名建築ホテルの実測スケッチがエモいとSNSで話題! 朝食やアメニティも実測する遠藤慧さんの制作現場に密着 「all day place shibuya」東京都渋谷区

SUUMOジャーナル

ホテルの実測スケッチがSNSで人気を集め、2023年8月に『東京ホテル図鑑』(学芸出版社)として書籍化が実現した一級建築士・カラーコーディネーターの遠藤慧さん。実測スケッチとは、建築物などの対象物を観察しメジャーなどでそのさまざまな部分を測量、スケッチに落とし込んだもの。初の著書には、「アマン東京」「帝国ホテル」など人気の名建築ホテルがたっぷり収録されています。どのような視点で実測スケッチを描いているのか? ホテルの実測スケッチに密着し、建築スケッチに込めた思いをたっぷり語ってもらいました。

遠藤慧さん。講談社の雑誌『with』にて「実測スケッチで嗜む名作建築」連載中(写真撮影/池田礼)

遠藤慧さん。講談社の雑誌『with』にて「実測スケッチで嗜む名作建築」連載中(写真撮影/池田礼)

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水彩スケッチ集『東京ホテル図鑑』で楽しむ名建築『東京ホテル図鑑 実測水彩スケッチ集』(学芸出版社)(画像提供/遠藤慧さん)

『東京ホテル図鑑 実測水彩スケッチ集』(学芸出版社)(画像提供/遠藤慧さん)

「HOTEL K5」「アマン東京」「K5」「山の上ホテル」「hotel Siro」など東京・近郊で人気のホテルを収録(画像提供/遠藤慧さん)

「HOTEL K5」「アマン東京」「山の上ホテル」「hotel Siro」など東京・近郊で人気のホテルを収録(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤さんは、建築事務所に勤めていたころ、設計のリサーチとしてホテルの実測スケッチを描きはじめました。デザインの勉強のためにホテルを実際に訪れ、建築家が建てた空間を体験しながら描いたスケッチは、現在までに30枚以上! 丁寧に描き込まれた実測スケッチからは、建築を慈しむ遠藤さんの眼差しや感動が伝わってきます。初の著書となる『東京ホテル図鑑』には、2020~2023年、宿泊して描いた23のホテルの実測スケッチを収録。見開きに1つのホテルの要素を詰め込んだ図鑑のような仕上がりです。

見開きページでホテルの1ルームの空間を表現。左ページにはパース(遠近法で描いた線画)、右ページに平面図、中央付近にアメニティを描いた例(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン:乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)

見開きページでホテルの1ルームの空間を表現。左ページにはパース(遠近法で描いた線画)、右ページに平面図、中央付近にアメニティを描いた例(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)

実測したホテルの写真と解説、スケッチの参考にした色や素材のリストも掲載(アマン東京 設計:大成建設、インテリアデザイン:ケリー・ヒル・アーキテクツ)(画像提供/遠藤慧さん)

実測したホテルの写真と解説、スケッチの参考にした色や素材のリストも掲載(アマン東京 設計:大成建設、インテリアデザイン:ケリー・ヒル・アーキテクツ)(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤さんが図鑑的なスケッチを描くようになったきっかけは、東京藝術大学美術学部建築科の授業「建築と表現」の課題でした。

その時試みたのは、建築の空間を表現する際、1つの側面だけではなく、断面や置いてある植物など空間を構成している全てを1枚に収めたスケッチを描くことでした。指導担当の中山英之教授から「君がやりたいのは図鑑なんだよ」と指摘され、遠藤さんはハッとしたと言います。子どものころ、図鑑が好きだったことを思い出したのです。例えば、小学館の図鑑シリーズでは、「タンポポ」のページを見ると、花の断面や蕾から開いていく様子、植物学的な分類、タンポポの花を使った草遊びまで、あらゆる事象がタンポポを説明するものとして、1ページに収められています。幼い遠藤さんにはそれがとても美しく思えたのです。

遠藤さんの実測スケッチには、真上から見た平面図、建物を縦に切った時の断面図、立体的に表現されたパースなどが1枚に収められ、さまざまな角度からホテルの魅力を伝えています。シャンプーや歯ブラシなどのアメニティやフードを描いたマニアックなスケッチも! 情報量が多く、見飽きることがありません。

限られたスペースに機能とデザインを両立させた収納や洗面台は必ずスケッチ。タオル入れやコンセントの配置も描いたスケッチ(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)

限られたスペースに機能とデザインを両立させた収納や洗面台は必ずスケッチ。タオル入れやコンセントの配置も描いたスケッチ(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン:乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤さんの琴線に触れたものは描かれる運命。ルームキーや部屋に飾ってある花も(山の上ホテル 建築設計:ヴォーリズ建築事務所ウィリアム・メレル・ヴォーリズ/現一粒社ヴォーリズ建築事務所)(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤さんの琴線に触れたものは描かれる運命。ルームキーや部屋に飾ってある花も(山の上ホテル 建築設計:ヴォーリズ建築事務所ウィリアム・メレル・ヴォーリズ/現一粒社ヴォーリズ建築事務所)(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の実測スケッチ(設計・施工:UDS)(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の実測スケッチ(設計・施工:UDS)(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の実測スケッチを描いた縁で、ホテルのコンセプトブックのイラストを担当。美しい絵本をめくっているよう(写真撮影/池田礼)

「hotel hisoca」の実測スケッチを描いた縁で、ホテルのコンセプトブックのイラストを担当。美しい絵本をめくっているよう(写真撮影/池田礼)

遠藤さん、一体どうやって描いているんですか!? そこで、実際に宿泊して実測スケッチする過程を見せてもらうことに。著書にも登場する「all day place shibuya」実測スケッチに同行。書籍に収録されているのは、2022年12月、ダブルルームに宿泊し、実測スケッチしたものです。今回は、スイートルームの実測スケッチを行います。

使われている色や素材から設計者の意図を探る

JR渋谷駅から徒歩5分、高低差のある道路に挟まれた角地に立つ「all day place shibuya」。2階のレセプションに、小さなジュラルミンのキャリーケースをひいて現れた遠藤さん。「初めて泊まるお部屋を描けるのがとっても楽しみ!」とにっこり。2回目の来訪ですが、初めて訪れた時のホテルの印象はいかがでしたか。

「一番魅力的に感じたのは、道路との高低差を段状のベンチや花壇で上手く調整しながら、屋外空間をつくっているところです。誰でもするっと入っていけるポケットパークのよう。街にとっても素敵なことだと思います」(遠藤以下略)

街に開きながら囲われた感もあり、ベンチには、コーヒーやビールを手に語り合う人々の姿がありました。

高低差のある道路に囲まれているがレベル差を活かしたエントランス(写真撮影/池田礼)

高低差のある道路に囲まれているがレベル差を活かしたエントランス(写真撮影/池田礼)

床やベンチ、花壇の立ち上がりには緑色のタイルを使用(写真撮影/池田礼)

床やベンチ、花壇の立ち上がりには緑色のタイルを使用(写真撮影/池田礼)

2022年にダブルルームに宿泊した時描いたスケッチ(all day place shibuya 企画・設計・運営:UDS、客室インテリアデザイン:DDAA)(画像提供/遠藤慧さん)

2022年にダブルルームに宿泊した時描いたスケッチ(all day place shibuya 企画・設計・運営:UDS、客室インテリアデザイン:DDAA)(画像提供/遠藤慧さん)

「とても素敵なのは、エントランスに入った時の体験が途切れずに2階まで続いていくこと! 1階のカフェの床に使われている緑色のタイルは、屋外やエレベーターの中まで連続していて、内外が繋がっているんです。多治見の美濃焼を使ったオリジナルのタイルは、色むらが本当にきれいで、街とホテルをグラデーショナルに繋いでくれています」

植栽と相まってイメージカラーの緑が強調されている(写真撮影/池田礼)

植栽と相まってイメージカラーの緑が強調されている(写真撮影/池田礼)

色むらが美しい緑色のタイルがエレベーターの床まで連続している(写真撮影/池田礼)

色むらが美しい緑色のタイルがエレベーターの床まで連続している(写真撮影/池田礼)

建物のインテリアデザインは、DDAA。ホテルのレセプションがある2階のレストランはPuddleによる設計です。

「素材の使い方などデザインコードが似ているので、建物全体に共通言語があると感じます。2階は土色のタイルを床と壁面の一部に用いたデザインですが、エントランスも、床と花壇の立ち上がり部分にタイルを使用していました。レセプションに置かれたアクリル板と金メッキの単管パイプを使った造作のテーブルがすごくカッコイイです!」
※デザインコード
「配置」「色」「形」「素材」など、空間の秩序を構成する「視覚的な約束事」

スタッフが常駐するコミュニケーションテーブルや季節のディスプレイを展示するテーブルは、DDAA・元木大輔さんによるオリジナル(写真撮影/池田礼)

スタッフが常駐するコミュニケーションテーブルや季節のディスプレイを展示するテーブルは、DDAA・元木大輔さんによるオリジナル(写真撮影/池田礼)

一級建築士でありカラーコーディネーターでもある遠藤さんだからこそ気づける視点はハッとすることばかり。解説をしながら壁やテーブルにそっと触れる遠藤さんは、物言わぬ建物と語り合っているように見えます。

「建築は、とても雄弁なんですよ。事前に資料も調べますが、訪れないとわからないことの方が多いんです。設計は箱だけつくるわけじゃなくて、過ごす人のことを考えて雰囲気も含め、トータルにデザインされています。滞在して、その場に身を置くことで、設計者の思いを辿っていきたいと思っています」

2階にあるピッツァ・ダイニング「GOOD CHEESE GOOD PIZZA」では、毎朝、清瀬の農場から届く新鮮な牛乳からつくったチーズを提供(写真撮影/池田礼)

2階にあるピッツァ・ダイニング「GOOD CHEESE GOOD PIZZA」では、毎朝、清瀬の農場から届く新鮮な牛乳からつくったチーズを提供(写真撮影/池田礼)

モーニングで選べる「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」は、もちもちとしたチーズとサーモン、アボカドのコンビネーション(写真撮影/池田礼)

モーニングで選べる「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」は、もちもちとしたチーズとサーモン、アボカドのコンビネーション(写真撮影/池田礼)

描くことで、ものをよく見ることができる

今回、実測スケッチをするのは、「Weekend Suite」(広さ53.7平米・定員2名)です。入室するやいなやドアに貼ってある避難経路図をまじまじと見る遠藤さん。

「フロアにある部屋の並びを確認しているんです。宿泊する部屋が、このフロアで一番多いタイプなのか特殊な位置づけなのか把握することから始めます」

ゆったりとしたソファスペース。22時までならゲストを呼んでパーティ等も可能(写真撮影/池田礼)

ゆったりとしたソファスペース。22時までならゲストを呼んでパーティ等も可能(写真撮影/池田礼)

感嘆の声をあげながら、メモをとったり、収納をのぞいたり、楽しそうな遠藤さん(写真撮影/池田礼)

感嘆の声をあげながら、メモをとったり、収納をのぞいたり、楽しそうな遠藤さん(写真撮影/池田礼)

(写真撮影/池田礼)

(写真撮影/池田礼)

ベッドルームから水回り、収納を見て回ります。ベッドとソファスペースの間にあるユニークな形のオブジェは、オリジナルデザインの照明でした。

「ホームページの写真で見た時は何だろう?と思っていましたが、ベッドとソファスペースの仕切りとしてとても良いですね。金属ブラインドの透け感が良い感じ。ぐにゃぐにゃ柔らかそうな照明でとてもかわいいです」

ベッドルームの壁には首都高をモチーフに制作されたアート(作:安田昴弘氏)が飾られています。以前遠藤さんが宿泊したダブルルームと同様に本棚などの什器には緑色のメラミン化粧板が使われていました。

コーヒーにまつわる本が置かれたシェルフには、コーヒー豆やミルも用意されている(写真撮影/池田礼)

コーヒーにまつわる本が置かれたシェルフには、コーヒー豆やミルも用意されている(写真撮影/池田礼)

積層合板を小口に現したメラミン化粧板の棚。右は壁や床の色や素材を示したもの(画像提供/遠藤慧さん)

積層合板を小口に現したメラミン化粧板の棚。右は壁や床の色や素材を示したもの(画像提供/遠藤慧さん)

「部屋に使用されているメラミン化粧板の緑色は、共用部のタイルの緑色とは印象も実際の色味も違いますが、他の素材がグレーや黒などの無彩色系なので、テーマカラーのグリーンがとてもきれいに伝わってきます。広いお部屋で見ると深い色に見え、本棚の天板が外の光やアートの色をほのかに反射して美しいです。入り巾木や造作家具の収まり、カーテンの見せ方など、ものとものとの取り合いが良いですね。壁面が真っ白ではなくてほんの少しグレーで、自然光を柔らかく広げていて、とても良い見え方になっています」

ホテルの担当者から、ひととおり、部屋の説明を受けたあと、実測がスタート。キャリーケースから次々と道具を取り出します。実測に使うのは、レーザー距離計と金属製のメジャー、色見本帳のほか見慣れない道具も。

左回りに、レーザー距離計、三角スケール、スコヤ(直定規)、コンベックス(金属製メジャー)、色見本帳(写真撮影/池田礼)

左回りに、レーザー距離計、三角スケール、スコヤ(直定規)、コンベックス(金属製メジャー)、色見本帳(写真撮影/池田礼)

「レーザー距離計は部屋の外形など長い距離を測る時に便利です。椅子の高さなど中距離はメジャー、小さな厚みなどはノギス。コップなどの厚みや丸いものの径を測る時に使います」

慣れた手つきでレーザー距離計を壁にあてる遠藤さん。ベッドルームとソファスペースの長辺の長さは7m以上! 実測すると部屋の端から端まで想像以上の距離があり、どうりで広いはずだ!と納得。

「空間を何となく見ているだけでは描けないんです。構造がどうなっているのか理解するために、さまざまな角度からよく見るようにしています」

「後ろが窓になっているのが清々しくてとても良いですね」と遠藤さんお気に入りの洗面所(写真撮影/池田礼)

「後ろが窓になっているのが清々しくてとても良いですね」と遠藤さんお気に入りの洗面所(写真撮影/池田礼)

実測したら、最終的なレイアウトをイメージしながら、スケッチブックにおおよそのレイアウトや気になった家具などを描き、寸法を入れていきます。部屋の規模にもよりますが、その後の下書きやペン入れ、水彩による着彩は自宅で行うことが多いそうです。

(写真撮影/池田礼)

(写真撮影/池田礼)

今回は、スケッチブックにひと晩でこんなに描き込んだというから驚きです(画像提供/遠藤慧さん)

今回は、スケッチブックにひと晩でこんなに描き込んだというから驚きです(画像提供/遠藤慧さん)

描きたいのは、コップではなくコップが置かれた空間編集部に届いた実測スケッチ。設計者やデザイナーの思いと遠藤さんの感動が響き合い、生まれた1枚(画像提供/遠藤慧さん)

編集部に届いた実測スケッチ。設計者やデザイナーの思いと遠藤さんの感動が響き合い、生まれた1枚(画像提供/遠藤慧さん)

完成した実測スケッチを見た瞬間、思わず、ため息がこぼれました。紙面を大胆に使ってソファスペースからベッドルームのパースが描かれています。1階のクラフトビールバーのグラスには高さや幅のサイズが書かれ、「使ってみて欲しくなった!」という備えつけのソーダサーバーまで事細かに描かれています。

左下は、「カッコ良すぎる」と遠藤さんが感じたローテーブル。古材とアクリル板、荷紐のベルトなど素材についてのメモも(画像提供/遠藤慧さん)

左下は、「カッコ良すぎる」と遠藤さんが感じたローテーブル。古材とアクリル板、荷紐のベルトなど素材についてのメモも(画像提供/遠藤慧さん)

壁と床の間にある巾木の素材や壁や家具の足まわりなども事細かに。神は細部に宿るとはまさにこのこと!(画像提供/遠藤慧さん)

壁と床の間にある巾木の素材や壁や家具の足まわりなども事細かに。神は細部に宿るとはまさにこのこと!(画像提供/遠藤慧さん)

チーズのとろとろが見事に描写された「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」。ピンクペッパーがピリッ(画像提供/遠藤慧さん)

チーズのとろとろが見事に描写された「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」。ピンクペッパーがピリッ(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤さん、こんな目線で見ていたんだ……と驚くと共に、自宅のようにくつろいだ部屋の印象が蘇りました。

「空間の雰囲気が伝わったなら、とても嬉しいです。例えば、コップがあった時、私が描こうとしているのは、コップそのものじゃなくて、コップが置かれている空間です。何となくこの部屋いいなと思う時、その理由が1つだけということはあまりないと思います。コップのそばに置いてある食べ物だったり、その後ろにある窓からの光だったり、全部ひっくるめて、良いなと感じているはず。部屋を訪れた時の印象をどうやったら表現できるんだろう? と思って辿り着いたのが、図鑑的にいろんな断面を見せる実測スケッチだったのです」

カーテンを開けた時の感動が伝わってくる(帝国ホテル東京 設計:高橋貞太郎/本館、インテリアコーディネート:ジュリアン・リード/本館インペリアルフロア)(画像提供/遠藤慧さん)

カーテンを開けた時の感動が伝わってくる(帝国ホテル東京 設計:高橋貞太郎/本館、インテリアコーディネート:ジュリアン・リード/本館インペリアルフロア)(画像提供/遠藤慧さん)

実測スケッチ風ホテルステイの楽しみ方

最後に、『東京ホテル図鑑』をもっと楽しむ方法や自分に合ったホテルを選ぶポイントを教えてください。

「SNSには『本は、汚さないように大切にします!』と言ってくださる方もいて有難いのですが、自分で訪れたホテルの感想を書き込んだりして使い込んでもらっても嬉しいです。建築資料として参照できるつくりにこだわったので、自分もとても役立っています。『どうやってホテルを見つけていますか?』という質問もよく受けますが、私は、素敵だなと思ったホテルに巡り合ったら、設計者やデザイナー、運営会社をチェックして、同じ系列のホテルに行ってみたりすることもあります」

表紙カバーの裏には、遠藤さんからのサプライズが。本の中で紹介したホテルの平面図が同じスケールで、入り口の向きをそろえて面積順にズラリ(写真撮影/池田礼)

表紙カバーの裏には、遠藤さんからのサプライズが。本の中で紹介したホテルの平面図が同じスケールで、入り口の向きをそろえて面積順にズラリ(写真撮影/池田礼)

本に紹介されている部屋と同じ部屋に泊まって、遠藤さんが感じたことを追体験したり、スケッチとの違いを感じたりしても楽しそう! 逆に実測スケッチされていない部屋に泊まるのもアリ。こういうパターンのデザインもあるんだ!など気づきがありそうです。

遠藤さんが実測スケッチを描くモチベーションは、「行ってめちゃくちゃ良かった!」という自分の感想を伝えたいというシンプルな思いです。

「こういう風に描いたら良さが伝わるんじゃないかと思いつくと、ワクワクするんですよ。スケッチを見た人から『行ってみたくなった!』というコメントが届くとすごく嬉しいですね」

建築をよく見て思いを込めて描くからこそ、遠藤さんは、設計者やデザイナーが建物に込めた物語を見つけることができるのでしょう。

『東京ホテル図鑑』のスケッチからは、街とホテル、雰囲気や居心地のデザインなど当たり前に過ごしていた空間がどのようにつくられているのかを学ぶことができます。「いつか海外のホテルを実測スケッチして本を出したい」と語った遠藤さん。以前、「all day place shibuya」の担当者が、レセプションで『東京ホテル図鑑』を展示したところ、海外のお客さんに大反響だったそう。夢が叶う日はそう遠くないかもしれません。

●取材協力
・遠藤慧(X:Twitter)
・all day place shibuya

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記事提供元:タビリス