世界の名建築を訪ねて。ウーブン・シティで話題のビヤルケ・インゲルス建築の集合住宅「AARHUS Φ4Housing(オーフスΦ4集合住宅)」/デンマーク・オーフス

SUUMOジャーナル

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載13回目。今回は、デンマークのオーフスという街にある、「ウーブン・シティ」などを手掛ける世界的建築家・ビヤルケ・インゲルスによる集合住宅「オーフスΦ4集合住宅(AARHUS Housing)」(設計:ビヤルケ・インゲルス・グループ)を紹介する。

海浜地区にそびえる2棟の3角形集合住宅タワー

デンマークはスカンディナビア諸国の中では一番南にある国となっている。首都のコペンハーゲンはシェラン島にあるが、同国第2の大都市オーフスはヨーロッパの陸続きであるユトランド半島にある。「オーフスΦ4(ファイ・フォー)集合住宅」は、“オーフスΦ“と呼ばれる新しい都市開発における人工島Φ4の先端部に位置している。この開発は港と湾、すなわち都市と自然の中間地域にあり、両者の素晴らしいパノラマを満喫できる一等地にある。

(C)R. Hjortshoj

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建築家ビヤルケ・インゲルス(デンマーク出身)といえば、アメリカのニューヨークに拠点をもち、世界的に活躍しているスター・アーキテクトである。周知のように日本のトヨタ自動車に頼まれて、富士山麓に約2000人が住むという「ウーブン・シティ」をデザインしている建築家でもある。その彼が故郷デンマークに2019年につくったのが「オーフスΦ4集合住宅」である。

まるで「ふたつの頂上のある集合住宅」

この建物は、オーフスという街における既存の典型的な都市エレメントのタイポロジー(特定の象徴性や用途、形態をもつ「ビルディング・タイプ」に基づく分類を指す)であるコートヤード・ビル、連続住宅、高層ビルディングなどの都市のエッセンスを、デザイン的にひとつの集合住宅に凝縮した作品となっている。

「オーフスΦ4集合住宅」は平行四辺形のプランをもち、同じ形のコートヤードをもっている。相対する3角形のふたつのコーナーは、山の頂のように種々の高さに立ち上がり、段状になったルーフスケープが戸外活動用の大きなプライベート・テラスを生み出している。いわばツイン・ピークス・ハウジング、すなわち「ふたつの頂上のある集合住宅」とでもいえそうなシャープな外観が特徴である。

(C)R. Hjortshoj

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種々の場所にあるアウトドア・スペースの延長としての連続的なバルコニーが、建物全体をぐるりと取り巻いている。これらの長いバルコニーは、コートヤードの中にあるより小さなバルコニー群によって区切られている。と同時にそれらの小さなバルコニーは、十分なアウトドア・スペースを全ての住戸に与えている。

 (C)R. Hjortshoj

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住民が野菜や果樹を育てられる公園がある

「オーフスΦ4集合住宅」の中心的な公園ともいうべきコートヤードは、全ての住民が共有するガーデンを提供し、野菜や果樹を育て、アウトドアでのコミュニティー・ディナーの開催もできる住民たちの憩いの場所となっている。

建物のストリート・レベルには、個人用の海浜レジャー施設や、オーフス市の進行する都市開発をサポートする商業施設などが入っている。北東方向には2階建てのカナル(運河)・ハウスが海に面して配置されており、人々はそこから直接海に入って自由に水泳をしたり、散歩を楽しんだりすることができる。南西側コーナーには共有のコミュニティー・スペースがあり、正面に大きなテラスをもつアーバン・スペースへと連続している。この多目的スペースは、周囲のストリートに対し、華やかなファサードを見せている。

 (C)R. Hjortshoj

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総体的にいって、「オーフスΦ4集合住宅」はデンマーク第2の都市の既存の建築レガシーを包含しつつ、また港と都市のスカイラインに登場したダイナミックな新しい建築のビーコン(自分の存在位置を示すようなデザイン、形態、信号など)として存在している。ヨーロッパ・ツアーをされる方たちは、多数の国がひしめきあうヨーロッパの中で訪問先は多いだろうが、時には大都会から遠く離れた場所で、新しいデザインの建築に遭遇するのは面白いのではないだろうか。「オーフスΦ4集合住宅」は、まさにその典型的な例といえそうだ。

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記事提供元:タビリス