タワマン節税にメス!? 国税庁のマンション相続税評価額見直しを解説

SUUMOジャーナル

以前から、タワーマンションを節税目的で購入する事例が多いことが指摘されていた。すでに、固定資産税については、高さ60m以上のマンションで高層階の税率を引き上げる“補正率”が採用されている。今回は、相続税の評価方法について、市場価格に近づける見直し案が公表された。

【今週の住活トピック】
マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議が見直し案を公表/国税庁

「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で見直しを検討

そもそも相続税では、相続した財産の価額はその財産を取得したときの時価によるとされている。いわゆる時価主義といわれるものだ。不動産の評価方法は、国税庁の「財産評価基本通達」で定められている。マンションについては、この通達の内容を見直そうと、2023年1月30日に第1回有識者会議が開かれた。

昨年末に公表された政府の「令和5年度税制改正大綱」で、マンションの相続税評価が、市場での売買価格と通達に基づく評価額が大きく乖離しているケースが見られるとして、「時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」と記載された。これを受けて、適正化のための有識者会議が動き出したわけだ。

第3回の有識者会議で見直し案の要旨が提示され、6月30日に国税庁のホームページに有識者会議の資料が公表された。

なぜ、タワーマンションの高層階が相続税の節税になる?

現状のマンションの相続税の評価額は、どのように計算されるのか?

マンションの1つの住戸を相続した場合、建物の価額(かがく※)と敷地の価額をそれぞれ計算し、足し合わせたものが相続税評価額になる。建物の価額は「固定資産税評価額」が用いられ、敷地の価額は敷地全体の価額のうち持ち分割合で計算される。つまり、同じマンションで同じ面積の住戸を所有する場合、1階の住戸も20階の最上階住戸も同じになる計算方法だ。

※売り手が品物に対して設定するのが「価格」に対し、品物の値打ちに相当する金額が「価額」

ところが、実際に市場で売買されるときには、同じマンションの同じ面積の住戸であっても、1階と最上階では、価格にかなりの開きが出る。タワーマンションでは、住戸からの眺望がウリになるからだ。つまり、実際に売れば高く売れるものが、相続税評価額では価額を抑えることができるので、高層階ほど相続税の節税効果が大きいということになる。

また、元になる敷地全体の価額は、路線価が用いられる。路線価は地価公示の8割程度になっているので、市場価格より低くなるのが一般的だ。もともと相続財産を不動産にすれば、現金より相続税評価額が抑えられるといったこともあり、不動産は節税対策に用いられることが多い。加えて、タワマンでは高層階住戸でより大きな節税効果を生むというわけだ。

マンションと一戸建てでは、市場価格との乖離率に大きな開き

有識者会議の資料(画像1)によると、近年はマンションの市場価格は相続税評価額の2.3~2.4倍にまで開いているという。

マンションの相続税評価額と市場の乖離率の推移

【画像1】国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)」より転載

市場価格との乖離率を一戸建てと比べてみる(画像2)と、平成30(2018)年の平均で、マンションは2.34倍まで開いているが、一戸建ては1.66倍にとどまっている。0.68倍の開きがあるが、例えば市場で同じ1億円で売れるマンションと一戸建てがあった場合、相続税評価額はマンション(約4273万円)と一戸建て(約6024万円)で、約1751万円の差が生じるという計算になる。10億円というタワーマンションの最上階住戸もあるだろうから、この場合は評価額を5億円以上も大きく下げることができるという構図になっているわけだ。

(上)マンションの乖離率の分布、(下)一戸建ての乖離率の分布

【画像2】国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)」より転載

相続税の評価方法が定められた頃には、タワーマンションのような不動産は市場になかっただろう。ところが、好立地で高額のタワーマンションが数多く供給されたいま、マンションでは評価額が市場価格の半分以下になる事例が約65%もあるというのが実態のようだ。

マンションの相続税評価額はどう見直される?

有識者会議の資料を見ると、マンションの評価額が市場価格と乖離する要因として、マンションの総階数や所在階、築年数などが加味されていないうえ、タワーマンションのように立地条件が良好で地価の高い場所であっても、多くの住戸で持ち合うために敷地の持ち分が狭小になる度合いが大きいといったことを挙げている。

そこで見直し案は、この「築年数」「総階数(総階数指数)」「所在階」「敷地持分狭小度」の4つの指数に基づいて、市場価格との乖離率を予測し、評価額が市場価格理論値の60%に達しない場合は、60%になるまで価額を補正するというものになった。

60%というのは、一戸建ての乖離率にマンションを近づけようというもの。マンションの市場価格との乖離率を一戸建て並みにすることで、税負担の公平を図るという考え方だ。

この見直し案では、築浅や高層階で評価額がこれまでよりも引き上がるので、相続対策としてタワーマンションの住戸を購入し、相続後に売却するという方法での節税効果は薄れるだろう。

政府は、2024年1月から見直したいとしている。有識者の中には、「今後のマンション市況の変化には適切に対応していく必要があるので、新しい評価方法が適用された後においても、重回帰式の数値等については定期的に実態調査を行い、適切に見直しを行うべきではないか」と、継続的な見直しを求める声があった。

税金は国民が相応に負担するものなので、公平であってほしいものだ。

●関連サイト
マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)

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記事提供元:タビリス