議にPLEA会議の理事を務めていた小玉祐一郎とともに参加する機会を得たが、その時の議論の結果、今後圧倒的な人口増加が予測される熱帯地域におけるPLEAのモデルが必要ではないかということで建設することになったのが「スラバヤ・エコハウス」である。
「スラバヤ・エコハウス」のパッシブ・デザインの手法の主要な要素技術は、①水平・垂直(煙突効果利用)の通風を可能にするポーラス(多孔)なプランニング、②断熱のための二重屋根、大屋根・庇の採用、③地域産材としての椰子の繊維の断熱材利用、④井戸水循環の輻射床冷房の採用、⑤エネルギー源としてのソーラー・バッテリーの導入などである。

グリーン・ウォッシュ建築

警戒すべきは、グリーン・ウォッシュ建築である。グリーン・ウォッシュとは、気候変動の重大性を認識しながら、それを糊塗(ウォッシュ)し、あたかも温室効果ガスを抑制することをうたいながら、化石燃料を使い続けることをいう。世に蔓延るのは、木材をぺたぺた貼るだけ、樹木で覆うだけで、エコ・アーキテクチャーをうたうグリーン・ウォッシュ(「グリーン」で糊塗する)建築である。「カーボンオフセット」や「気候補償」のような用語は放棄しよう、とトゥーンベリは言う。SDGsにしても、それを謳う政府や企業がそういう行動をとっているとは限らない。斎藤幸平(2020)は、「SDGsは「大衆のアヘン」である!」という。
「温暖化対策として、あなたは、なにかしているだろうか。レジ袋削減のために、エコバッグを買った? ペットボトル入り飲料を買わないようにマイボトルを持ち歩いている? 車をハイブリッドカーにした? はっきり言おう。その善意だけなら無意味に終わる。それどころか、その善意は有害でさえある」とまでいうのだ。そして、政府や企業がSDGsの行動指針をいくつかなぞったところで、気候変動は止められない、SDGsはアリバイ作りのようなものであり、目下の危機から目を背けさせる効果しかない、というのである。
グリーン・アーキテクト(緑の建築家)という言葉が既にある。例えば、ポンピドー・センター、関西国際空港旅客ターミナルで知られるイタリアの建築家レンゾ・ピアノ(1937〜)は、屋上にマウンド形の芝を植えたカリフォルニア科学アカデミー(2008)によってそう呼ばれる。しかし、ピアノは続いてロンドンにシャード・ロンドン・ブリッジ(2012)という超高層(地上87階建て、尖塔高310m)を建てており、その名に値するかどうかは疑問である。彼は、丸の内の皇居前、1960年代に「美観論争」の対象となった「東京海上日動ビルディング(東京海上火災ビル)」を(可能な限り)木造の超高層として建替える建築家に選ばれている。果たして、オートノマスな超高層建築が可能なのか。
また、ミラノに全体を樹木で覆うかのような「垂直の森VoscoVerticale」(アパートメントホテル)と呼ばれる高層住宅(2014)を設計したのはステファノ・ボエリ(1956〜)である。2棟は高さ80mと112mのタワーマンションであるが、約2万本の樹木で覆われる。十数種数百羽の鳥が住む。この2棟で年30トンの二酸化炭素を吸収し、19トンの酸素を排出するという。「垂直の森」は、世界中でひとつの流れとなりつつあるかのようであるが、壮大な失敗事例となったのが、蚊や昆虫が大量発生、建設と同時に廃墟と化した中国成都の「森林城」(30階建8棟、計826戸)(2020)である。
しかしいずれにせよ、建築のライフサイクル(建設・維持管理・解体)の全体において二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)の削減につながっているかどうかが問題である。
ゼロエネルギー・ビルディング、ゼロエネルギー住宅ZEH(NetZeroEnergyHous66 e)というけれど、基本的に建設そして解体にかかるエネルギーが考慮されていない場合がほとんどである。繰り返せば、地球環境問題は個別の建築の断熱性能やエネルギーの効率的制御による省エネルギーのレベルにあるわけではない。重要なのは住宅の建設・使用・解体の全過程における地球温暖化ガスの排出量削減であり、再生可能エネルギーを最大化していく方向である。


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記事提供元:タビリス