「家賃だけでお店が持てる」! 夢を叶えた3人のユニーク賃貸暮らし

SUUMOジャーナル

コロナ禍の影響で、副業や、テレワークが普及しつつある昨今、住まいと職場がともにある“職住融合”な暮らしに興味を持つ人も多いのではないでしょうか。今回は、住まいの中にお店も持てる賃貸物件「ナリ間ノワプロジェクト 欅の音terrace」(東京都練馬区)でお店を始めた3人にインタビュー。別にも仕事を持ちながら、本業や副業として夢を叶えた、その暮らしぶりを拝見しました。

自分の店を持ちたい! ゆる~く夢を叶えた「はと工房。」 

東京都練馬区の住宅街の一角に建つ「ナリ間ノワプロジェクト 欅の音terrace」(以下、欅の音terrace)は、住まいと生業(商い)が一体となった職住融合の住まいです。かつて日本の住まいでよく見られた軒先が店舗、奥が住居という暮らし方を現代版にアップデートし、築38年の鉄骨造2階建てアパートを、2018年、リノベーションして誕生しました。1階は店舗兼住宅の「しっかりナリワイ」、2階は商品を飾れるディスプレイ窓のある「ちょこっとナリワイ」の全13戸。よりお店感が強い1階、不定期で営業する店舗やギャラリーがある2階というとイメージがつかめるかもしれません。

店舗兼住宅の「しっかりナリワイ」の1階の間取り。軒先が店舗、奥が住居。画像提供/つばめ舎建築設計)

店舗兼住宅の「しっかりナリワイ」の1階の間取り。軒先が店舗、奥が住居。画像提供/つばめ舎建築設計)

商品を飾れるディスプレイ窓のある「ちょこっとナリワイ」の2階の間取り(画像提供/つばめ舎建築設計)

商品を飾れるディスプレイ窓のある「ちょこっとナリワイ」の2階の間取り(画像提供/つばめ舎建築設計)

まず1階の「はと工房。」さんを訪れてみました。フェルトでつくったバッジやヘアゴム、雑貨などを販売しているほか、クリームソーダやこどもアイス、コーヒーやホットサンドなどの軽食もあり、子どもも大人もうれしい雑貨屋さんです。近所にあったらぜったいうれしい、こんなお店……。

見るからに楽しそうな店構えの「はと工房。」さん(写真撮影/片山貴博)

見るからに楽しそうな店構えの「はと工房。」さん(写真撮影/片山貴博)

ユーモアたっぷり手芸作品が並んでいます(写真撮影/片山貴博)

ユーモアたっぷり手芸作品が並んでいます(写真撮影/片山貴博)

クリームソーダは300円。めっちゃかわいい(写真撮影/片山貴博)

クリームソーダは300円。めっちゃかわいい(写真撮影/片山貴博)

「もともと手芸をずっとやってきていて作品をイベントやネットで販売をしていたんですが、どうしてもお店がやりたくて。でも、お店を持つのはお金も手間もかかる。それに私はとても面倒くさがり屋だから、出勤したくなくなると思っていたんです。そんなときに、店舗+住居というものがあると知ったんです。これなら家だから面倒くさくならないし!かかるのは家賃だけだし!と思ってはじめました。賃貸だから、成り立たなかったら引越せばいい!って。最初は自分の好きな街から動きたくなかったんですが、いざ引越してきたら『まあ楽しい!!!』と思いながら生活しています」と、はと工房。店主(30代女性)は話します。

お店のディスプレイも手づくり(写真撮影/片山貴博)

お店のディスプレイも手づくり(写真撮影/片山貴博)

店内の天井にはカラーボールが250個も吊るしてあります(写真撮影/片山貴博)

店内の天井にはカラーボールが250個も吊るしてあります(写真撮影/片山貴博)

長年の夢である「お店」を叶えた店主(写真撮影/片山貴博)

長年の夢である「お店」を叶えた店主(写真撮影/片山貴博)

始まる前から「家とお店が別だと出勤したくなくなる」や「成り立たなかったら引越せばいい」などと、考えるあたりがとてもリアルです!! 引越してからの一番の変化は、“ご近所づきあい”だとか。

「東京での一人暮らしだと、ご近所づきあいはほとんどないですよね。ここの欅の音terraceは入居1カ月後のタイミングで入居者が集まる食事会があって、みんなでご飯を食べてすぐになじみました。コロナが流行する前は、共同のシェアスペースでたこ焼きとか、チーズフォンデュとか、焼き肉とか、プロジェクターでライブ映像を観たりといったゆるいパーティーを毎週のようにしている感じです。飲んで帰ってきて、10秒で家に着けるってサイコーじゃないですか。友だちと仲良くなって一緒に暮らしている感じです。一人になりたいときは家にいればいいだけなので、気が楽です」

(写真提供/はと工房。)

(写真提供/はと工房。)

ああ、大人が夢を叶え、のびやかに暮らしているってそれだけで楽しそうでいいですね。人間関係が重くなく心地よいのが、やはり一番なのかもしれません。こうした職住融合の住まい、楽しそうですが、向いていない人はいるのでしょうか。

「仕事と暮らしのオン・オフを入れたいという人は向かないと思います。あと、駄菓子を販売していて思ったのですが、ほとんど利益が出ない(笑)。家賃などはもう一つの別の仕事でまかなっている感じです」といい、二足三足のわらじを履いていることがメリットになっている様子。とにかく無理せず、力まず、やりたい延長上で商いを始めてみる。「はと工房。」さんはそんな暮らしをしているようです。

自分やつくり手のペースで暮らしを彩るものを届けたい「ちゃらっぽこ」

次に訪れたのは2階にある「ちゃらっぽこ」さんです。こちらは日本各地の暮らしの雑貨を集めたお店で、器や染織物などが並んでいます。アート作品もよいですが、日々使うもの、暮らしから生まれた手仕事の品って、本当に心を豊かにしますよね。店舗は2019年に誕生し、現在は不定期で営業中。オープン日は看板が下がっているので、ひと目で分かるようになっています。でも、なぜ今、リアルな店舗なのでしょうか。

2階で「ちょこっとナリワイ」を営む「ちゃらっぽこ」さん。お店にならぶ商品も店主も「素敵」のひとことです(写真撮影/片山貴博)

2階で「ちょこっとナリワイ」を営む「ちゃらっぽこ」さん。お店にならぶ商品も店主も「素敵」のひとことです(写真撮影/片山貴博)

「もともとネットで店舗を構えていて、商品を実物で見たい、話を聞いてみたいという声を多くちょうだいしていました。どこかで実店舗をできたらいいなというときに、ここを知り、自分のペースで営業している感じです。実店舗という固定したくくりではなく、アトリエショップとして、あくまでも自分のペースとつくり手の製作ペースに合わせて営業できることが一番の魅力です」と話します。

「はと工房。」さんも言っていましたが、ここでかかるのは家賃のみです。固定費を最低限に抑えられることで、自分やつくり手のペースで商いができるというのは、大きなメリットといえるでしょう。もう一つ、暮らしの品を扱っていることならではの良さもあるようです。

ひとつずつ表情の異なる手編みのかご(写真撮影/片山貴博)

ひとつずつ表情の異なる手編みのかご(写真撮影/片山貴博)

店主の私物のこけしさんも愛らしい!(写真撮影/片山貴博)

店主の私物のこけしさんも愛らしい!(写真撮影/片山貴博)

「商品は基本的に自分で使ってみて、体感してから販売しています。だから、実際に自分が使用しているものの経年変化や使い方、シチュエーションなど、すぐにお客様の目の前で提案できるのは強みですね。店舗と同じ空間に私物や生活のものを取り入れることで、自分自身が心地よく過ごすことができます」

作家・ツキゾエハルさんのヘリンボーン スープマグは大きめのサイズで、具だくさんスープやたっぷりカフェオレなどを楽しむのにぴったり(写真提供/ちゃらっぽこ)

作家・ツキゾエハルさんのヘリンボーン スープマグは大きめのサイズで、具だくさんスープやたっぷりカフェオレなどを楽しむのにぴったり(写真提供/ちゃらっぽこ)

看板は店主お手製(写真提供/ちゃらっぽこ)

看板は店主お手製(写真提供/ちゃらっぽこ)

確かに店舗とはいえ、お部屋にお邪魔したような心地よさ、マネしたくなるようなセンスのよさ。インテリアとも一体になっているのは、扱っている商品の特性にも合っているのでしょう。また、コロナ禍以前では、全戸が一体となって地元の住民の方に喜んでもらえるようなイベントなどを企画するなど、集客力も高められるのも、魅力として感じていたそう。

一方で、注意点として教えてくれたのは、「はと工房。」さんと同様に、オン・オフの切り替えがつきにくいこと、決めごとや他の住居への配慮が必要となる点でした。集合住宅では、ほどよい温度感を保つための配慮は大なり小なり、必要なもの。ここでは住人同士、顔が見えるからこそ、より大切にしたいと思うのかもしれません。

“住み開き”を実践し、本を届ける「tsugubooks」

最後に訪れたのは、「個人で本をお届けする活動」をしている「tsugubooks」さん。そういえば、以前取材をした「読む団地」の選書にも携わっていらっしゃいました。 現在は新型コロナウイルスの影響もあり、自宅の一部を開ける活動を行っていませんが、もともとカフェや美容院の本棚を間借りし本を販売する「間借り本屋」をしていて、「欅の音terrace」は自宅の一部が、ちいさな本屋さんになっています。

本が並んでいるお部屋が目印ギャラリーのよう(写真撮影/片山貴博)

本が並んでいるお部屋が目印ギャラリーのよう(写真撮影/片山貴博)

背表紙を見ているだけでも楽しいですよね、本って(写真撮影/片山貴博)

背表紙を見ているだけでも楽しいですよね、本って(写真撮影/片山貴博)

今回は、取材で本屋さんにおじゃましましたが、ずらりとならんだ本を見ると、やっぱりいいなって思います。「tsugubooks」さんは「住み開き」を実践したいという思いでここで暮らすことになりました。でも、なぜ住み開きだったのでしょうか。

「社会人として働くようになって、一人暮らしをすると、家と会社との往復で地域とまったく接点を持たないんですよね。これじゃ良くないと思っていたところ、自宅の一部を開放して地域と交流する『住み開き』を知って、実践してみたくて。清澄白河に住んでいたころはオートロックの物件で自宅を地域に開けなかったので、カフェの本棚を借りて『間借り本屋』をしていました。この物件を知って、私が暮らしたかったのはココだ! と引越してくることにしました。住人同士も仲良く、今は漫画の貸し借りが流行っているんですよ(笑)」

同年代の女性が多いということもあり、まるで学校のような伸びやな環境で暮らしているとのこと。個人的には住み開きというと、とても活発な人・アクティブな人という先入観があったのですが、「tsugubooks」さんは、おだやかで、はじめましてですがここにいても良いよ、受け入れるよ、という優しい空気で迎えてくれました。

本棚の反対側の壁はキッチンになっています(写真撮影/片山貴博)

本棚の反対側の壁はキッチンになっています(写真撮影/片山貴博)

お店からは見えないようになっている居住スペース(写真撮影/片山貴博)

お店からは見えないようになっている居住スペース(写真撮影/片山貴博)

「商いと住まいが一体というと、特別な印象はあるかもしれませんが、それらは別々のものではないと思うんです。いいなと思う本を置いてみる。それを“いいね”と受け取ってくれる地域の人たちがいる。そうすると、こんな本も好きかも?とその人たちを思い浮かべて選書する。その繰り返しです。
本屋という商いをしているけど、自分だけなら出合えなかった本や物事を知ることができて、世界が少しずつ広がっている気がします。自身の本棚も住まいも少しずつ変わってきて豊かになっているのを感じます。商いと住まいはつながっているんです」(tsugubooks)さん。

「本も面白いけど、お客さんから聴くその本の感想がもっと面白いんです」tsugubooksさん(写真撮影/片山貴博)

「本も面白いけど、お客さんから聴くその本の感想がもっと面白いんです」tsugubooksさん(写真撮影/片山貴博)

なるほど、お店といっても暮らしと切り離されたものではなく、どちらも“自分”の延長にあると思うと、とても自然な流れなのかもしれません。

今回、ご登場いただいた3人は別にも仕事を持っており、本業、あるいは副業として“生業、商い”を成立させていますが、三者三様、魅力的な暮らし方・生き方をされています。また、本来、生きることと働くことに境目はなかったことを再発見しました。欅の音terraceは、練馬で後続のプロジェクトが予定されています。そこではどんな暮らしが実現して、どんな才能が花開くのか。今から楽しみで仕方がありません。

庭にはたくさんのみかんがなっていて、入居者におすそわけも(写真撮影/片山貴博)

庭にはたくさんのみかんがなっていて、入居者におすそわけも(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
ナリ間ノワプロジェクト 欅の音terrace

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記事提供元:タビリス