クラファン・DIYで国際基準のサッカー場が誕生! 民設民営「みんなの鳩サブレースタジアム」で地域はどう変わった? 鎌倉

SUUMOジャーナル

2021年10月、湘南モノレール湘南深沢駅前に観客席200席の人工芝スタジアムが誕生しました。その名も「みんなの鳩サブレースタジアム」。神奈川県社会人リーグに所属する鎌倉インターナショナルFCの本拠地ですが、サッカーに限らず、さまざまなイベントが行われたり、周辺のお子さんや高齢者が散歩に訪れたりと、地域の人たちの憩いの場所にもなっています。このスタジアム、なんと補助金などの公的資金が一切入っていない完全なる民設民営、有志によるDIYなのです。スタジアムができたワケ、地域にもたらす影響を取材しました。

国際基準のサッカーコート。フットサルやヨガの場所としても

「みんなの鳩サブレースタジアム」があるのは、神奈川県鎌倉市の湘南モノレール湘南深沢駅を降りてすぐの場所。広大な土地の一角に人工芝が敷かれ、照明とネットが設置された国際基準サイズのサッカー場です。サッカーチーム「鎌倉インターナショナルFC」のホームスタジアムとして週末にホームゲームが行われているほか、少年サッカー大会やグラウンドゴルフ、フラ、ヨガ教室が行われたり、ときには保育園の子どもたちへ無料開放されているといいます。

湘南モノレール湘南深沢駅から「鳩スタ」をのぞみます(写真提供/Kazuki Okamoto(ONELIFE))

湘南モノレール湘南深沢駅から「鳩スタ」をのぞみます(写真提供/Kazuki Okamoto(ONELIFE))

手づくり感はありつつ、デザインが洗練されていてスマートに見えます(写真提供/DAN IMAI)

手づくり感はありつつ、デザインが洗練されていてスマートに見えます(写真提供/DAN IMAI)

無料開放時の様子。屋外+芝生ってほんとうに気持ちがいいですね(写真提供/マルサ写真)

無料開放時の様子。屋外+芝生ってほんとうに気持ちがいいですね(写真提供/マルサ写真)

「『みんなの鳩サブレースタジアム』という名前がついているので、鳩サブレーで有名な豊島屋さんが運営していると思われることもあるんですが、豊島屋さんにはネーミングライツを買っていただいて、スポンサーとして支援していただいています。スタジアム自体は、自分たちでつくったスタジアムなんですよ」と話すのは鎌倉インターナショナルFCで代表を務める四方健太郎さん。現在はシンガポール在住で海外研修事業を営む企業を経営しつつ、鎌倉にサッカークラブとスタジアムをつくろうと呼びかけた、仕掛け人です。四方健太郎さんは横浜市出身、縁あってインターナショナルなサッカークラブをつくりたいと思いたち、鎌倉インターナショナルFCを創設。さらに、スタジアムまでつくってしまった行動の人です。

スタジアムが誕生したのは昨年10月ですが、1年間での来場者数は約20万人を超えるなど、1年で多くの人が集う場所になりました。広い場所、なかでも芝生がある場所というのは心躍るもの。子どもたちは自然と走り出し、ゴルフで腕をならした高齢者も昔を思い出して、元気に運動をするようになるのだとか。四方さんは、この光景を見て「芝生で子どもたちが走りまわったり、おじいちゃん・おばあちゃんたちと遊んだりする光景って無条件に正義だなって、これがDNAなんだなって感動した」と話します。

「今年8月には手づくりで、『みんなの「TRY!」でつくる「鳩スタ祭」』というイベントを開催しました。キッチンカー5台に出店してもらったほか、くじ引きやチアリーディング、キッズボール体験、音楽ライブを行いました。来場人数も読めないし、何をやったらいいか手探りのなかでしたが、1日で2000人以上が来場するなど大盛り上がりでした。まだ1年足らずですが、地域のみなさんに愛される場所になりつつあるなあと思いました」といいます。

今年、夏に実施された鳩スタ祭の様子。定番になっていくといいな……(写真提供/マルサ写真)

今年、夏に実施された鳩スタ祭の様子。定番になっていくといいな……(写真提供/マルサ写真)

立ちはだかったのは資金難、そして地域を守る条例……

「天然の要塞」ともいわれる鎌倉は海と山に挟まれ、平坦な土地が少ない地勢です。そのためスポーツ環境に乏しいほか、現代的なスポーツ施設は鎌倉の街並みにふさわしくない、という意見があるといいます。また鎌倉市中心部とはやや離れた湘南モノレール沿線は、住宅街や工場も多いエリアです。湘南深沢駅前には広大な土地が広がっていますが、実はこの場所、再開発事業が持ち上がっては立ち消えて現在に至るという、いわゆる“ワケありの場所”。そもそも、どうしてこうした難ありな「鎌倉」にスタジアムをつくろうと思ったのでしょうか。

湘南深沢駅徒歩すぐ。駅前一等地にあります(写真撮影/嘉屋恭子)

湘南深沢駅徒歩すぐ。駅前一等地にあります(写真撮影/嘉屋恭子)

「鎌倉インターナショナルFCというサッカーチームをつくったのは約5年前。大企業のような後ろ盾もない社会人クラブチームとしては当然ながら、自分たちのホームグラウンドなどありません。常識から考えればスタジアムをつくろうなんて発想にはならないんですが、『スタジアムのような“場”ができたら、潮目が変わるよね』とずっと考えていたんです」と四方さん。

「今、私が暮らしているシンガポールには、『アワー・タンピネス・ハブ』というスタジアムやプール、アリーナ、商業施設、行政機関などが入った複合施設があるんです。アワーハブ(Our hub)、つまりみんなの中核ということなんですが、スポーツだけでなく多くの人が集まる場所っていいなと思っていて。みんなが集える場所がほしい、スタジアムがあったら地域が変わると感じ、『みんなのスタジアム』を思い描いたんです」と話します。

みんなのスタジアム構想のもとになったアワー・タンピネス・ハブ(写真提供/鎌倉インターナショナルFC)

みんなのスタジアム構想のもとになったアワー・タンピネス・ハブ(写真提供/鎌倉インターナショナルFC)

「スタジアムができたら“何か”が動き出す」と、失礼を承知でいえば、「あったらいいな」という「ぼんやりとした夢」だったわけですが、この突飛子もない発想が、鎌倉やスポーツを愛する多くの人を巻き込んでいきます。

ただ、スタジアムをつくるといっても、何から何まで課題だらけ。特に資金、土地の契約、そして鎌倉市特有の条例、この3つが大きく立ちはだかったといいます。

「スタジアムをつくる仲間として、鎌倉出身でまちづくりプロジェクトの経験がある堀米剛が加わり、一般社団法人鎌倉スポーツコミッションを設立。二人で金融機関をまわって約1億円の資金集めに奔走しましたが、当然ながら融資はおりませんでした。ただ、鎌倉在住の投資家の方からの申し出があったり、1口3万円のクラウドファンディングで3000万円を達成したことにより、『スタジアムができたらいいな』が『本当にできる!』に風向きが変わっていきました」といいます。

堀米さんという、地域の実情を知っていて、なおかつまちづくりに知見がある仲間が増えたことで、地権者との契約、行政との条例の折衝などもひとつずつ進展。コロナ禍もあり、なかなか工事も進みませんでしたが、2021年に着工、同年10月にお披露目となりました。かかった総工費は1億8800万円、ほかにもスポンサーや基金を活用して、行政からの補助金や金融機関の融資に頼らない、日本で唯一の『民設民営』がスタジアム完成しました。

草刈りの様子。ほんとにみんなでつくったんですね……(写真提供/マルサ写真)

草刈りの様子。ほんとにみんなでつくったんですね……(写真提供/マルサ写真)

鎌倉のスタジアムから、日本の閉塞感を打破したい

「スタジアムは低予算でつくったので、あちこち手づくり感満載です(笑)。芝刈りや土地の整備などはできるところは自分たちでやりました。人工芝にはゴムチップが撒いてあるところが多いんですが、健康や環境への負荷を考えて砂に。受付などはグランピングで使われるドーム型テントを配置しました。利用者からはトイレがきれいだと言われることが多いんですが、練習後に選手たちが掃除をしたり、練習のない日は地元の企業に清掃に入ってもらっているんですよ」と四方さん。

人工芝を敷設しているところ。人工芝ってこうやって敷くんだ……(写真提供/鎌倉インターナショナルFC)

人工芝を敷設しているところ。人工芝ってこうやって敷くんだ……(写真提供/鎌倉インターナショナルFC)

現在はスタジアム利用料、スポンサー料、イベント開催時の入場料、グッズの売上など、あの手この手で稼ぎ、なんとか自走するかたちになったそう。クラブトークンも発行しています。

観客席は200席ほど。筆者が観戦した日は雨天でしたが、40名ほどのファン・サポーターが観戦していました(写真提供/マルサ写真)

観客席は200席ほど。筆者が観戦した日は雨天でしたが、40名ほどのファン・サポーターが観戦していました(写真提供/マルサ写真)

勝った試合のあとは写真撮影。ファンと距離が近いのも魅力です。みんなのスタジアム・みんなのサッカークラブ!(写真提供/マルサ写真)

勝った試合のあとは写真撮影。ファンと距離が近いのも魅力です。みんなのスタジアム・みんなのサッカークラブ!(写真提供/マルサ写真)

「スタジアムの完成から1年、蓋を開けてみればみなさんが喜んでくれて、『スポーツで地域をつなげる場所』になりつつあります。試合を観に来た方たちが毎週会ううちに顔見知りになって一緒に応援するようになったり、シニア向け健康教室に参加していた人と保育園の子どもたちが交流したりなど、鳩スタならではの風景はやっぱり胸にこみ上げるものがあります。でも、人って慣れてくると、サッカーしてBBQしておしゃべりして、が当たり前になってきつつあるんです。いままでは全然ありえなかった光景なんですけどね」と笑います。

コロナ禍であらためて見直されたのが、地域や会社での雑談や井戸端会議ではないでしょうか。用はなくてもおしゃべりすることで、ストレス解消になったり、発見や気付きがあったり。このところ話題になる「独身おじさん友だちいない問題」「中高年孤独問題」ではないですが、地域のなんとなくゆるいつながりがほしいなと思った人は多かったことでしょう。

「やっぱり誰かに会える場所、用がなくても来られる場所って大事なんじゃないでしょうか。スポーツ観戦しているとなんとなく一体感も味わえるし。隣の人とハイタッチしたりとかね。うれしいハプニングというか、何かが起きるワクワク、場があることが大事なんだと思います」(四方さん)

観覧席からの選手が近く、迫力満点。サッカー観戦に慣れていても、びっくりします(写真提供/DAN IMAI)

観覧席からの選手が近く、迫力満点。サッカー観戦に慣れていても、びっくりします(写真提供/DAN IMAI)

10月10日には、「鳩スタ1周年感謝祭」も実施し、集える場所・地域コミュニティとして、早くもフル活用されつつあります。ただ、この事業自体は、将来的に鎌倉市役所移転など本開発がスタートするまでの「暫定利用」のため、今後、スタジアムとして存続できるかどうなるかは不明瞭です。

「将来のことは見通しが立たない部分もありますが、まずは期限まで『地域で必要な場所』にしようと。ここはね、『やってみよう!』を叶える場所にしたいんです。今、日本社会全体が『どうせやれっこない……』『誰が責任とるの……』と消極的になりがちです。鎌倉からこの閉塞感を変えていきたい。日本のどこを探してもなかなか見つからない民設民営のスタジアムができたんです。チャレンジすればできるじゃん、失敗したってまた立ち上がればいい、そんな発信ができたら最高ですね」と四方さん。

四方さんや鎌倉インテルが今、発信しているのは、スタジアムという「場」の良さだけでなく、閉塞感を打破しよう、やればできるという「気骨」なのかもしれません。

●取材協力
みんなの鳩サブレースタジアム
鎌倉インターナショナルFC

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記事提供元:タビリス