転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線

SUUMOジャーナル

長野県東部に位置し、軽井沢にもほど近い小諸(こもろ)市。3年連続で転入者が転出者を上回り、2021年は16人増、2022年は一気に169人増、2023年は7月末時点で187人増と目覚ましい伸びを見せ、注目を集めています。その理由のひとつは、「小諸のまち歩きが楽しくなってきたから」。若い世代の人たちが出かけたくなるまちをめざしたプロジェクトの立役者のひとり、高野慎吾さんにお話をうかがいました。

小諸市役所の産業振興部商工観光課企業立地定住促進係に勤める高野慎吾さん(写真撮影/窪田真一)

小諸市役所の産業振興部商工観光課企業立地定住促進係に勤める高野慎吾さん(写真撮影/窪田真一)

小諸市は、雄大な浅間山を望む自然豊かなまち。古くは小諸城の城下町として、また北国街道の宿場町として栄え、明治~昭和初期には多くの人が集まる商都としてにぎわいました。しかしながら、時代の流れとともに人は減少。まちには空き店舗や空き家が目立つように。転出者が転入者を上回る社会減は、年間100人を超えるほどになりました。
そんな危機的状況が、ここ数年で一転。2020年からは転入者が転出者を上回る社会増が続き、今年度は200人増に近づく勢いを見せています。さまざまな要因が考えられるなか、高野慎吾さんたちが立ち上げた「おしゃれ田舎プロジェクト」の取り組みが、ひとつの鍵となっているようです。

長野県松本市出身の高野さんは、小諸市役所に勤めるいわゆる行政マン。以前は移住担当の仕事をしていたことがあり、当時移住相談に来た人に「小諸、いいところですよ」と口では言っていたものの、胸を張ってアピールできなかったと本心を明かします。「市役所の周辺にも空き店舗が多く、シャッター通り。地域に元気がないなと感じていました」
そこで2019年秋、市の職員有志で、まちを考える会を開きます。移住促進のその前に、まずは空き店舗を解消し、にぎわいのあるまちにすることが大切だと考えた高野さんたちは、「若い世代が出かけたくなるまち」をめざすことに。それが「おしゃれ田舎プロジェクト」の始まりでした。

「休みの日、小諸の人たちは上田や佐久、軽井沢に買い物に行っていたんですよね。小諸にもっと行きたくなるお店が増えれば、逆に上田や佐久、軽井沢から小諸に来てくれるようになる。車で30分の距離は、十分、商圏になり得ます」
そうしてまちに活気があふれれば、住みたいまちになるはずだ、と考えたのです。

しなの鉄道とJR小海線が利用できる小諸駅。駅前にはコンビニをはじめチェーン店は見当たらない(写真撮影/塚田真理子)

しなの鉄道とJR小海線が利用できる小諸駅。駅前にはコンビニをはじめチェーン店は見当たらない(写真撮影/塚田真理子)

メンバーは、「まちなかで商売をする商人たち」と「少数の行政マン」

「おしゃれ田舎プロジェクト」の具体的な活動内容は、田舎で開業したい人と、空き店舗をマッチングすること。高野さんはじめプロジェクトメンバーは、まちを歩いて物件情報を集めておき、開業希望者に事業内容や要望に合った物件を紹介します。

ただそれだけではありません。プロジェクトでは、お店同士、お店と地域といった横のつながりを最重視。「個」でがんばるのではなく、新規に開業する人と既に商売をしている人たちが「チーム」となって、ともに楽しみながらまちを盛り上げ、経営を軌道にのせて長く続けていく。そのためのサポートに取り組んでいます。

小諸宿が栄えた江戸、明治、大正時代の大きな商家が立ち並ぶ本町の通り(写真撮影/塚田真理子)

小諸宿が栄えた江戸、明治、大正時代の大きな商家が立ち並ぶ本町の通り(写真撮影/塚田真理子)

「おしゃれ田舎プロジェクト」のメンバーは現在18人。市役所職員は高野さんともう1人だけで、施工会社や飲食店経営者、地域おこし協力隊、地元テレビのキャスターなど、小諸で働く“まちのプレイヤー”が大半を占めます。「行政が主導でやると、つまらなく見えてしまうかなと。異動があれば引き継げなくなるし。それよりも、まちの中のプレイヤーたちに混じって課外活動的にやる方が、全力で盛り上げられると思いました」

とはいえ、市役所職員が関わっていると聞けば、開業希望者にとって安心感もあるものです。めぼしい空き店舗は所有者に電話したり、ときには呼び鈴を鳴らして賃貸のお願いをしたりするそうですが、そうした際の信頼度は行政マンの強みといえるでしょう。

新しいこと好きという小諸市長からも公認され、高野さんが「おしゃれ田舎プロジェクト」に関わることは職務の一部としてみなされています。週末に活動することも少なくないそうですが、をモットーに、「できる範囲でやる、おせっかい団体のようなものです」と高野さんは朗らかに笑います。

もちろん、高野さんらプロジェクトの仲間たちは物件をマッチングした際も手数料などは受け取らず、物件の契約は地元の不動産会社に引き継ぎ、そこで仲介業務をしてもらう形をとっています。

それでは、実際に「おしゃれ田舎プロジェクト」を通じて小諸でお店を始めた人たちに話を聞いてみましょう。

高品質な小諸の花を地域から発信したくて、花屋をオープン小諸の冬は寒いけれど、人は本当にあったかいと話す黒木さん夫妻(写真撮影/窪田真一)

小諸の冬は寒いけれど、人は本当にあったかいと話す黒木さん夫妻(写真撮影/窪田真一)

花屋「CAKES(ケイクス) ハナトコモノ」を営むのは、神奈川県から移住してきた黒木幸太さん、可奈さん夫妻。贈り物に、自分へのご褒美に、ケーキを買うように気軽に花を取り入れてほしい、という思いでつけた店名です。

花の専門学校で学び、長年花の仕事に携わってきた幸太さんは、信州の花は色のりが良く持ちがいいことを知り、現地からその魅力を発信できないかと考えました。「コロナ禍で、家で調べる時間がたくさんあって、オンラインで長野県の移住セミナーを受けたんです。その後、レンタカーで佐久市と上田市に行ってみた帰り、小諸市のことはなにも知らなかったんですけど、小諸駅を目的地にして立ち寄ってみたら、駅前に『停車場ガーデン』という緑いっぱいの素敵なガーデンがあって。まちを歩けば通りには古い家並みが残っていて、そのなかに新しいお店もできていて、肌感でおもしろそうなまちだな、と感じました」(幸太さん)

「おしゃれ田舎プロジェクト」のことはネットで知り、「どうせ移住するならおもしろい取り組みをやっているところがいいな」(可奈さん)と、小諸での開業を希望。連絡を取り、高野さんに物件を案内してもらったのです。

色とりどりの生花やドライフラワーが並ぶ。晴れの日が多く、坂があって風が抜ける小諸のまちは、ドライフラワーをつくるのにうってつけの環境だという(写真撮影/窪田真一)

色とりどりの生花やドライフラワーが並ぶ。晴れの日が多く、坂があって風が抜ける小諸のまちは、ドライフラワーをつくるのにうってつけの環境だという(写真撮影/窪田真一)

高野さんには本当によく面倒を見てもらった、と感謝するふたり(写真撮影/窪田真一)

高野さんには本当によく面倒を見てもらった、と感謝するふたり(写真撮影/窪田真一)

地域のつながりを大切に。「小諸に来てくれてありがとう」の言葉が支えに

2022年7月に小諸に移住し、9月に開業。旧北国街道沿いに立つ花屋の物件は、もともと酒屋だったところで、4年間ほど空き店舗になっていました。上下水道が使えて広さは18坪ほど。大きな植物を運ぶのに駐車場が付いているのが気に入った点です。

「高野さんは、物件をただ案内してくれるだけでなく、まちの人たちに『今度花屋を開く方たちです』と紹介してくれて。商工会議所の青年部にもつないでくださり、開業前に横のつながりができたのが本当にありがたかった」とふたりは話します。

特に「CAKES」のある与良(よら)地区は地域の結びつきが強く、古くから住む人も外から移住してきた人も、分け隔てなくお付き合いする文化があるのだそう。2~3カ月に1度開かれる「与良会」という意見交換会のような集まりにも、積極的に参加しているふたり。高野さんは物件を案内する際、そういったまちの輪に溶け込める人なのかどうかも、さりげなく見極めているといいます。

地元の花農家の規格外の花は、低価格で提供してくれる(写真撮影/窪田真一)

地元の花農家の規格外の花は、低価格で提供してくれる(写真撮影/窪田真一)

黒木さん夫妻がもうひとつ小諸でいいなと思ったのは、毎週のようにさまざまなイベントが行われていたこと。「CAKES」もマルシェなどへの出店を重ね、異業種との交流や販路の開拓につなげてきました。昨年12月には、開業3カ月にして、後述する「まちタネ広場」でクリスマスマーケットを初主催。「冬は寒さが厳しいので、どうしても人の流れが止まってしまうと聞いて。自分たちもクリスマスの雰囲気が大好きだし、冬の小諸を盛り上げたいなと企画したところ、1000人近くの方にご来場いただきました。もちろん今年も開催します。一過性のものでなく、恒例にしていけたら」と意気込みます。

「地元の人に、『小諸に来てくれてありがとう』と言われたことが、すごくうれしかった」と話すふたり。現在は「おしゃれ田舎プロジェクト」のメンバーとして名を連ね、地域の人々や新しく小諸で開業したい人たちとのつながりを深めています。

可奈さんと、山梨に住む可奈さんの兄がつくるアクセサリーも販売(写真撮影/窪田真一)

可奈さんと、山梨に住む可奈さんの兄がつくるアクセサリーも販売(写真撮影/窪田真一)

レンガ造りの建物。昔の酒屋の看板はそのまま残している(写真撮影/窪田真一)

レンガ造りの建物。昔の酒屋の看板はそのまま残している(写真撮影/窪田真一)

小諸のメインストリートに、夫婦で営むヘアサロンと量り売りショップが誕生オーガニックにこだわったヘアサロン「parte(パルテ)」と、量り売り専門店「giro by parte(ジーロ バイ パルテ)」(写真撮影/窪田真一)

オーガニックにこだわったヘアサロン「parte(パルテ)」と、量り売り専門店「giro by parte(ジーロ バイ パルテ)」(写真撮影/窪田真一)

「物件は有限だから、いい人に入ってもらいたい。まちの人たちに紹介したとき、福島さん夫妻は気が合いそうだなと感覚で思いました」と高野さんは言う(写真撮影/窪田真一)

「物件は有限だから、いい人に入ってもらいたい。まちの人たちに紹介したとき、福島さん夫妻は気が合いそうだなと感覚で思いました」と高野さんは言う(写真撮影/窪田真一)

小諸市役所の目の前に立つ3階建てビルの2階に、2022年5月、ヘアサロンとオーガニック食材の量り売りショップがオープンしました。店主は、埼玉県で9年間ヘアサロンを営んでいた福島史明さんと智恵美さんです。もともと長野県東信エリアで子どもの教育移住を検討していた福島さんは、山が近くのどかな雰囲気や、車で30分圏内に買い物施設や日帰り温泉がある小諸の住環境が気に入り、2021年、家族5人で移住。その後、サロンの物件を探す際に頼ったのが、智恵美さんがSNSで知った「おしゃれ田舎プロジェクト」でした。

「ここは小諸のメインストリート。最初は1階がいいと思っていたんですが、2階に上がってみたらスケルトンで広々、大きな窓から市役所前の公園の緑と花が見渡せて、開放的でいいなって」と智恵美さん。
リノベーションは「おしゃれ田舎プロジェクト」のメンバーである施工会社に依頼し、埼玉時代の店のテイストと同様、ぬくもりのある心地よい空間が誕生しました。

公園の緑が見える開放感が気に入って、2階を契約。一度量り売りショップを通ってヘアサロンへ(写真撮影/窪田真一)

公園の緑が見える開放感が気に入って、2階を契約。一度量り売りショップを通ってヘアサロンへ(写真撮影/窪田真一)

頭皮&ヘアケアに定評のあるサロン。ヘッドスパの個室も用意している(写真撮影/窪田真一)

頭皮&ヘアケアに定評のあるサロン。ヘッドスパの個室も用意している(写真撮影/窪田真一)

築50年ほどの3階建てビル、空いていた3フロアすべてに借り手が智恵美さんが手がけるバルクショップは、包装をなくしてできる限りゴミを出さない、量り売りの販売スタイル(写真撮影/窪田真一)

智恵美さんが手がけるバルクショップは、包装をなくしてできる限りゴミを出さない、量り売りの販売スタイル(写真撮影/窪田真一)

ドライフルーツや焼き菓子、パスタ、ハーブ、調味料など、オーガニック食材がずらり。必要な分だけ買えるから、フードロス対策にも(写真撮影/窪田真一)

ドライフルーツや焼き菓子、パスタ、ハーブ、調味料など、オーガニック食材がずらり。必要な分だけ買えるから、フードロス対策にも(写真撮影/窪田真一)

屋上部分にビニールカーテンのテントがあるのが、「parte」が入居するビル。1階は弁当屋、3階は別の人が住居として使用(写真撮影/塚田真理子)

屋上部分にビニールカーテンのテントがあるのが、「parte」が入居するビル。1階は弁当屋、3階は別の人が住居として使用(写真撮影/塚田真理子)

福島さん夫妻が内見した時はビルの3フロアとも空いていましたが、この2年で全フロア入居者が決まり、人の流れができました。その活気が後押しとなり、昨年、ビルのオーナーが屋上でビアガーデンをスタート。冬以外は営業を行い、オープンな雰囲気が楽しめるとあって、なかなか盛況のよう。静かだった空きビルが、新たに息を吹き返したのです。

風情ある建物をリノベーションした魅力的な店舗が続々

2020年以降「おしゃれ田舎プロジェクト」が関わって小諸で開業に至った店舗は、上で紹介した2件以外にも、パン屋、イタリアンレストラン、ビストロ、洋裁店、インテリアギャラリーなど30件に上ります。そのうち、プロジェクトが一から十まで携わったのは3年で約15件。第一号は、小諸駅舎内の電源が使えるカフェ「小諸駅のまど」。なんと、みどりの窓口だったスペースを活用したカフェだとか。

また個人経営の店以外にも、企業と空き物件をマッチングさせた例もあるそうです。

「CAKES」の近く、明治時代に旅館として使われていた建物は、コワーキングスペース「合間」に。取材時、1階ではカフェ「エトセトラ」がプレオープン中だった(写真撮影/窪田真一)

「CAKES」の近く、明治時代に旅館として使われていた建物は、コワーキングスペース「合間」に。取材時、1階ではカフェ「エトセトラ」がプレオープン中だった(写真撮影/窪田真一)

コーヒーのほか、日本茶もサイフォンで抽出する「彩本堂」。古民家の奥には移築した土蔵がつながっている(写真撮影/窪田真一)

コーヒーのほか、日本茶もサイフォンで抽出する「彩本堂」。古民家の奥には移築した土蔵がつながっている(写真撮影/窪田真一)

紅葉しかけた蔦が味わい深い、花屋とカフェ「FLORO cafe(フロロカフェ)」。以前の店「スナック夕子」の看板はあえてそのまま(写真撮影/窪田真一)

紅葉しかけた蔦が味わい深い、花屋とカフェ「FLORO cafe(フロロカフェ)」。以前の店「スナック夕子」の看板はあえてそのまま(写真撮影/窪田真一)

駅前の通りから小さなトンネルを抜けたところにある、という立地も、隠れ家感があって素敵すぎる(写真撮影/窪田真一)

駅前の通りから小さなトンネルを抜けたところにある、という立地も、隠れ家感があって素敵すぎる(写真撮影/窪田真一)

極め付けは、蔦の絡まるレトロな建物。これは新築では出せない味わいです。3階建てのビルにはかつてスナックや居酒屋9店が営業していたものの、10年以上空き店舗になっていました。2022年、軽井沢などで花屋とカフェを営む「FLOWER FIELD」が小諸に出店したいという話があり、高野さんが案内したところ、社長がここに一目惚れ。その日のうちに「購入したい」と申し込んだとか。その後、レトロな趣を残しながらセンスよくリノベーション。奥にはウッドデッキのテラス席もあるというギャップもまた魅力的です。

「FLORO cafe」に入ると、ドライフラワーに彩られた空間が広がる(写真提供/FLORO cafe)

「FLORO cafe」に入ると、ドライフラワーに彩られた空間が広がる(写真提供/FLORO cafe)

komoroと描かれたオリジナルドアの先には、開放的なテラス席が(写真提供/FLORO cafe)

komoroと描かれたオリジナルドアの先には、開放的なテラス席が(写真提供/FLORO cafe)

古民家カフェがリノベ中。オープン後は、蕎麦の実や蕎麦茶を使ったスイーツが楽しめるそう(写真撮影/窪田真一)

古民家カフェがリノベ中。オープン後は、蕎麦の実や蕎麦茶を使ったスイーツが楽しめるそう(写真撮影/窪田真一)

小諸城大手門隣の重厚な古民家は、小諸の老舗蕎麦店が手がける「CLOVE CAFE」として来春オープン予定。現在はリノベーション中で、「おしゃれ田舎プロジェクト」を通して市民参加の壁塗りイベントなどが行われています。みんなでこのお店をつくった、なんていい思い出になるに違いありません。

NG事項ナシ! みんなの想いが実現できる「まちタネ広場」が楽しい「おしゃれ田舎プロジェクト」メンバーでもある岡山千紗さんと、高野さん。左の葉っぱ(?)が「こもろ」とくり抜かれているのがわかるでしょうか?楽しい遊び心!(写真撮影/窪田真一)

「おしゃれ田舎プロジェクト」メンバーでもある岡山千紗さんと、高野さん。左の葉っぱ(?)が「こもろ」とくり抜かれているのがわかるでしょうか?楽しい遊び心!(写真撮影/窪田真一)

もうひとつ、小諸でにぎわいを創出しているのが、駅から歩いて3分、大手門公園エリアにある「まちタネ広場」です。まちの“タネ”をつくる広場とは、どんな経緯でできたのでしょうか?
「ここはもともと駐車場だったのですが、駅前という立地、大手門公園という観光資源をもっと有効活用した方がいいのではということで、自由広場のような場所を整備したのです」と高野さん。

でも、ただ遊具を置いただけでは、多くの人には使ってもらえない。どんな仕掛けがあれば市民みんなが楽しめるのか。市民参加の意見交換会やワークショップを重ね、「ルールをつくらないのが唯一のルール」という方針に。
小諸市地域おこし協力隊として横浜から移住し、まちづくりに関わる岡山千紗さんによると、「禁止事項ほぼナシ、ペット連れも、花火も、焚き火も、プロレスも、なんでもやってOKな、社会実験の場なんです」

芝生エリアを中心に、まわりには自転車やスケボーの練習ができる園路、工作などものづくり体験ができるガレージエリアが整備され、可動式のテーブルや日除けタープなども自由に使えます。近くに住んでいるなら、きっと通いたくなってしまうはず。

奥にはステージがあり、ふだんは自由に座ったり寝転んだりする場に。イベント時には、音楽やダンスのステージとしても使える(写真提供/まちタネ広場)

奥にはステージがあり、ふだんは自由に座ったり寝転んだりする場に。イベント時には、音楽やダンスのステージとしても使える(写真提供/まちタネ広場)

これからの楽しいことを伝える掲示板“お知らせウォール”(写真提供/まちタネ広場)

これからの楽しいことを伝える掲示板“お知らせウォール”(写真提供/まちタネ広場)

広場の運営は、総合建設コンサルタント「URリンケージ」と小諸市が共同で行っています。まちのにぎわいづくりの一環として行われているため、広場の占有使用料は受け取っていません。ゆえに、地域の方々のやりたいことの実現からイベントまで、週末を中心になにかしらの取り組みでにぎわいを見せています。
これまでに催されたのは演劇ワークショップ、まちタネシネマ、夕涼み会、焼き芋大会、クラシックカーミーティング、サウナイベントなどなど。規模もさまざまな催しが、年間に約60回も行われています。
「イベントの来訪者の内訳は、小諸が3割、佐久・上田が3割、東京3割。いろいろな方に来てもらえているのがうれしい」と岡山さん。

イベントの合間や帰りには、小諸のまちなかで食事したり、散策したりという人の流れができたそう。まさに、「おしゃれ田舎プロジェクト」がめざす、理想の形が見えてきました。

小諸ボンバイエ×信州プロレスリングによるパフォーマンスも大盛況(写真提供/まちタネ広場)

小諸ボンバイエ×信州プロレスリングによるパフォーマンスも大盛況(写真提供/まちタネ広場)

手持ち花火大会のイベントでは、サプライズでナイアガラの滝が!仕掛け花火が楽しめる広場なんて、なかなかない(写真提供/まちタネ広場)

手持ち花火大会のイベントでは、サプライズでナイアガラの滝が!仕掛け花火が楽しめる広場なんて、なかなかない(写真提供/まちタネ広場)

クラシックカーイベントは、小諸のまちなか回遊・散策を支援するスマートカー「egg」の運転手が主催(写真提供/まちタネ広場)

クラシックカーイベントは、小諸のまちなか回遊・散策を支援するスマートカー「egg」の運転手が主催(写真提供/まちタネ広場)

最後に、小諸のまちなかをぶらり歩いてみた駅近くにはスナック街も。空き店舗で若い世代がスナックを開いてくれたら楽しそう(写真撮影/塚田真理子)

駅近くにはスナック街も。空き店舗で若い世代がスナックを開いてくれたら楽しそう(写真撮影/塚田真理子)

駅から7~8分歩くと、本町・商家の町並みへ。明治時代、小諸銀行だった由緒ある建物も残っている(写真撮影/塚田真理子)

駅から7~8分歩くと、本町・商家の町並みへ。明治時代、小諸銀行だった由緒ある建物も残っている(写真撮影/塚田真理子)

市役所がある一帯に、医療センターや市立図書館、市民交流センターなどが集結(写真撮影/塚田真理子)

市役所がある一帯に、医療センターや市立図書館、市民交流センターなどが集結(写真撮影/塚田真理子)

大きなタンクがあるのは、老舗の味噌蔵。隣には味噌ラーメンの店がオープンし、連日行列だとか。お向かいにはデリカテッセンの店も(写真撮影/塚田真理子)

大きなタンクがあるのは、老舗の味噌蔵。隣には味噌ラーメンの店がオープンし、連日行列だとか。お向かいにはデリカテッセンの店も(写真撮影/塚田真理子)

花屋「CAKES」の黒木さんが、小諸に降り立って真っ先に気に入ったという駅前の「停車場ガーデン」。ライトアップイベントが行われていてきれい(写真撮影/塚田真理子)

花屋「CAKES」の黒木さんが、小諸に降り立って真っ先に気に入ったという駅前の「停車場ガーデン」。ライトアップイベントが行われていてきれい(写真撮影/塚田真理子)

小諸のまちなかを歩いてみると、駅から徒歩15分圏内でぐるりとめぐれて、ほどよいコンパクト感がありました。車を駅前に停めて、ぶらぶら歩いて、若い世代が開いたセンスのいいお店をホッピング。ちなみに、人気のご当地スーパー・ツルヤはここ小諸が創業の地なのだとか。自分がもし小諸に住んでいたら、友達をあちこち案内したくなるなぁ。

今回、高野さんと岡山さんの話で印象的だったのは、まちが元気になってきたことで、古くから地域に住む人の意見もポジティブに変わってきた、ということ。北陸新幹線の停車駅が佐久平に決まった当時は、どこか悔しい思いがあったようですが、いまでは「駅近くの古い家並みが壊されずにこうして残っているから、良かったよ」と話しているとか。地元の方の小諸愛が感じられるエピソードです。

そして現在60代、70代で商売をしている人たちに目を向けてみると、跡継ぎがいなければ、ここ10年ほどの間にいずれは店を閉めることになるでしょう。そのときに、いま「おしゃれ田舎プロジェクト」がまちの人たちとつながっていることで、安心して「店を貸したい」と相談しやすくなるはず。高齢化の波は避けては通れませんが、愛着のある店を、建物を、小諸のまちを、次世代につなげる未来があることは、とても幸せなことだなと感じた1日でした。

●取材協力
・おしゃれ田舎プロジェクト
・CAKES
・parte
・まちタネ広場

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記事提供元:タビリス