東京都の相談窓口には不動産取引の相談が年間約2万件も!その中でも多い契約に関するトラブルの適切な契約手順とは?

SUUMOジャーナル

東京都では、2022年度に消費者から都に寄せられた不動産取引に関する相談と、それを受けて都が宅地建物取引業者(宅建業者)に行った行政指導などについて取りまとめ、その概要を公表した。その内容を見ると、不動産の売買や賃貸借の取引でどういったトラブルが多いのかが分かる。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」を公表/東京都

不動産取引に関する消費者相談は売買・賃貸ともに契約に関する相談が多い

まず押さえておきたいことは、東京都の相談窓口では、「宅地建物取引業法(宅建業法)」の規制対象となる不動産取引の消費者相談について受け付けていること。都は宅建業者を指導監督する立場にあるからで、物件選びなどの相談は対象外となる。また、都民(個人)を対象に「不動産取引特別相談室」を設けて、宅建業者が関わる民事上の紛争などについて、弁護士などによる相談も行っている。

東京都が公表した概要によると、窓口での相談受付件数は、過去5年間は年間2万件前後で推移しているが、コロナ禍以降は面談による相談が減少し、2022年度は電話による相談が99.0%を占めたという。

その相談内容を見ると、「面談による相談」では、売買、賃貸借ともに重要事項説明や契約内容など契約に関する相談が多い。また、「電話による相談」でも、契約に関する相談が多いが、賃貸借では敷金(原状回復)についての相談が最多の3800件にのぼった。

「面談による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全86件)賃貸借に関する相談(全112件)1重要事項説明31件重要事項説明・契約内容42件2契約内容15件敷金(原状回復)25件3報酬・費用請求等/契約前相談各6件管理(設備の瑕疵等)10件

「電話による相談」における主な相談内容

順位売買に関する相談(全4,118件)賃貸借に関する相談(全15,265件)1契約前相談602件敷金(原状回復)3,800件2重要事項説明517件重要事項説明・契約内容2,729件3契約の解除407件管理(設備の瑕疵等)2,249件※特別相談室における相談及びその他の相談(不動産取引以外の相談等)を除く。
消費者からの相談内容(出典/東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」)

「面談」で契約に関する相談が多いのは、不動産取引の最大の山場であり、重要事項説明書や契約書などの関係書類を実際に見せながら相談できるからだろう。特に金額が大きい売買の相談の比率が高くなっている。一方、「電話」相談は、移動などの時間的な制約を受けないことに加えて、退去するときに原状回復費用の負担について宅建業者と借主で合意できずに早急に相談したいといった、緊急性がある場合も多いからだろう。

相談内容に法令違反の疑いがあれば調査し、行政処分も行う

東京都では、相談の内容に法令違反の疑いがある場合は、宅建業者に対して調査などを行い、違反が認められれば監督処分を行うことになる。2022年度は76件で宅建業法違反の疑いがあり、調査に至っている。

その具体的な事例も公表されているので、いくつか見ていこう。

重要事項説明(宅建業法第35条)については、宅地建物取引士が説明を行わなかった事例、本来説明すべき内容について説明をしなかった事例などがあった。重要事項の不告知(宅建業法第47条)については、買主に不利になる情報を認識していたのに、故意に告げなかった事例があった。

ほかにも、おとり広告(取引できない物件を広告)を行ったり、契約書を交付しなかったりといった法令違反の事例も見られた。

調査で違反が認められれば、東京都は業務停止等の処分や指導勧告などを行うが、2022年度では72件の事例があった。ただし、この件数は年々減少している。

ルールに則った適切な不動産取引の契約とは?

ここで、不動産取引における契約に関するルールを確認しておこう。

○物件を決めて申し込む
買うあるいは借りる物件を決めたら、宅建業者を通じて正式に申し込む。この際に、申込金などの名目で内金を入れる場合があるが、一般的には契約の意志を表示するために預けたお金なので、正式に契約を結ぶ前であれば撤回でき、預けた申込金は返還される。念のために領収書ではなく、「預かり証」を受け取っておくとよい。

○契約前に重要事項説明を受ける
買う場合であれば住宅ローンの審査を経て、借りる場合であれば入居審査を経て、正式に契約することになる。宅建業法では、契約する前に、宅建業者が宅地建物取引士をもって物件や契約条件などに関する重要事項説明を行うことを義務※づけている。
※賃貸借契約の場合、宅建業者が仲介や代理ではなく、貸主として借主と直接契約する場合は、重要事項説明が義務づけられていない。

○正式に契約を結ぶ
重要事項説明を受けて納得できたら、正式に契約を結ぶ。一般的には、契約書を作成して取り交わすことになる。契約が成立したら、宅地建物取引士が記名押印した契約書を遅滞なく交付することが定められている。売買契約の場合、契約時に買主が売主に「手付金」を支払うのが一般的だが、契約後に買主が契約を解除する場合は手付金を放棄することになる(売主が解除する場合は手付金の倍返しをする)。

なお、重要事項説明や契約の際に、かつては書面を交付して押印する必要があったが、オンライン上の電子書面で取引するなど「電子契約」も可能になった。

○原状回復の取り決めについて
国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を、東京都では「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を定めている。これらによると、「経年変化や通常の使用による損耗等の復旧」は貸主が負担し、「故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等の復旧」などは借主が原状回復として負担するとしている。ただし、契約時に双方が合意して、特約によって異なる取り決めをすることは可能。

不動産取引の参考になる手引きなどもホームページに公開

さて、東京都では、不動産取引の知識や経験があまりない消費者が、ともすれば宅建業者に言われるがまま十分に確認をしないで契約を結んでしまい、トラブルが生じるケースが多いことから、ホームページにいろいろな手引書を公開している。

「不動産売買の手引」、「住宅賃貸借(借家)契約の手引」などの基本情報から、特に賃貸借で多い原状回復における貸主・借主の費用負担の基本的な考え方を示した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(日本語・英語版)など、不動産取引で知っておきたい情報を公開しているので、見ておくとよいだろう。
注:東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」については、東京都内の居住用の賃貸住宅のみが対象となる点に注意。

さて、生活の拠点を手に入れるために不動産取引を行う場合、トラブルになると拠点が定まらず、生活に支障をきたす場合もある。さらに、それなりの金額が動くこともあり、後悔のないようにしたいものだ。知らなかった、確認を怠ったでは済まされないので、物件を検索することと併せて、適切な手順やルールなどについても情報を収集し、チェックすべきポイントを見逃さないようにしてほしい。

●関連サイト
東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和4年度)」の公表について」
東京都「不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業者指導等の概要」

【住まいに関する関連記事】

今も残る「外国人に部屋を貸したくない」。偏見と闘う不動産会社や外国人スタッフに現場のリアルを聞いた
外国人は家賃滞納ナシでも入居NGが賃貸の実態。積極受け入れで入居率100%のスーパー大家・田丸さんの正攻法
外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!
住まいに関するコラムをもっと読む
記事提供元:タビリス