登録有形文化財を有する旧赤羽台団地に、「URまちとくらしのミュージアム」がオープン!建物好きや団地マニアも驚きの仕掛けが満載!

SUUMOジャーナル

「URまちとくらしのミュージアム」が9月15日に開館すると聞いて、都市再生機構(UR都市機構)に問い合わせたところ、オープン前にプレス向け発表会があるというので参加した。実は、八王子にあったUR都市機構の技術研究所が2017年度に閉鎖となったが、敷地内で2021年度まで開館していた集合住宅歴史館の資料は、今回開館するミュージアムに移設されるということだったので、興味を持っていたのだ。

【今週の住活トピック】
都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設「URまちとくらしのミュージアム」9月15日に開館/都市再生機構(UR都市機構)

旧赤羽台団地の中に開設されるミュージアム

「URまちとくらしのミュージアム」が開設されるのは、旧赤羽台団地の一角。

赤羽台団地(全3373戸)は、昭和30年代後半に都市部のモデル団地として誕生した、公団住宅として当時では23区内最大の大規模団地。その当時としては先駆的な住棟配置や多様な間取りが導入された団地で、赤羽駅周辺より高台にある団地の崖線部分には、ポイント型住棟(スターハウス)と呼ばれる特徴ある住棟が建つなど、団地マニアには聖地と呼ばれていたほどの名団地だった。

今では、建物の老朽化に伴って、その多くが建て替え事業により新たに「ヌーヴェル赤羽台」に生まれ変わっているが、日本建築学会が保存活用に関する要望書を出したことなどから、2019年に以下の4棟が国の登録有形文化財として登録された。

41号棟(板状階段室型:鉄筋コンクリート造地上5階建)
42号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)
43号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)
44号棟(ポイント型住棟:鉄筋コンクリート造地上5階建)

41号棟は、団地で多く見られる標準的な建物で、4つの階段の左右に住戸が設けられている。42~44号棟は、三角形の階段室の周囲に各階3住戸が放射状に配置され、全体がY字形の形状になっている。

UR都市機構のリリース「旧赤羽台団地の「ポイント型住棟(スターハウス)」を含む4棟が団地初の登録有形文化財(建造物)に登録へ」より抜粋

UR都市機構のリリース「旧赤羽台団地の「ポイント型住棟(スターハウス)」を含む4棟が団地初の登録有形文化財(建造物)に登録へ」より抜粋

登録有形文化財4棟とミュージアム棟、オープンスペースが丸ごとミュージアム

「URまちとくらしのミュージアム」とは、今回新たに建設された「ミュージアム棟」に加え、登録有形文化財の4棟と屋外空間(オープンスペース)を合わせたもの。団地の歴史を語る特徴ある住棟と団地らしい広々としたオープンスペースも見学の対象だ。

ミュージアム棟(筆者撮影)

ミュージアム棟(筆者撮影)

ミュージアムを開館するにあたって、4つの住棟には修復工事が行われたが、その際に当時の建物の外壁の色を再現するため、白黒写真をカラー化したり、残っている塗膜を分析したりして、当時の色を探し当てたという。

オープンスペースには適宜解説ボードがあり、登録有形文化財についても紹介している(筆者撮影)

オープンスペースには適宜解説ボードがあり、登録有形文化財についても紹介している(筆者撮影)

広いオープンスペースには遊具や大きな樹木もある(筆者撮影)

広いオープンスペースには遊具や大きな樹木もある(筆者撮影)

馬場正尊さんお勧めのミュージアム棟の見どころをじっくり紹介

メインの見どころは、ミュージアム棟の展示資料だろう。UR都市機構の前身である「日本住宅公団」時代からのまちづくりや住まいの歴史が詰まっている。開館式後のプレス向け説明会で、ミュージアムの施設プロデューサーであるオープンエー代表の馬場正尊さんが説明してくれた見どころを中心に紹介していこう。

まず、2階にある「メディアウォール」。これは筆者も熱中してしまったが、壁一面のタッチパネルに、全国につくられた団地が次々と出てくる。見たい団地をタッチすると、その団地の当時のパンフレットや間取り図などの貴重な資料がどんどん表示される。興味深くて、次々とタッチしてしまった。団地研究者には垂涎(すいぜん)の資料だろう。

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

団地の資料をタッチして読み出せる「メディアウォール」(筆者撮影)

2階から4階には、歴史的に価値の高い集合住宅の団地の復元住戸などがある。最初に、「同潤会代官山アパート」を見よう。同潤会は、関東大震災後の住宅復興のために設立された財団法人で、小規模戸建て住宅なども供給したが、本格的な鉄筋コンクリート造りの先進的な同潤会アパートを供給したことで知られている。

同潤会を紹介したコーナーでは、その歴史を語るパネルのほか、実際に代官山アパートで使われた食堂の椅子や食堂カウンター、鶯谷アパートや清砂通りアパートの階段手摺親柱、名板、外壁レリーフなども展示されている(筆者撮影)

同潤会を紹介したコーナーでは、その歴史を語るパネルのほか、実際に代官山アパートで使われた食堂の椅子や食堂カウンター、鶯谷アパートや清砂通りアパートの階段手摺親柱、名板、外壁レリーフなども展示されている(筆者撮影)

同潤会アパートは今ではその姿を見ることができないので、貴重な歴史的資料となる。1927年(昭和2年)竣工の代官山アパートの復元住戸は、独身用住戸と世帯向け住戸があり、紹介するのは独身用住戸(和室型)だ。玄関扉は鉄板を巻くなど地震や火災への対策が取られている。独身用をのぞくと、明るく住みやすそうな部屋だと分かる(写真上)。造り付け収納の取っ手のデザインなども洗練されたものだ。室内に入ると(写真下)、造り付けベッドがあり、当時としては斬新な間取りだ。廊下側の窓もおしゃれなデザインだった。

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

同潤会代官山アパートメント(独身用)の復元住戸(筆者撮影)

次は、1957年(昭和32年)に竣工した「蓮根団地」の復元住戸。食寝分離を基本とする2DKを標準設計とした代表的な団地だ。ダイニングキッチンにはテーブルが備え付けられ、イス座の食事を促したとか。キッチンは人研ぎ(※)の流し台、テーブル横の棚には当時の炊飯器やトースター、ラジオに加え、カネヨクレンザーの赤い箱も置かれていた(写真上)。DKの背面に和室があり、ほかに和室や木製の浴槽、和式便所などもあった。
※人研ぎ(人造石研ぎ出し)/石の粉とモルタルを混ぜた人造石を成型し、研ぎ出したもの。ステンレス製が普及する以前の主流だった

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

蓮根団地(2DK)の復元住戸(筆者撮影)

最後に紹介したい復元住戸は、前川國男設計による1958年(昭和33年)竣工の「晴海高層アパート」。公団初のエレベーター付き10階建て高層集合住宅だ。スキップアクセス方式(エレベーターの停止階とそこから階段で行く階がある)が採用されたので、廊下アクセス住戸と階段アクセス住戸の2つが復元されているが、紹介するのは階段アクセス住戸だ。

ここは馬場さんが「住みたい」というほど、明るく風通しがよい。玄関から入ると、フローリングの縦長DKと畳の和室2室がある。和室とフローリングの間の欄間にガラスがはめられているのも、室内が明るく開放的な要因になっている。キッチンはステンレス製の流し台、トイレは洋式になっていた。海に近いこともあって、バルコニーはプレキャストコンクリートの手摺になっている(写真下の奥がバルコニー)。隣戸との壁がコンクリートブロックというのも目を引く。

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

晴海高層アパート(階段アクセス住戸)の復元住戸(筆者撮影)

ミュージアム棟には、ほかにも「多摩平団地テラスハウス」の復元住戸やシアター、住宅の設備や部材の歴史が分かる展示、UR都市機構による団地づくりや住宅づくりの歴史が分かる展示などもある。

住宅の設備や部材の歴史が分かる展示(筆者撮影)

住宅の設備や部材の歴史が分かる展示(筆者撮影)

見落としてほしくないのは、プレス見学会では全く説明されなかったのだが、ミュージアム棟の外側に移設された「晴海高層アパートの円形階段」だ。ミュージアム内にはQRコードが掲示された箇所があり、スマートフォンで読み取ると詳しい説明が表示される。円形階段については、スキップアクセス方式だと2階でもエレベーターで3階に行って階段で下がるために不便だと、直接2階に行ける階段が後から設置されたといった説明がされていた。ぜひここも見てほしい。

晴海高層アパートの円形階段(筆者撮影)

晴海高層アパートの円形階段(筆者撮影)

晴海高層アパートの円形階段のQRコードからの説明画面

晴海高層アパートの円形階段のQRコードからの説明画面

歴史だけでなく、未来を志向するミュージアムとは?

さて、このミュージアムは、「都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設」だという。

前述の閉鎖になった八王子の技術研究所には実験棟もあって、地震防災や風環境、環境共生、省エネ、耐久性などさまざまな研究の成果も分かる施設があったし、集合住宅歴史館に、水まわり設備や電気設備などの変遷が分かる展示物などもあった。ここにそうしたものが移設されていないのは残念だ。とはいえ、歴史だけではなく、未来を志向するために、今後はここでさまざまなトライアルも行うという。

現状では、41号棟や42~44号棟の内部を見ることはできない。しかし、ここではすでに実証実験なども行われている。実は筆者は、今年3月に41号棟を見学している。41号棟には、Open Smart UR研究会(代表:東洋大学情報連携学部学部長・坂村健さん)による生活モニタリング住戸が4戸作られている。ここで、住戸から出てくるさまざまなデータを収集して、住宅を最適設計するための検討データを取るために、大量のセンサーなどを設置して、生活モニタリングが行われている。

センサーは視線から隠れる場所に設置されているが、あらゆる箇所で温度や湿度、気圧、CO2の測定ができ、住んでいる人が今どこにいるかも分かる。IoTを活用して、スマートロックやエアコン、カーテン、照明がタブレットで制御できるようにもなっていた。筆者個人では、洗面所の上部にあるディスプレイに最新の公共交通の運行情報が表示されるのが便利だと思って見学していた。

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

41号棟のOpen Smart UR生活モニタリング住戸(2023年3月に筆者撮影)

また、スターハウスでは、「URまちの暮らしのコンペティション」(スターハウスを舞台としたこれからの暮らし方のアイディア・提案コンペ)を実施し、最優秀賞受賞作品を実現化する計画が進行中だ。さらに、「まちとくらしのトライアルコンペ」を2024年1月19日まで募集する予定で、今後もさまざまなアイディアの研修や実現の場として活用していく考えだ。

このミュージアムのよいところは、気軽に行けることだ。以前の八王子の技術研究所はかなり不便な場所で、筆者が訪れたときは特別公開日だけしか見学できなかった。ところが、「URまちとくらしのミュージアム」は、水曜・日曜・祝日以外の10:00~17:00に3回、事前予約制で見学ができる。しかも、赤羽駅から徒歩圏。オープンスペースもあるので、子どもも楽しめるのではないだろうか。団地や住宅に興味のある人には、訪れてほしいミュージアムだ。

●関連サイト
都市再生機構(UR都市機構)「都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する情報発信施設「URまちとくらしのミュージアム」9月15日に開館」
「URまちとくらしのミュージアム」公式サイト

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記事提供元:タビリス