観光を起爆剤に誇れるわが街に 地域ブランド形成、着地型観光定着にはそれなりの時間がかかるが 渡部晶(財務省勤務)
2023/12/15 9:56 ジョルダンニュース編集部
今回の投稿が最後になるので、筆者が応援大使(注1)を務めている郷里の福島県いわき市について紹介してみたい。
いわき市は、南東北・福島県の東南端、茨城県と境を接する、東京23区の約2倍の広大な面積を持つまちだ。東は太平洋に面しているため、寒暖の差が比較的少なく、温暖な気候に恵まれた地域である。福島県は、海側から大きく浜通り、中通り、会津地方の3地方に分かれるが、いわき市は浜通りにある。1964年に「新産業都市建設促進法」に基づく『常磐・郡山地区新産業都市』の指定を受け、その有効かつ適切な遂行を図るため、14市町村の対等合併により、1966年10月に誕生した自治体である。人口は30万人規模で、通常の市より多い権限を付与される中核市の指定を受ける。政令市の仙台市に次ぐ、東北第二の都市である。
交通アクセスとしては、東京駅より特急ひたちでいわき駅まで2時間半程度、東京駅にある高速バスターミナルから、常磐自動車道を利用した高速バスで、いわき駅にあるバスターミナルまで、途中休憩を入れて3時間程度である。
いわき市では、2018年に、市の魅力を市内外に広く発信し、都市イメージ・都市ブランド力を高めるため、指針となる「いわき市シティセールス基本方針」を策定した。その策定過程では、半世紀前に常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)の誕生とともに生まれた、いわきの「フラ文化」に着目し、日本のフラ文化発祥の地「いわき市」に根付いているアイデンティティは「フラ」であることを改めて認識したという。
放映中のNHK朝ドラ「ブギウギ」に出演の蒼井優さんのフラダンスが印象的な、2006年の映画「フラガール」の大ヒットは大変な好運だった。今後、いわき市が多くの人々から「選ばれるまち」となるために、メインコンテンツとして選定した「フラ」をはじめ、数ある地域資源を効果的に利活用したシティセールスを展開するとしている(注2)。
今年で第11回目となった「フラガールズ甲子園」(文部科学大臣杯 全国高等学校フラ競技大会)は、全国から高校生のフラダンスチームが集結して演技を競う、「東北のハワイ」、フラシティならではの、とても素晴らしい取組みだ(注3)。
いわき市観光は、伝統的には、関東圏から団体旅行を受け入れ、その日の夜の宴会、一泊して翌日はゴルフや海浜を楽しんで帰宅、という形態がメインだったことは否めない。
ところが、東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害の長期化は、ゴルフ場の利用客の大幅な落ち込みなどにより、これに大きなダメージを与えた。加えて、旅行のありようは、個人旅行へとシフトし、リピーターが重要な役割を占めるようになってきた。「着地型観光」がキーワードだ。「旅行商品は、旅行会社が企画販売するいわゆる発地型が大半で、大都市圏に住む旅行者のニーズを把握し作られてきた。一方で、旅行の個人化が進んだ結果、本物志向や旅先でしか味わえないものを求める傾向が強まり、その嗜好も十人十色と細分化した。そこで、地元に精通した人たちが知恵を出し、工夫をこらして魅力的なプログラムを作ろうとする動きが徐々に表れてきた」(注4)のだ。
最近のいわき市の主な観光振興の取り組みは、いわき市によれば、概ね以下のようなものである(注5)。
・福島県が中心となり指定を目指している「ナショナルサイクルルート」及びいわき市による市内海岸線の自転車道「七浜海道」の整備。
・いわき市が市内におけるビーチフラやサーフィン、SUPなどのアウトドアスポーツを紹介等している「フラシティアウトドア」の展開。
・いわき市に水揚げされる魚介類、伝統と工夫から生まれる水産加工品等をブランド化した「常磐もの」の取組み。
・フラシティを標榜するいわき市職員が夏場のクールビズ期間にアロハシャツを着用して業務に当たる取組み。
・浜通り地方13市町村により組織される「うつくしま浜海道観光推進会議」による長距離を歩く「トレイル」ルートの策定。
・いわき湯本温泉の温泉宿の女将が「フラ女将」を組織し、湯本温泉の振興のため、定期的なステージ活動を行う取組み。
地域のブランド形成、着地型観光の定着にはそれなりの時間がかかる。いわき市も、2018年に決めた「フラ」を中核としたシティセールスに地道に取り組めるか、地方の観光の行く末を占う1つのモデルとして今後も注目・応援していきたい。
(注1)「いわき応援大使」
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000003628/index.html
(注2)「フラシティIWAKI」 https://iwaki-hula.jp/
(注3)「全国高等学校フラ競技大会 フラガールズ甲子園」
http://www.hula-girls.net/index.html
(注4)JTB総合研究所・観光用語集より「着地型商品」の項。
https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/leading-experience-tour/
(注5)「いわき市観光サイト」 https://kankou-iwaki.or.jp/
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
いわき市は、南東北・福島県の東南端、茨城県と境を接する、東京23区の約2倍の広大な面積を持つまちだ。東は太平洋に面しているため、寒暖の差が比較的少なく、温暖な気候に恵まれた地域である。福島県は、海側から大きく浜通り、中通り、会津地方の3地方に分かれるが、いわき市は浜通りにある。1964年に「新産業都市建設促進法」に基づく『常磐・郡山地区新産業都市』の指定を受け、その有効かつ適切な遂行を図るため、14市町村の対等合併により、1966年10月に誕生した自治体である。人口は30万人規模で、通常の市より多い権限を付与される中核市の指定を受ける。政令市の仙台市に次ぐ、東北第二の都市である。
交通アクセスとしては、東京駅より特急ひたちでいわき駅まで2時間半程度、東京駅にある高速バスターミナルから、常磐自動車道を利用した高速バスで、いわき駅にあるバスターミナルまで、途中休憩を入れて3時間程度である。
日本のフラ文化発祥の地「いわき市」
いわき市では、2018年に、市の魅力を市内外に広く発信し、都市イメージ・都市ブランド力を高めるため、指針となる「いわき市シティセールス基本方針」を策定した。その策定過程では、半世紀前に常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)の誕生とともに生まれた、いわきの「フラ文化」に着目し、日本のフラ文化発祥の地「いわき市」に根付いているアイデンティティは「フラ」であることを改めて認識したという。
放映中のNHK朝ドラ「ブギウギ」に出演の蒼井優さんのフラダンスが印象的な、2006年の映画「フラガール」の大ヒットは大変な好運だった。今後、いわき市が多くの人々から「選ばれるまち」となるために、メインコンテンツとして選定した「フラ」をはじめ、数ある地域資源を効果的に利活用したシティセールスを展開するとしている(注2)。
今年で第11回目となった「フラガールズ甲子園」(文部科学大臣杯 全国高等学校フラ競技大会)は、全国から高校生のフラダンスチームが集結して演技を競う、「東北のハワイ」、フラシティならではの、とても素晴らしい取組みだ(注3)。
いわき市観光は、伝統的には、関東圏から団体旅行を受け入れ、その日の夜の宴会、一泊して翌日はゴルフや海浜を楽しんで帰宅、という形態がメインだったことは否めない。
地方の観光の行く末を占う1モデルとして注目・応援したい
ところが、東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害の長期化は、ゴルフ場の利用客の大幅な落ち込みなどにより、これに大きなダメージを与えた。加えて、旅行のありようは、個人旅行へとシフトし、リピーターが重要な役割を占めるようになってきた。「着地型観光」がキーワードだ。「旅行商品は、旅行会社が企画販売するいわゆる発地型が大半で、大都市圏に住む旅行者のニーズを把握し作られてきた。一方で、旅行の個人化が進んだ結果、本物志向や旅先でしか味わえないものを求める傾向が強まり、その嗜好も十人十色と細分化した。そこで、地元に精通した人たちが知恵を出し、工夫をこらして魅力的なプログラムを作ろうとする動きが徐々に表れてきた」(注4)のだ。
最近のいわき市の主な観光振興の取り組みは、いわき市によれば、概ね以下のようなものである(注5)。
・福島県が中心となり指定を目指している「ナショナルサイクルルート」及びいわき市による市内海岸線の自転車道「七浜海道」の整備。
・いわき市が市内におけるビーチフラやサーフィン、SUPなどのアウトドアスポーツを紹介等している「フラシティアウトドア」の展開。
・いわき市に水揚げされる魚介類、伝統と工夫から生まれる水産加工品等をブランド化した「常磐もの」の取組み。
・フラシティを標榜するいわき市職員が夏場のクールビズ期間にアロハシャツを着用して業務に当たる取組み。
・浜通り地方13市町村により組織される「うつくしま浜海道観光推進会議」による長距離を歩く「トレイル」ルートの策定。
・いわき湯本温泉の温泉宿の女将が「フラ女将」を組織し、湯本温泉の振興のため、定期的なステージ活動を行う取組み。
地域のブランド形成、着地型観光の定着にはそれなりの時間がかかる。いわき市も、2018年に決めた「フラ」を中核としたシティセールスに地道に取り組めるか、地方の観光の行く末を占う1つのモデルとして今後も注目・応援していきたい。
(注1)「いわき応援大使」
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000003628/index.html
(注2)「フラシティIWAKI」 https://iwaki-hula.jp/
(注3)「全国高等学校フラ競技大会 フラガールズ甲子園」
http://www.hula-girls.net/index.html
(注4)JTB総合研究所・観光用語集より「着地型商品」の項。
https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/leading-experience-tour/
(注5)「いわき市観光サイト」 https://kankou-iwaki.or.jp/
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス