賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化

SUUMOジャーナル

賃貸住宅というと、画一的なプランを思い浮かべる人も多いでしょう。でも、そんな思い込みを裏切る個性的な賃貸物件が日本各地で少しずつ増えています。お店が開けたり、相撲部屋付きだったり、農園付きだったりとその顔ぶれもさまざま。では、次に賃貸物件にやってくる新しい風とは? お部屋を借りる側にはどんなメリット・注意点があるのでしょうか。SUUMO副編集長でSUUMOリサーチセンター研究員でもある笠松美香氏に話を聞きました。

リサーチ期間や内見件数など、お部屋の探し方に変化が

まず前提として、賃貸住宅は間取りやデザインなどについては大きな変化が起きにくい構造になっています。それにはいくつか要因がありますが、
(1)既に多数のストックがあり、新築物件は多くない
(2)家を借りる人と建てる人が別である
(3)デザイン・間取りも大多数の人に嫌われないことが大切

というのが大きな理由です。借り手がどんな人になるかわからない以上、特別好かれなくても「嫌われない」お部屋づくりを基本にするのは、わかるような気がします。とはいえ、物件や大家さん側の意識にも少しずつ変化があり、また家を探す側、お部屋の探し方や意識が変わってきているため、個性的な物件が出やすい土壌になってきたといいます。

「今、お部屋を借りて住み替えたいと思う人は、物件情報を収集・検討する期間が長くなっています。ルームツアー動画も人気がありますし、引越す気がなくともスマホで日常の合間合間に『物件を見ている』という感じで、お部屋探しの情報にふれる期間が長くなっているんですね。ネットに載る物件情報もひとつひとつが詳しくなっており、いわゆる『コンセプト賃貸』のような、個性ある物件についても差別化され、借りたいと思う人とマッチングしやすくなっているんです」と笠松氏。

DIYし放題の賃貸。住民みんなで使えるピザ窯や住民のための図書館をつくった大家さんも「キタノアパート」(東京都八王子市)(写真撮影/田村写真店)

DIYし放題の賃貸。住民みんなで使えるピザ窯や住民のための図書館をつくった大家さんも「キタノアパート」(東京都八王子市)(写真撮影/田村写真店)

全9部屋でゴルフ、陶芸、ボルダリング、ピアノ演奏などコンセプトが異なるユニークなコンセプト賃貸も(写真は千葉県柏市にある「ガルガンチュア」)(写真撮影/内海明啓)

全9部屋でゴルフ、陶芸、ボルダリング、ピアノ演奏などコンセプトが異なるユニークなコンセプト賃貸も(写真は千葉県柏市にある「ガルガンチュア」)(写真撮影/内海明啓)

ただ、ネット上で決めてしまい、リアルには物件見学しないというわけではなく、訪問や内見「現地でしか見られない状況を確かめる」「入居前の最終確認」という位置づけになっているそう。

また、お部屋を借りる人が長く情報収集・物件の資料を見続けることで、目が肥え、「防音設備が整っていてYOUTUBEでオンライン実況ができる」「大型犬が飼える」「入居者同士のコミュニティがある」「菜園がある」といった特色ある物件が差別化され、「ニーズを捉えていれば、借り手が見つかる」「そのような特別な特徴に強く惹かれた入居希望者が何年も入居待ちしている」という状況も生まれています。これは「入居者に愛される賃貸をつくりたい」「マッチした人に長く住んでほしい」と考える大家さん、「似たような部屋しかない」と不満に思う借り手、双方にとって幸せな流れといえるでしょう。

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初期費用は抑え気味、家賃債務保証会社利用、デジタル化が進む

笠松氏の話をまとめると、これからお部屋探しをする人は「ゆるゆると情報を集めて、ここぞというときは決断する」と行動を想定しておくのが、良いお部屋探しの大原則といえそうです。また、もうひとつ、お部屋を借りる側としてうれしい傾向が初期費用にあるといいます。

「近年、大家さんが空室を極力減らしたいという意向もあり、礼金が減少傾向にあります。さらに日本各地で家賃債務保証会社の利用が一般化しています。そのため、家賃回収できなかったときのために多めに設定されてきた『敷金』も1カ月分、もしくは0カ月とし、ルームクリーニング代を実費で精算するなどして抑える傾向も。つまり、敷金や礼金といった初期費用が下がっているため、住み替えのハードルが下がっているんです」(笠松氏)といい、賃貸の魅力である「ライフスタイルの変化」にあわせた住み替えができるようになっているのが昨今の特徴だといいます。

共同住宅の入居募集看板

(写真/PIXTA)

コロナ禍では、「テレワークができる広めの郊外のお部屋」、収入減少に対応して「家賃が低めのお部屋」といった大きく変わった生活環境に合わせた選択をする人も見られたそう。これは変化に柔軟という賃貸のメリットを生かせるという意味でとてもいい傾向といえるのではないでしょうか。もうひとつ、コロナ禍を経た変化として不動産業界のデジタル化を教えてくれました。

「オンラインで重要事項説明を受けることも可能になりました。希望すれば不動産会社の担当者とはリアルで対面しないまま契約も可能になっています。現時点では一部ですが、こうしたデジタル化の流れは今後も廃れるとは思えないですし、じょじょに一般化するのではないでしょうか」(笠松氏)

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賃貸住宅も省エネ性能がマストの時代に。住み心地は大きく変わる

また、賃貸だけに限りませんが、新築マンション、新築一戸建てなど、すべての新築住宅に影響する制度がスタートし、賃貸にも好影響が期待されます。

「2024年4月から『省エネ性能表示制度』がスタートし、2025年には、断熱等級4が、さらに遅くとも2030年には等級5(ZEH基準並みの水準)が新築住宅においては義務化されます。すでに「長期優良住宅」の条件は2022年から等級5となっており、新築の賃貸住宅は省エネ性能も向上することが見込まれます」と解説します。

もちろん、賃貸住宅のなかでも新築といえば総数は多くありませんし、家賃も高めに設定されています。いきなり大多数の物件の省エネ性能が向上するわけではありませんが、義務化された以上、今後は大きな流れになっていくのは間違いありません。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)

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SUUMOにおけるインターネット広告への掲載例

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「賃貸住宅の建築を請け負っているハウスメーカー各社も当然、この制度に対応していて、各社注力しています。2025年には等級4が最低基準になりますが、海外の基準を見ていると省エネ等級6や7をとるべきですよという流れになっていくはずです。住宅の省エネ性能が高まると、使用するエネルギー量が節約できるほか、住む人の健康にも良い影響を与えることもわかっているので、賃貸住宅を借りる側にとってはよいことだと思います」(笠松氏)

埼玉県和光市で環境性能評価システムLEEDを取得する予定の賃貸住宅「鈴森Village」(埼玉県和光市)(写真撮影/片山貴博)

埼玉県和光市で環境性能評価システムLEEDを取得する予定の賃貸住宅「鈴森Village」(埼玉県和光市)(写真撮影/片山貴博)

北海道ニセコ町にある“最強断熱”賃貸住宅

超高断熱・高気密の外壁と窓を採用しているため、冬季に使用する暖房は、建物全体を温める共用廊下のエアコン2台。このエアコンだけで外がマイナス14度でも、部屋の温度は19~20度を下回ることはないという、北海道ニセコ町にある“最強断熱”賃貸住宅(画像提供/ニセコまち)

副産物として、賃貸住宅の根強いニーズであった遮音性の向上も見込めるといいます。

「物件を借りる側のアンケートでは、収納や防音/遮音、省エネ性というニーズが高いことがわかっています。断熱性能の高い住まいは気密性も高く遮音性もよいことが多いので、賃貸住宅の住み心地そのものが向上していくのではないでしょうか」と期待を寄せます。

確かに「収納」「遮音」「断熱」は住み心地に大きく影響しますが、なかなか見てわかる「徒歩分数」「家賃」「差別化できる要因」とはなりにくく、今までは後回しにされてきました。今後はこうした「住み心地」に直結する基本性能がよくなっていくことでしょう。

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シェアハウスやコミュニティ。賃貸も顔の見える関係が大切に

もう一つ、東日本大震災以降、じわじわと増えているのが「コミュニティ型」賃貸住宅だといいます。

「日本各地で災害が頻繁に発生していることもあり、近所に見知った顔がほしいというニーズが根強くあるため、コミュニティ形成を助ける賃貸住宅は一定の支持を集めてきました。パルコカーサ、青豆ハウス、ハラッパ団地、高円寺アパートメントなどは代表的な例ですよね。コミュニティ賃貸だけでなく、人とつながって暮らすというのは、シェアハウスに住んだ経験者が多い、今の若い世代にとっては当たり前なんです。ずっとではないけれど、人生の一時期はシェアハウス暮らしでさまざまな人との出会いを楽しみたいという声もよく聞きます」と笠松氏。

賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区

“育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年に誕生した「青豆ハウス」(東京都練馬区)。住む人と青豆ハウスを訪れる人が一緒に育む新感覚の共同住宅だ(画像提供/青豆ハウス)

保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」(埼玉県草加市)(写真撮影/片山貴博)

保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」(埼玉県草加市)(写真撮影/片山貴博)

なるほど、コミュニティ賃貸は「ご近所づきあい」、シェアハウスは「節約目的」ばかりだと思っていましたが、ともに「人とのつながり」「体験」をシェアするという側面もあるのですね。また、いわゆる賃貸住宅の一角で商売をする「ナリワイ」をはじめられる賃貸住宅も同様だといいます。

「ナリワイって、そこで儲けようとか、起業して成功しようという目的ばかりではなく、人とつながったりとか、人との会話や関係性ができたり、誰かの役に立ちたいという目的が多いように思います。大家さんとしても、やっぱり商売する人が入居してくれれば、なかなかその場を離れないというのもあって、大家さん、借り手、地域住民の三方良しの仕組みなんですよね」とその背景を解説します。

「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」(東京都武蔵野市)(撮影/片山貴博)

「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」(東京都武蔵野市)(撮影/片山貴博)

令和は、賃貸住宅でしかできない経験や体験が重視されているのかもしれません。

「大家さんとしても、知らない人同士が住んで、どんどん入れ替わって、顔が見えなくてという不安な状態よりは、やっぱり同じ街に暮らす人同士が助け合いたい、そこに自分の資産である賃貸住宅を組み込んでほしいという思いはあります。大家さんは代々その地に根付いた人だからこそ、街に愛着を持ち、よくしていきたいという人が多いのです。土地や住んでいる人がいてこその大家さんなので」と笠松氏。

賃貸といえば「借り住まい」「帰って寝るだけの場所」という側面もありましたが、今は「家で過ごす時間がいちばん楽しい」「自分がいたいと思える家」という物件が次々と登場しているということなんでしょうか。2024年はより「愛ある賃貸住宅」「思いを込めてつくった家」が輝き、魅力を放つ一年になるかもしれません。

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●取材協力
SUUMO副編集長・SUUMOリサーチセンター
笠松美香氏

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記事提供元:タビリス