コロナ禍で住まい失ったシングルマザーを支えたい! 入居・生活支援で貧困の連鎖断ち切る「LivEQuality HUB」の挑戦 名古屋

SUUMOジャーナル

コロナ禍における女性の非正規雇用の大幅減少の影響は、シングルマザーの経済的困窮を招き、最後の砦だった“住まい”を手放さなければならない人が増えました。さらにそこから始まる子どもへの貧困の連鎖。この連鎖を断ち切るために、母子家庭を対象とした、住まい探しから入居・生活支援までを行っているのが、NPO法人LivEQuality HUB(リブクオリティ ハブ)です。その立ち上げの経緯や、支援活動への思いなどを取材しました。

貧困へのスパイラルを断ち切るには、まず“住まい”から

緊急事態宣言が発出された2020年4月、前月に比べて就業者数が大幅に減少したことは、世の中に大きな影響を与えました(男女共同参画白書平成30年版より)。特に飲食サービス業や娯楽業などの非正規雇用への打撃は深刻。シングルマザーのうち半数近く(※)は非正規雇用で、彼女たちの75.4%が「経済的なゆとりがない」と回答。厳しい生活環境を強いられている現実が明らかになっています(日本労働組合総連合会「非正規雇用で働く女性に関する調査2022」より)。

※「パート・アルバイト等」43.8%(厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」)

このような社会情勢を背景に2022年1月26日、まさにコロナ禍での立ち上げとなったNPO法人LivEQuality HUB。“暮らしを豊かにするネットワーク”という意味を持つ法人名で、シングルマザーの支援が主な活動です。小さな子どもがいて頼れる人がいない。住まいも仕事もない。これが子どもの貧困への負の連鎖の始まりです。その連鎖を断ち切るにはまず「住まい」が必要だと考えたのが、代表の岡本拓也さんです。

NPO法人LivEQuality HUB 代表 岡本拓也さん。公認会計士の資格を持ち、企業再生アドバイザリーとして活躍後、複数のNPO法人で理事や事務局長を歴任。2018年より父が経営していた建設会社の代表取締役に就任。2022年LivEQuality HUBを設立(画像提供/LivEQuality HUB)

NPO法人LivEQuality HUB 代表 岡本拓也さん。公認会計士の資格を持ち、企業再生アドバイザリーとして活躍後、複数のNPO法人で理事や事務局長を歴任。2018年より父が経営していた建設会社の代表取締役に就任。2022年LivEQuality HUBを設立(画像提供/LivEQuality HUB)

「先に仕事を見つけるべき、という考えもありますが、この負のスパイラルを断ち切るためには、まず住まいじゃないかと思うんです。住まいがないと行政からの支援を受けるための書類や、仕事を探すための履歴書に記載する住所が書けません。支援も仕事もないとなると、大家さんとしては、家賃滞納などのリスクを負いたくないと考え、部屋の貸ししぶりが起きるのです。だからこそ、まずはシングルマザーの住まい探しから活動を始めました」(岡本さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

偶然は必然。異業界とのつながりが活動の軸を支えることに

岡本さんに転機が訪れたのは39歳の時。名古屋市内で建設会社を営んでいた父が急逝。父にとって家族同然だった30名の社員を路頭に迷わせるわけにはいかないと、父の跡を継ぐことになりました。岡本さんにとっては、これまでまったく関わりのなかった建設業界。引き継いだ後の事業運営に関しても、かなり悩んだと言います。

「あれこれ迷いながら手探りでやっていましたが、結局は自分がやりたい軸は変わらず、社会に貢献していくということこそが、自分の人生の本分だとわかりました。建設会社だからこそ、貧困問題に対して私にできることがあるんじゃないかと思い、立ち上げたのがLivEQuality HUBです。

名古屋市内に66室の自社物件を持っており、修繕も可能なため、いつでも快適に住める環境を提供できるんです。この部屋を離婚前や外国籍のシングルマザーに使ってもらい、サポートしていくことを決めました。家賃は、入居者によって異なります。収入によっては通常の家賃で入っていただいている人もいますが、いくらまで家賃を下げれば親子で食べていけるかを細かく計算して決めています。自社物件を持っているからこそできることで、最大の強みです」(岡本さん)

岡本さんが社長を務める建設会社の自社物件。名古屋市内でも利便性のいい場所にあり、母子家庭が住みやすい好条件がそろう(画像提供/LivEQuality HUB)

岡本さんが社長を務める建設会社の自社物件。名古屋市内でも利便性のいい場所にあり、母子家庭が住みやすい好条件がそろう(画像提供/LivEQuality HUB)

部屋の一例(画像提供/LivEQuality HUB)

部屋の一例(画像提供/LivEQuality HUB)

住まいだけではダメ。生きていくための“つながり”を重視

住まいさえあれば安心して生活できるわけではありません。例えばDVなどで他県から逃げてきた方は、地域とのつながりがまったくない場所に住むことになります。住まいはあっても、その後に孤立してしまう。誰かが“伴走”してあげることが大事になります。LivEQuality HUBでは、この伴走の役割を担っています。住居というハード面は建設会社で確保し、その後のソフト面はLivEQuality HUBで支援する、ハイブリッドな組織体制とチームをつくり上げました。

「“お節介の循環”をつくるのが私たちの役目なんです。まずは住まいを確保することが大事ですが、そこから地域とのつながりをつくっていくことがさらに重要になります。孤独な育児は結局貧困に陥り、ひいては虐待につながるというのが現状なんです。

知らない土地に引っ越ししてきても、私たちNPOの仲間を通じて、自分に必要なつながりをつくる支援団体や、地域の人とつながっていくきっかけになれればと思っています。ただ雨露をしのげればよいというものではないですからね」(岡本さん)

支援を必要とするシングルマザーが地域とのつながりを持てるよう、丁寧なヒアリングを行い、課題の解決への道を一緒に探っていく(画像提供/LivEQuality HUB)

支援を必要とするシングルマザーが地域とのつながりを持てるよう、丁寧なヒアリングを行い、課題の解決への道を一緒に探っていく(画像提供/LivEQuality HUB)

コレクティブインパクト勉強会時の様子(画像提供/LivEQuality HUB)

コレクティブインパクト勉強会時の様子(画像提供/LivEQuality HUB)

本当の意味での自立サポートとは?本人の前向きな意欲を引き出す

岡本さんたちの活動には、行政との二人三脚が必要になります。ただ日本の法律上、離婚が成立しているか否かで利用できる制度が異なります。扶養手当をもらうにしても、ひとり親家庭支援を受けるにしても、離婚が成立していることが前提です。離婚成立まで伴走し、成立後に使える制度があれば、本人に申し込んでもらう。その背中を押すのが岡本さんたちの役目なのです。

「行政はあくまでも情報を提供するのみ。私たちが、こういう制度だったらこんな時にありがたいよね、だから申し込んでみましょう、と具体的に話を進めながら、シングルマザーの方が利用してみよう!と思うまで、背中を押しています」(岡本さん)

「外国籍のお母さんの場合は、状況を通訳してあげることも重要です。本人が日本語を話せないことで精神的に不安定になると、自分の状況を整理して説明することが難しい場合もありますから。そんなときには行政に同行して説明しています。日本語の話せない外国籍のお母さんが、お子さんの小学校の入学説明会で渡されたのは日本語の資料でした。結局何を準備すればいいのかわからない。私たちは一緒に学校に行き、教務主任の先生からもう一度説明を聞いて、お母さんと一緒にショッピングモールに行って、必要なものを買いそろえました。伴走支援です。
学校にも日本語が話せないことを伝えると、通訳用の機器を導入してくれたり、英語ができる先生を担任にしてくれたりと、受け入れ態勢を整えてくれました」と、居住支援コーディネーターの神さん。

LivEQuality HUB事務局の神朋代さん。シングルマザーの生活支援を担当。支援を必要とするシングルマザーに寄り添い、自立のサポートを行っている(画像提供/LivEQuality HUB)

LivEQuality HUB事務局の神朋代さん。シングルマザーの生活支援を担当。支援を必要とするシングルマザーに寄り添い、自立のサポートを行っている(画像提供/LivEQuality HUB)

「未来は自分で切り開いていける」。そう思ってもらえるまで伴走する

現在、LivEQuality HUBの主な活動範囲は名古屋市内です。名古屋でやっていることに意義があると岡本さんは語ります。

「東京は課題も多い分、支援のためのリソースも圧倒的に多い。逆に言えばやりやすいんです。東京都とそれ以外の町と区別してもいいほど違いがありますから。名古屋でうまくいけば、おそらく他のどの都市でも展開できると思いますし、広げたいと思っています。私たちは今、そのためのモデルづくりを行っていると考えています」(岡本さん)

「何の地縁もない名古屋にやってきて、一人で子育てをしなければならない不安は、想像以上に大きなものです。そこからいろいろな団体とつながり、仕事も友達もでき、何より子どもが楽しそうに学校に通っている。それがお母さんの幸せなんです。頑張っているお母さんが孤立しないようにサポートし、地域とつながっていくことで、未来は自分自身で切り開いていけるんだと知ってもらえることが私たちのゴールなのかもしれません」(神さん)

LivEQuality HUBのフラッグシップ施設「ナゴヤビル」にある事務所兼イベントスペース。仲間との出会いの場であり、語らいの場でもあり、ここから新たな一歩が始まる(画像提供/LivEQuality HUB)

LivEQuality HUBのフラッグシップ施設「ナゴヤビル」にある事務所兼イベントスペース。仲間との出会いの場であり、語らいの場でもあり、ここから新たな一歩が始まる(画像提供/LivEQuality HUB)

実際に支援を受けた外国籍のシングルマザーは、「住むところ、仕事の紹介など、日本語の読み書きができない私に代わってサポートしてもらいました」と話してくれました。

「何か困りごとが起こったときに寄りかかれる存在があることで、どれほど救われているかわかりません。
シングルマザーになって、希望をなくしたこともありました。それでも頑張ってこられたのは子どもを守らなければならない!という使命感があったからです。LivEQuality HUBのみなさんのおかげで仕事も見つかりましたし、友達もできました。何より、一歩踏み出すことの大切さを教えてもらったことで、生活がガラリと変わりました。
“ひとり親家庭は苦労の多い人生ではなく、強くなるための旅”
そう思えるようになりました」

LivEQuality HUBが立ち上がって8カ月。地域に溶け込み、笑顔で働き、子育てを楽しんでいるシングルマザーが一人、また一人と確実に増えています。“お節介”な岡本さんたちの活動は、まだ始まったばかり。さまざまな困難を抱えたシングルマザーが「助けてほしい」と駆け込める場所であり、とことん伴走しながらも決して手を出しすぎない、真の支援に徹するスタッフがいます。

「本当に困っている方は、自分で検索する余裕もありませんから」(岡本さん)

まずは、LivEQuality HUBのような活動をしている団体の存在を、一人でも多く、その支援を必要とするシングルマザーはもちろん、連携団体や行政に知ってもらうことこそが、大きな課題解決への一歩につながると強く感じました。

●取材協力
LivEQuality HUB

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記事提供元:タビリス