人気店の味を気軽に楽しみ食品ロスにも貢献! マンションと地域の交流を育む「夜のパン屋さん」飯田橋第一パーク・ファミリア 新宿区

SUUMOジャーナル

コロナ禍のステイホームなどにより、マンション等の集合住宅では、住民同士の交流が減るなどの問題が生じていました。高齢者が多く入居する飯田橋第一パーク・ファミリア(東京都新宿区)では、管理会社と管理組合が連携し、売れ残ってしまいそうなパンを有償で引き取り代理販売する「夜のパン屋さん」を誘致。社会貢献をしながら、入居者や近隣の人へ食の楽しみを提供した活動が評価され、「マンション・バリューアップ・アワード2021『マンションライフ・シニアライフ部門』」で佳作を受賞しました。管理会社の三井不動産レジデンシャルサービス倉本昇さんに、取り組みの経緯と反響を伺いました。

売れ残りパンの代理販売「夜のパン屋さん」がマンションの駐車場にオープン

夕暮れ時、人が行き交う通りから一本入った住宅街のマンションの駐車場に、オレンジ色の光が灯るキッチンカー「夜のパン屋さん」がオープンしていました。マンションに帰宅する人や近隣に住んでいる人が立ち寄り、店頭に並ぶパンを選びながら、店員さんとの会話を楽しんでいます。

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアを含む東京の3カ所で定期的にオープンしている「夜のパン屋」さんは、ホームレス状態など生活に困窮する人の自立支援事業を展開する有限会社ビッグイシュー日本が運営するパン屋さんで、売れ残りそうなパンをパン屋さんから預かり、代理販売をしています。

賞味期限が近いパンを買っておいしく食べることで、パン屋さんの食品ロスを減らし、同時に、パンの回収と販売を生活に困窮した人に携わってもらうことで、新たな仕事を創り出す取り組みです。

扱うパンは、都内の有名店や老舗店のほか北海道や静岡などの街のパン屋さんから送られてきたパン。さまざまな店のパンを購入できるとあって、人気を博しています。飯田橋第一パーク・ファミリアは、そのプロジェクトの2号店です。

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアの管理会社で、「夜のパン屋さん」のキッチンカーの誘致に尽力した三井不動産レジデンシャルサービスの倉本さんは、「今はすっかり定着しましたが、はじめての取り組みで初日はドキドキでした」と振り返ります。

飯田橋第一パーク・ファミリアには、もともと、管理会社によるキッチンカーの提供がありましたが、外部の運営業者のキッチンカーを敷地内に入れることについて、管理組合では、防犯面などから、さまざまな議論があったそうです。

コロナ禍で孤立する高齢の居住者に食の楽しみを増やしたい

飯田橋第一パークファミリアは、179世帯が入居するマンションで、築40年を超え、居住者の多くが高齢者です。管理会社として、「夜のパン屋さん」出店以前から、敷地内にキッチンカーを無償で出店し、コロナ禍で外出を控えている入居者に、お店でしか食べられないような、美味しい料理を提供してきました。

『夜のパン屋さん』の誘致は、倉本さんが、もともと管理会社が無償で出店していたキッチンカーに訪れた方から、『夜のパン屋さんプロジェクト』の話を聞いたのがきっかけです。運営する有限会社ビッグイシュー日本に問い合わせたところ、ちょうどプロジェクトの2号店として、キッチンカーの出店場所を検討中だとわかりました。以前から出店していたキッチンカーにはなかったパン屋さんであること、おいしいパンを食べることで、社会貢献ができる意義のある取り組みであることに魅力を感じた倉本さんは、マンションの敷地を提供したいと考えました。

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「当時は、コロナ禍で外出を控えたり、在宅勤務が多くなり、先が見えないなかで、自分もフラストレーションを感じていました。なにかできないだろうかと考えていましたが、食の楽しみが増えたらすてきなのではと。入居者の方々の喜ぶ顔が見たいと思いました」(倉本さん)

誘致に対するネガティブな意見に対して不安をなくす提案書を作成

2021年4月に、有限会社ビッグイシュー日本の担当者に現地を見てもらい、6月から理事会へ提案をはじめました。

「理事会では、管理会社の提供ではない外部の事業者が敷地内へ入ることへの防犯面の不安や販売員に対する消極的な意見がありましたが、『パン屋さんが来るのはうれしい』という前向きな意見もありました。管理組合から寄せられた懸念を払拭できるよう、担当者と打合せして、提案書をまとめていきました」(倉本さん)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

提案書には、販売時の服装がわかる写真や、「夜のパン屋さんプロジェクト」の過去の実績を盛り込みました。

「販売員の方に清潔感があることや、不人気な売れ残りではなく、並ばないと買えないような有名店のパンも購入できることが好印象を与え、8月には理事会決議が通りました。有限会社ビッグイシュー日本さんが、課題に対して、スピード感のある提案をしてくださったこと、もともと当社と管理組合で信頼関係があったことも大きかったと思います」(倉本さん)

人気店や老舗店の売れ残りパンが大人気!居住者や近隣住民の楽しみに

「2021年10月5日、3カ月間のトライアルとして第1回目の夜のパン屋さん(2号店)がスタートしました。チラシ配布のみの告知だったにも関わらず、たくさんのお客様でにぎわい、飛ぶようにパンが売れました。当日は、17時に3店舗から預かったパンで販売をスタートしましたが、準備したパンは20分ほどで完売。18時すぎに追加の1店舗からパンが到着し、19時すぎに更に2店舗目からパンが到着しましたが、20時に完売となりました」(倉本さん)

訪れたのは、マンションに住んでいる高齢者、乳児や小さな子ども連れの女性たちでした。「パンが売り切れてしまって残念。次は早めに来ます」「コロナ禍でなかなか外出が出来ない中、毎週火曜日が楽しみになりました」などうれしい言葉が寄せられたそうです。

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「参加のパン屋さんも増えていく予定とのことですので、いろいろなパンを住民の皆様にお届け出来るようになればいいなと思っています。ほかのマンションへも波及していったらうれしいです」(倉本さん)

マンションの駐車場にオープンした「夜のパン屋さん」が与えてくれたささやかな幸せ。管理会社や管理組合が工夫することで、居住者だけでなく近隣住民の暮らしも豊かになりました。街のパン屋さんから「夜のパン屋さん」に、そして、買う人へ。パンを通じて、お腹とこころを満たす取り組みが続いています。

●取材協力
・夜のパン屋さん(Twitter)
・マンション・バリューアップ・アワード2021
・三井不動産レジデンシャルサービス株式会社

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記事提供元:タビリス