観光を起爆剤に誇れるわが街に コロナ禍前を上回る訪日外国人の国内消費は喜ばしいが 渡部晶(財務省勤務)
2023/11/2 11:22 ジョルダンニュース編集部
観光庁は、10月18日に、2023年7-9月期の訪日外国人消費動向調査結果(1次速報)を公表した(注1)。これによれば、今年7月から9月までの3か月間に日本を訪れた外国人が国内で消費した金額は、速報値で1兆3904億円となった。3か月間の消費額がこれまでで最も多かったのはコロナ禍前の2019年4月から6月までの1兆2673億円であったが、これを上回って過去最高となった。1人あたりの消費額は平均で21万1000円。これも19年同期より29.4%増えた。
この発表について、「政府は今年3月に定めた『観光立国推進基本計画』で、25年までに1人あたり20万円にする目標を掲げていたが、すでに上回った。総額の目標である年間5兆円を超える勢いだ。」と朝日新聞は報じていた(注2)。
急速なインバウンドの回復で一息ついている観光業関係者も多いことだろう。それ自体は大変喜ばしい。しかし、官民ファンドの地域経済活性化支援機構(以下「REVIC」)(注3)の柴田聡常務が指摘するように(注4)、日本全国を見渡すと、コロナ前から、人口減少等による利用者減、デフレ下の平均単価の低迷、バブル期以降の過剰債務、経営者の高齢化、施設の老朽化等の構造課題に悩む観光地も多いのが実態だ。
REVICは、2023年3月9日に、青森・浅虫温泉の老舗旅館である南部屋旅館、ホテル秋田屋、椿館の3社の事業再生の支援決定を行った。地域の事業者が共同して、面的な魅力向上に取り組むプロジェクトを、REVICと地域金融機関が連携してサポートするものだ。
このうち、REVICが支援に際して公表した「株式会社椿館に対する再生支援決定について」(注5)によれば、
「浅虫温泉は、青森市の奥座敷として近隣住民はもとより県外観光客も訪れる伝統的な温泉地であり、開湯800年超の歴史や陸奥湾に面した風光明媚なロケーション、また棟方志功などの芸術家ゆかりの地としても地域観光の振興に貢献しています。再生支援対象事業者は、温泉旅館として400年余りの歴史を有し、自家源泉により温泉を提供するなど、この温泉地の旅館群を代表する旅館事業者として重要な宿泊機能等のサービスを提供しています。加えて、当該旅館には棟方志功が宿泊して描き残していった多くの美術品が展示され、再生支援対象事業者は、当地の文化の継承・発信の中心的な存在として、地域経済の活性化に寄与しております。
また、再生支援対象事業者は、機構関与の下、当該温泉地の他の旅館事業者その他の地元企業、地元金融機関であるみちのく銀行及び株式会社青森銀行とともに、観光地経営会社を設立し、旅館事業者における管理業務の効率化や地域全体の集客力を上げるためのマーケティング等に係る業務を実施することを予定しており、新たな取組みも進めていきます。」
という。
柴田常務によれば、浅虫温泉の活性化は、地元事業者の共同オペレーションの導入という新しいアプローチであり、全国的にも先導的な事例になるという。
その後、6月1日に観光地経営会社(DMC)「MOSPAあさむし共創プラットフォーム」も設立されたところだ(注6)。
筆者も時々関東近辺の著名な温泉地に行くことがあるが、「団体から個人への旅行形態の変化への対応や必要な設備投資が遅れ、収益改善に向けた有効な施策を実施することができ」(REVIC)ていない温泉地が目に付く。
REVICは、旧来の金融機関がしり込みして資金提供をしてこなかった古民家の再生による観光事業に先駆的に投融資を行い、最近の観光業の発展に大きな貢献をしてきた。古民家再生を観光まちづくりの重点分野と位置づけ、ネックとなる「人材」と「資金」を提供してきたのであった。兵庫県丹波篠山や長野県山ノ内町の湯田中温泉での取組みは古民家再生の成功事例として全国に知られている。
今回の青森県浅虫温泉での新たな官民連携の取組みが日本の温泉地に新たな風を吹かせることを大いに期待したいと思う。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中
(注1)訪日外国人消費動向調査2023年7-9月期(1次速報)について
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000528.html
(注2)朝日新聞デジタル「訪日消費額、初のコロナ前超え 7~9月期、円安追い風で17% 増」(10月18日)
https://digital.asahi.com/articles/ASRBL4RT9RBKULFA03Z.html
(注3)拙稿「地域経済活性化支援機構 (REVIC)による地域活性化の 取り組みとその意義 ~平成27年度の活動を中心に」『ファイナンス』(平成28(2016)年9月号)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10248500/www.mof.go.jp/public_relations/finance/201609f.pdf
(注4)柴田聡氏のリンクトインへの投稿記事
【青森・浅虫温泉】地域経済活性化支援機構REVICの取組事例①
https://www.linkedin.com/posts/satorushibata_%E6%B5%85%E8%99%AB%E6%B8%A9%E6%B3%89%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%86%8D%E7%94%9F%E8%B3%87%E9%87%91%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%AB9%E5%84%845%E5%8D%83%E4%B8%87%E5%86%86%E8%A6%B3%E5%85%89%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E9%9B%87%E7%94%A8%E9%9D%92%E6%A3%AE-activity-7056248360248250368-8aKL
(注5)株式会社地域経済活性化支援機構「株式会社椿館に対する再生支援決定について」(2023年3月9日)
https://www.revic.co.jp/pdf/news/2023/230309newsrelease-3.pdf
(注6)株式会社地域経済活性化支援機構「株式会社MOSPAあさむし共創プラットフォームに対する専門家派遣の決定および浅虫温泉地区「面的活性化」始動のお知らせ」(2023年6月1日)
https://www.revic.co.jp/pdf/news/2023/230601newsrelease.pdf
この発表について、「政府は今年3月に定めた『観光立国推進基本計画』で、25年までに1人あたり20万円にする目標を掲げていたが、すでに上回った。総額の目標である年間5兆円を超える勢いだ。」と朝日新聞は報じていた(注2)。
宿泊者や単価の減少、経営者の高齢化など構造問題山積の観光地
急速なインバウンドの回復で一息ついている観光業関係者も多いことだろう。それ自体は大変喜ばしい。しかし、官民ファンドの地域経済活性化支援機構(以下「REVIC」)(注3)の柴田聡常務が指摘するように(注4)、日本全国を見渡すと、コロナ前から、人口減少等による利用者減、デフレ下の平均単価の低迷、バブル期以降の過剰債務、経営者の高齢化、施設の老朽化等の構造課題に悩む観光地も多いのが実態だ。
REVICは、2023年3月9日に、青森・浅虫温泉の老舗旅館である南部屋旅館、ホテル秋田屋、椿館の3社の事業再生の支援決定を行った。地域の事業者が共同して、面的な魅力向上に取り組むプロジェクトを、REVICと地域金融機関が連携してサポートするものだ。
このうち、REVICが支援に際して公表した「株式会社椿館に対する再生支援決定について」(注5)によれば、
「浅虫温泉は、青森市の奥座敷として近隣住民はもとより県外観光客も訪れる伝統的な温泉地であり、開湯800年超の歴史や陸奥湾に面した風光明媚なロケーション、また棟方志功などの芸術家ゆかりの地としても地域観光の振興に貢献しています。再生支援対象事業者は、温泉旅館として400年余りの歴史を有し、自家源泉により温泉を提供するなど、この温泉地の旅館群を代表する旅館事業者として重要な宿泊機能等のサービスを提供しています。加えて、当該旅館には棟方志功が宿泊して描き残していった多くの美術品が展示され、再生支援対象事業者は、当地の文化の継承・発信の中心的な存在として、地域経済の活性化に寄与しております。
また、再生支援対象事業者は、機構関与の下、当該温泉地の他の旅館事業者その他の地元企業、地元金融機関であるみちのく銀行及び株式会社青森銀行とともに、観光地経営会社を設立し、旅館事業者における管理業務の効率化や地域全体の集客力を上げるためのマーケティング等に係る業務を実施することを予定しており、新たな取組みも進めていきます。」
という。
地元事業者の共同オペレーションの先導事例、浅虫温泉
柴田常務によれば、浅虫温泉の活性化は、地元事業者の共同オペレーションの導入という新しいアプローチであり、全国的にも先導的な事例になるという。
その後、6月1日に観光地経営会社(DMC)「MOSPAあさむし共創プラットフォーム」も設立されたところだ(注6)。
筆者も時々関東近辺の著名な温泉地に行くことがあるが、「団体から個人への旅行形態の変化への対応や必要な設備投資が遅れ、収益改善に向けた有効な施策を実施することができ」(REVIC)ていない温泉地が目に付く。
REVICは、旧来の金融機関がしり込みして資金提供をしてこなかった古民家の再生による観光事業に先駆的に投融資を行い、最近の観光業の発展に大きな貢献をしてきた。古民家再生を観光まちづくりの重点分野と位置づけ、ネックとなる「人材」と「資金」を提供してきたのであった。兵庫県丹波篠山や長野県山ノ内町の湯田中温泉での取組みは古民家再生の成功事例として全国に知られている。
今回の青森県浅虫温泉での新たな官民連携の取組みが日本の温泉地に新たな風を吹かせることを大いに期待したいと思う。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中
(注1)訪日外国人消費動向調査2023年7-9月期(1次速報)について
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000528.html
(注2)朝日新聞デジタル「訪日消費額、初のコロナ前超え 7~9月期、円安追い風で17% 増」(10月18日)
https://digital.asahi.com/articles/ASRBL4RT9RBKULFA03Z.html
(注3)拙稿「地域経済活性化支援機構 (REVIC)による地域活性化の 取り組みとその意義 ~平成27年度の活動を中心に」『ファイナンス』(平成28(2016)年9月号)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10248500/www.mof.go.jp/public_relations/finance/201609f.pdf
(注4)柴田聡氏のリンクトインへの投稿記事
【青森・浅虫温泉】地域経済活性化支援機構REVICの取組事例①
https://www.linkedin.com/posts/satorushibata_%E6%B5%85%E8%99%AB%E6%B8%A9%E6%B3%89%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%86%8D%E7%94%9F%E8%B3%87%E9%87%91%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%AB9%E5%84%845%E5%8D%83%E4%B8%87%E5%86%86%E8%A6%B3%E5%85%89%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E9%9B%87%E7%94%A8%E9%9D%92%E6%A3%AE-activity-7056248360248250368-8aKL
(注5)株式会社地域経済活性化支援機構「株式会社椿館に対する再生支援決定について」(2023年3月9日)
https://www.revic.co.jp/pdf/news/2023/230309newsrelease-3.pdf
(注6)株式会社地域経済活性化支援機構「株式会社MOSPAあさむし共創プラットフォームに対する専門家派遣の決定および浅虫温泉地区「面的活性化」始動のお知らせ」(2023年6月1日)
https://www.revic.co.jp/pdf/news/2023/230601newsrelease.pdf
記事提供元:タビリス