無印良品の小屋ズラリ「シラハマ校舎」に宿泊体験。災害時に強い上下水道・電気独立のオフグリッド型住宅の住みごこちって? 千葉県南房総市

SUUMOジャーナル

シラハマ校舎は、千葉県南房総市白浜町の小学校跡地を活用してできた複合施設です。無印良品の小屋がずらりと並んだその一角に、2022年、上下水道、電気も既存インフラに頼らない「オフグリッド小屋」が誕生したといいます。省エネが注目される昨今、以前よりも耳にする機会が増えた「オフグリッド小屋」、一体どのように活用されるのでしょうか。可能性を探るため、シラハマ校舎に話を聞きました。

タイニーハウス(小屋)人気は健在。ウェイティングリストは27組も!

2016年、千葉県の房総半島の先に誕生した「シラハマ校舎」は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物を用途変更してできた施設です。敷地内には18ある小屋が立つほか、レストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設で構成されています。ちなみに小屋の1棟の広さは12平米で、バスやキッチン、トイレなどの水回りは共用で使います。運営しているのは、妻がこの町の出身者という多田夫妻。

小屋は発売当初、「どんな人が買うんだろう?」という声もありましたが、現在、ワーケーションやシェアオフィス、2拠点生活の場所として活用されていて、2019年に完売、2023年現在はウェイティングリストに27組もいるという人気物件です。(関連記事:コロナ禍で「小屋で二拠点生活」が人気! 廃校利用のシラハマ校舎に行ってみた 千葉県南房総市)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

「今、1棟、販売されているんですが、見学にいらっしゃる方も多いですね。人気があるため、中古価格も崩れていません。
ただ、比較的大きな畑付きで、ほぼ毎週末、手入れが必要になるんです。週末くらいはゆっくりしたいというニーズが強いので。となると、当然、人を選んでしまう。やはり小屋でゆったりしたいという人は多いので」と話すのは、シラハマ校舎の企画から管理、運営までをご夫妻で行っている多田朋和さん。

また、コロナ禍で広まったアウトドア人気やキャンプ人気は未だに衰えず、特に房総半島では次々とキャンプ場が誕生しているよう。キャンプのようでもあり、別荘のようでもある、シラハマ校舎の「小屋」は、手堅い需要があるようです。

平時はキャンプ場、非常時は避難場所。小屋を柔軟に活用する

この大人気のシラハマ校舎の敷地の一角がさらに進化して、2022年には「オフグリッド」の小屋ができました。オフグリッドとは、電力などの送電網につながっていない独立型電力システムのこと。このシラハマ校舎では、電力だけでなく、なんと上下水道も既存のインフラに頼らず、自立して運営できる仕組みをつくったそう。一体なぜなのでしょうか。

「きっかけは、2019年の台風です。送電網が停止し、白浜町一帯も停電、陸の孤島となりました。避難場所となったコミュニティセンターの受け入れ可能人員は最大で80人ほど。そのため、150人近い人が避難できない状態になりました」と多田さん。また停電したことで9月の残暑が住民を直撃したほか、浄化槽も稼働できず、衛生状態もよくなかったといいます。

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋はそもそもサイズが小さいため、使う電気エネルギーは最小限ですみます。そのため、生活に使う電力は太陽光発電でも十分まかなえるのです。いわば、「小屋の利点」を活かして、平時と非常時の二段階活用を実践したかっこうです。誰もが空想したり、アイデアとしては浮かびますが、民間の試みでさらりと行ってしまうところが、多田さん夫妻のすごいところ。

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

「もともと下水道はなく、浄化槽(※)を利用する地域なので、非常時でも電気と水さえあれば機能します。また小学校の敷地内には古い井戸があったので、これを吸い上げて配水に利用することに。太陽光発電と水を確保できることで、いざというときも下水も稼働するんです。電気だけなら、オフグリッドでまかなえる施設はたくさんありますが、上下水が既存インフラから独立して稼働するのは、日本でもシラハマ校舎くらいじゃないかな」と多田さん。

※敷地内に設ける小規模な汚水処理設備で微生物の働きなどを利用して汚水を浄化する古くからある仕組み

万一のことを考え、シラハマ校舎そのものは送電線とはつながっていますが、いざというときは電力を買わなくても稼働するとのこと。

今のところ大きなトラブルはナシ。課題は冬場の発電量。

実際に稼働してみて、課題はないのでしょうか。
「シラハマ校舎は、南向きの土地なので、夏であれば十分に発電できるのですが、問題は冬ですね。日照時間が短いので発電した電気を一日で消費してしまうんです。そのため、オフグリッド小屋に宿泊していただくお客様には、連泊してもらう場合、別の小屋に移動してもらっています(笑)」

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

なるほど、運用でカバーできる範囲の課題なんですね。エネルギーの地産地消というか、オフグリッドで建物を運営するのは、もう「リアル」にできることなんだなと実感します。使うエネルギーとつくるエネルギーのプラスマイナスゼロの住まいを「ZEH(ゼッチ)」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいますが、まさに小屋もZEHの時代なんですね。

「今は小屋1棟でお貸ししていますが、2棟つなげて1つにキッチンとお風呂、トイレをつくり、1つをベッドルームにした宿泊棟もつくろうかと思っています。こちらもZEHで、使うエネルギーとつくるエネルギーはプラスマイナスゼロにする予定です」と多田さん。

シラハマ校舎のアップデートはまだまだ止まりそうにありません。
「水でいうと、エアコンから出た排水や汚水などをあわせてフィルターで濾過(ろか)し、真水にして循環利用できる技術もあるのですが、商業施設や複数人が利用することを考えて、導入を見送っています。技術的に問題ないといっても、気分的に嫌悪感を抱く人がいるのは理解できるので」(多田さん)。水の技術にも興味があるほか、海岸沿いに所有する農地に小型風力発電設備を設置する計画も進めています。

白浜町はその土地柄、強い海風が吹いています。これを活用し、小規模事業でも環境に貢献していきたいとのこと。こうした施策に興味を持ち、企業や自治体の視察希望者が次々とやってくるそう。

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

「どこの自治体や企業も環境への取り組みが欠かせません。自社の勝機はどこにあるのか、意識の高まりを感じますね。また、日本国内では廃校が毎年約400~500ほどあるので、どこも地方自治体は活用方法に頭を悩ませています。校舎は廃校して他用途で活用しようとすると、耐震補強工事や用途変更に手間がかかるんです。シラハマ校舎の場合、校舎をワーケーションオフィスとして活用しつつ、小屋を宿泊場所にしています。これは他の自治体でも有効な『パッケージ』として輸出できないかなと考えているんですが、なかなか運用が難しいようで。あとは韓国でも少子化によって同様の問題が起こると予想されているので、『廃校活用パッケージ』として輸出できたらおもしろいですよね」(多田さん)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

さらに昨年には農業法人を立ち上げ、ワイナリー+ソーラーシェアリング(太陽をシェアし太陽光発電とパネルの下で農産物を生産する取り組み)も現在計画しているとのこと。これが可能になると、天候関係なく果実ができたり、収穫できたりするようになるのだとか。なんでしょう、房総半島の先にある民間の施設なのに、どこよりも新しい試みをはじめています。

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋に注目が集まっている昨今ですが、オフグリッドやソーラーシェアリングなどと組み合わせ、どこよりもユニークな挑戦を続けるシラハマ校舎。小屋や環境、これからの暮らしに興味がある人なら、ぜひ一度、訪れてソンはないと思います。

●取材協力
シラハマ校舎

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記事提供元:タビリス