家賃債務保証会社の強引な「明け渡し条項」に使用差し止め判決。裁判で争われたポイントは?

SUUMOジャーナル

ニュースメディアで数多く報道された、家賃債務保証会社の強引な明け渡し条項の使用差し止めという、最高裁判所の判決。住宅業界に身を置くものとしては気になる判決だ。どういったことが争われ、どういった判決になったのだろう。筆者なりに分析してみたい。

【今週の住活トピック】
家賃債務保証会社の「追い出し条項」は無効の判決/最高裁判所

家賃債務保証会社とは?国の登録制度とは?

最高裁まで争われることになったこの訴訟で、訴えられたのは家賃債務保証会社だ。裁判の話の前に、まず「家賃債務保証会社」とは何かを説明しておきたい。

通常、賃貸住宅を借りるときには、借主が家賃を支払わなかったり、住宅の設備機器を壊したりした場合に、代わりに家賃や修理費を負担する「連帯保証人」が求められる。多くは親などの家族が連帯保証人になるが、何らかの事情で連帯保証人を立てられない借主もいる。家賃債務保証会社(以降、保証会社)は、借主の家賃を貸主に保証する会社で、保証会社に保証を依頼することで、連帯保証人を立てなくても賃貸住宅を借りることができるようになる。

借主が保証会社を利用するには、家賃の0.5カ月~1カ月程度の保証料を払い、入居後も定期的に「更新保証料」を払うことになる。保証料を払っているからといって、滞納した家賃を払わずに済むわけではない。保証会社は貸主に対して家賃を肩代わりするが、滞納した家賃は保証会社が借主に請求することになる。

保証会社は肩代わりした家賃を回収する必要があるので、保証会社によっては、強引な取り立てをするといったトラブルが発生することもあった。そこで2017年10月に、国土交通省は保証会社の登録制度を設けた。一定の基準を設け、その基準を満たす保証会社が登録することで、適正な家賃債務保証の業務を行う事業者として情報を公開するものだ。ただし、任意の登録制度なので、登録しなくても保証会社として業務を行うことはできる。

「家賃債務保証業者登録制度」の登録業者であることを示す「登録家賃債務保証業者シンボルマーク」(出典:国土交通省のサイトより転載)

「家賃債務保証業者登録制度」の登録業者であることを示す「登録家賃債務保証業者シンボルマーク」(出典:国土交通省のサイトより転載)

また、2020年4月の民法改正では、連帯保証人が保護される改正が行われた。連帯保証の契約で連帯保証人が個人の場合は、極度額(保証する金額の上限額)を書面で合意することが求められるようになった。この改正により、貸主側が借主に、連帯保証人ではなく保証会社の利用を求めるケースが増えている。

保証会社が消費者に不利益のある契約をするのは×

では、判決の内容を見ていこう。といっても、筆者は法律の専門家ではないので、その点はご容赦いただきたい。筆者が理解したのは次のようなことだ。

まず、ポイントとなるのは、家賃債務保証会社が賃借人(借主)と交わす保証に関する契約書の中の特定の条項の使用を差し止めることを求めたもの。定型の契約書に、こうした条項があるのは消費者が不利益になるので、使ってはいけないのではないか?ということが争われたわけだ。

次に、どういった条項かというと、2つある。
ア)借主が家賃などの支払いを怠り、その額が家賃の3カ月分以上に達したときは、借主に催促することなく賃貸借契約を解除できる
イ)借主が家賃などの支払いを2カ月以上怠り、保証会社が合理的な手段を尽くしても借主と連絡が取れず、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況などから相当期間住んでいないと認められ、かつ、もうこの部屋を使う意思がないと客観的に見て取れる場合、借主が異議を述べないなら、賃貸住宅を明け渡したとみなす

最高裁はア)について、家賃滞納を理由に催促なく賃貸借契約を解除することは、あながち違法とはいえないが、貸主ではなく保証会社が、合理的な事情がある場合などの限定もなく、催告なしに解除できるのは、消費者に不利益を与えかねない。

イ)については、家賃滞納、連絡不能、利用実態なし、利用する意思が認められないといった条件で明け渡したとすることは、あながち違法とは言えないが、賃貸借契約が終了してない場合に保証会社の一存で明け渡したとみなすのは不当だし、利用の意思がないと客観的に見て取れるという要件は明確ではなく、意義を述べる機会が確保されているわけでもないので、消費者に不利益を与えかねない。

よって、消費者契約法に基づき「ア)イ)の条項がある契約書を使ってはいけない」と判断した、という判決だと筆者は理解した。

最高裁は、地裁、高裁とは異なる判断をした。いわゆる保証会社の「強引な明け渡し条項」に対して、適正な法的手続きを踏まない条項に歯止めをかける形となった。

強引な明け渡し条項は不当とされたが、家賃を滞納すると、賃貸借契約が解除されたり保証会社から家賃に遅延損害金などが加算された額を請求されたりといったことも起こりうる。家賃が払い続けられる額かどうか、しっかり見極める必要がある。

賃貸借契約時の保証会社を選ぶのは、貸主や仲介会社、賃貸管理会社などの貸主側だ。そうはいっても、保証契約は借主自身が保証会社と結ぶもの。契約解除や明け渡しに関する契約内容については、事前に確認しておくべきだ。トラブルは事前に回避したいものだ。

●関連サイト
裁判所の最高裁判所判例集

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記事提供元:タビリス