サラリーマン30代コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着

SUUMOジャーナル

「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築く」。そんなテーマで週末、山に籠り、縄文生活を実践してYouTubeで発信する「週末縄文人」。膨大なエネルギーと時間をかけ、竪穴住居までつくり上げた二人には、高度なテクノロジーに支えられた現代の住まいや暮らしはどのように見えているのでしょうか。縄文生活は、現代の生き方にも変化をもたらしたのでしょうか。山の中の活動拠点にお邪魔して話をうかがってきました。

スーツ姿がトレードマークの週末縄文人。縄さん(左)は学生時代、ワンダーフォーゲル部に所属し、多くの時間を山で過ごしていたという。1991年秋田生まれ。文さん(右)は幼少期、アメリカ・ニュージャージー州やアラスカ州で暮らしていた経験をもつ。1992年東京生まれ(写真撮影/嶋崎征弘)

スーツ姿がトレードマークの週末縄文人。縄さん(左)は学生時代、ワンダーフォーゲル部に所属し、多くの時間を山で過ごしていたという。1991年秋田生まれ。文さん(右)は幼少期、アメリカ・ニュージャージー州やアラスカ州で暮らしていた経験をもつ。1992年東京生まれ(写真撮影/嶋崎征弘)

平日サラリーマンであり、週末縄文人というおもしろさ

二人が配信するYouTubeチャンネル「週末縄文人」は現在、登録者数13万人超。8月には初の著書『週末の縄文人』(発行:産業編集センター)を上梓し、話題を集めています。そんな彼らの正体は、ふだんは東京に暮らし、映像制作会社で働くサラリーマン。YouTubeは会社に内緒でスタートしたため、それぞれ顔に「縄」「文」のモザイクをつけて活動しています。

縄文生活を始めたのは、必死に働いている仕事が果たして人や社会の役に立っているのだろうか?と心にモヤモヤを抱えていた文さんが、同期入社の縄さんに「山で遊ばないか」と声をかけられたことがきっかけ。大学時代、ワンダーフォーゲル部にいた縄さんは、映像制作の仕事で「文明が崩壊したらどうなるか」というサバイバル映像を制作したいと考えていたものの、企画が通らず、自分たちでやってYouTubeで発信しようと提案します。
そこで、「どうせ文明を築くなら歴史の教科書に最初に出てくる縄文時代まで遡り、現代の道具を一切使わないところからやってみよう」と、二人で「週末縄文人」を結成。縄さんと文さんのとてつもない冒険がスタートしたのです。

それにしても、現代のサラリーマンが、教科書の一ページ目のような縄文生活を送ったら、現代の暮らしは一体どんなふうに目に映るのでしょう。住まいに求めることは変わったのでしょうか。たくさんの困難が待ち受ける縄文の暮らしを体験して、きっといろいろな発見や心境の変化もあったはず……。とある日の活動を見せてもらいながら、お話をうかがってみました。

縄文人がやっていたであろうことを実践。ひたむきに向き合うその過程が見られることに視聴者はワクワクする(写真撮影/嶋崎征弘)

縄文人がやっていたであろうことを実践。ひたむきに向き合うその過程が見られることに視聴者はワクワクする(写真撮影/嶋崎征弘)

秋まっさかりの週末、取材チームが訪れたのは、長野県某所の山の中。生い茂るススキの間にある小道を通り抜けると、開けた小さな広場のような空間が現れ、そこで野焼き(焚き火で土器を焼くこと)が行われていました。
活動拠点にしている場所は、知り合いのツテで借りている土地。縄文時代の住まいである竪穴住居(竪穴式住居)を建てることを目的に、「平坦で、石ころがなく、砂っぽくないところ」を条件に探したのだそうです。面積は0.5ヘクタール(約5000平米)と広大、まわりに人家はありません。
ちなみに、広場に来るまでに通ってきたススキの小道は二人がつくったのではなく、行き来するうちに自然と道のようになったのだとか。「目的があれば道はできます」。早速深い言葉が飛び出します。

起こした火のまわりに土器を並べて乾燥させ、熾火(おきび)になったところでその上に直接土器を置く。このあと薪をくべて火力を上げ、本焼きに入る。円錐形に尖った「尖底(せんてい)土器」は縄文時代にはメジャーなもので、今回が初挑戦(写真撮影/嶋崎征弘)

起こした火のまわりに土器を並べて乾燥させ、熾火(おきび)になったところでその上に直接土器を置く。このあと薪をくべて火力を上げ、本焼きに入る。円錐形に尖った「尖底(せんてい)土器」は縄文時代にはメジャーなもので、今回が初挑戦(写真撮影/嶋崎征弘)

火にくべられていたのは、土器7、8、9号(粘土に戻ったものも含めこれまで1~6号までつくっている)と、“縄文茶道”のための茶碗2つ。縄文茶道とは二人の造語で、文さんは実際に茶道の経験もあるそうです。この茶碗でお茶を点てたらさぞかしおいしいのだろうな、と妄想が広がります。

この野焼きの段階に来るまでに、果てしない時間がかかっています。まず粘土づくりに丸2日。知り合いの土地から粘土質の土を採取してきて、小石やゴミを取り除きます。その後3~4日かけて捏ね、粘りが出たらようやく粘土が完成。成形するのに1日、文様を入れるのに1~2日。さらに水漏れを防ぐために内側を磨き、3週間ほどかけてゆっくり乾かしていきます。もちろんすべて手作業です。こうした作業ができるのも週末だけ。ゆえに、今回の土器づくりは実に2カ月ほど前から始まっていたといいます。

2カ月かけてつくった縄文土器をいよいよ野焼き。成功を祈る!

これまで何度となく失敗してきた土器づくり。工数が多いため原因がつかめず、懇意にしている考古博物館の館長にわずかな手がかりをもらい、実践を積み重ねてここまで進化してきました。その館長いわく、「自分は答えを知ってしまっているからもう失敗することはできない。君たちは失敗できるからおもしろい。失敗できるということは財産なんだ」。些細なヒントをもとに考え、知恵を絞り、工夫しながら答えを見つけていく。失敗の中にこそ大きな発見があり、そしてそれは土器に限らず、すべてのものに当てはまることなのでしょう。

果たして、今回の野焼きは無事成功するのでしょうか。今日初めてここに来た取材チームも、成功を祈る気持ちで見守ります。

縄文生活の第一歩である火起こしも、もちろん自然にあるものだけを使って行う。今は早ければ30秒で火種がつくれるようになったが、最初は3カ月かかったという(写真撮影/嶋崎征弘)

縄文生活の第一歩である火起こしも、もちろん自然にあるものだけを使って行う。今は早ければ30秒で火種がつくれるようになったが、最初は3カ月かかったという(写真撮影/嶋崎征弘)

落ちている木の枝を集めてきては、火にくべていく(写真撮影/嶋崎征弘)

落ちている木の枝を集めてきては、火にくべていく(写真撮影/嶋崎征弘)

土器の運命は、すべてこの火の中に……(写真撮影/嶋崎征弘)

土器の運命は、すべてこの火の中に……(写真撮影/嶋崎征弘)

自分の手で自分の暮らしをつくる、その豊かさに気づいた

焼き始めて1時間近く経ったころ、「パァン!」と不穏な爆発音が。もしや、7~9号土器あるいは茶碗が割れた音だろうか……? 不安を隠せない取材チームでしたが、二人は倒れ込みながらも気を取り直して声を掛け合い、ポジティブにお互いを励まし合っています。

ここまで時間と手間をたっぷりかけてつくった、愛着のかたまりのような土器。それが割れてしまったときの気持ちは、計り知れません。失敗の原因を分析して、工夫して次につなげる、できるようになるまでやる、その原動力はどこから来ているのでしょう。そしてこうした体験を経て、見えてきたことはあったのでしょうか?

土器が赤く輝きだしたら焼き上がりのサイン。少しばかりの亀裂が入っていても、めげない(写真撮影/嶋崎征弘)

土器が赤く輝きだしたら焼き上がりのサイン。少しばかりの亀裂が入っていても、めげない(写真撮影/嶋崎征弘)

「文が『原始からやろう』と言ってくれて始まった縄文人生活。それは、『自分の手で自分の暮らしをつくること』だったんです」と縄さん。それまでほかの動物と変わらなかった人間が、最初に編み出した発明は、現代にも続く暮らしの基礎の基礎。文明の原点である火起こし。水が汲めて、煮炊きができる土器。布を縫える糸と針。木を切れる石斧……。「革新的な発明ですよね。そのひとつひとつ、できなかったことを少しずつできるようになる。発明した縄文人に想いを馳せ、できたときの達成感を存分に味わっています」。その過程の苦しみを超えるほど、達成したときの喜びが大きいのだなあと感じます。

文さんも、「自分の手で自分の暮らしをつくる“豊かさ”に気づきました」と言います。「料理をするとか、安全に暮らすとか、命をつなぐための本質的なことは、縄文時代も現代の暮らしも同じ。日々の営みを自分でちゃんとすることで豊かな気持ちになれると知って、東京に戻ったときも、野菜を買ってきて料理しようとか、シーツを週1回は洗おうとか、少し丁寧に、営みに時間をかけること。そんなふうに変わってきました」

爆発して割れてしまったものは確認できたようだが、ひび割れや欠けは火が完全に消えて取り出すまではわからない(写真撮影/嶋崎征弘)

爆発して割れてしまったものは確認できたようだが、ひび割れや欠けは火が完全に消えて取り出すまではわからない(写真撮影/嶋崎征弘)

火が消え、姿を現した土器。竹で渦巻文様をつけた8号土器、右奥の7号の円筒土器は成功したように見える(写真撮影/嶋崎征弘)

火が消え、姿を現した土器。竹で渦巻文様をつけた8号土器、右奥の7号の円筒土器は成功したように見える(写真撮影/嶋崎征弘)

焼き上がったばかりの土器は言うまでもなく熱い。そんなとき文さんは、足元の草を素早くちぎって鍋つかみのように使う(写真撮影/嶋崎征弘)

焼き上がったばかりの土器は言うまでもなく熱い。そんなとき文さんは、足元の草を素早くちぎって鍋つかみのように使う(写真撮影/嶋崎征弘)

縄さんの表情が見せられないのがもったいないほど、嬉しそうな笑顔!(写真撮影/嶋崎征弘)

縄さんの表情が見せられないのがもったいないほど、嬉しそうな笑顔!(写真撮影/嶋崎征弘)

このときの縄文土器づくりの動画は「週末縄文人」のチャンネルにアップされているので、ぜひチェックしてみてください!

なにか愛らしいキャラクターにも見える、週末縄文人渾身の住まい(写真撮影/嶋崎征弘)

なにか愛らしいキャラクターにも見える、週末縄文人渾身の住まい(写真撮影/嶋崎征弘)

制作日数30日。自然にあるものだけでつくり上げた、愛すべき竪穴住居

焚き火広場の先には、二人が30日かけてつくり上げた縄文人の住まい、竪穴住居が佇んでいます。ノコギリもトンカチも釘も使わずに、自分たちで一からつくった石斧で木を切り出し、骨組みをつくり、柱と梁をつくり、大量のクマザサで覆う。
クマザサの屋根はいい感じに色褪せ、まわりの木々やススキと同化していました。

入り口には階段を、住居中央には焚き火口を設けた(写真撮影/嶋崎征弘)

入り口には階段を、住居中央には焚き火口を設けた(写真撮影/嶋崎征弘)

竪穴住居の直径は2m、広さは3.5畳ほどでしょうか。中に入らせてもらうと、想像していたよりも広く感じます。深さ50cmほど地面を掘り下げてあり、天井高は中央部分で最高1.7mくらい。立つことも可能です。座れば大人が6~7人は入れそう。穴の中に入り込んだような落ち着ける感覚があり、外よりも2度くらいひんやり。この日は秋にしては暖かかったので、それが心地よく感じられます。

「夏は涼しく、冬暖かい。静かで、最初は暗いけどだんだん目が慣れてきて見えるようになる。不思議な安心感がありますよ。これまで僕たちがつくったものの中でいちばん時間がかかったのが、この竪穴住居です。縄文時代の本物と比べたらだいぶ小ぶりですが、これが今自分たちにできる限界の大きさ。二人で力を合わせて屋根を乗せ終わったときは、今までに経験したことのない達成感がありました」と縄さんは言います。

「これまではここで夜を過ごそうと思ったら、野宿ですよね。雨が降るかもしれないし、動物も来るかもしれない。原っぱの中で寝られる場所を自分たちでつくり出せたというのは、すごい体験です」と文さん。葉っぱを敷けば、二人が寝転ぶこともできます。

この骨組みとササ葺き屋根を、現代の道具を使わずにつくったというのがちょっと信じ難い。柱と梁を結束しているのは、剥いだ木の皮(写真撮影/嶋崎征弘)

この骨組みとササ葺き屋根を、現代の道具を使わずにつくったというのがちょっと信じ難い。柱と梁を結束しているのは、剥いだ木の皮(写真撮影/嶋崎征弘)

現代の住まいと比べて、居心地はどうですか?
「現代の家が外と遮断されているのに対し、この家は外とつながっているという感覚があります。家によく現れる、小さなカナヘビが動くカサカサ、という音や、風が吹き始めて壁のクマザサが揺れる音。一瞬で風だ、とか雨が降り始めた、とわかるんです。そのセンサーがすごいんですよね」と文さん。感覚が研ぎ澄まされる感じ、確かに遮音性や気密性にすぐれた現代の家のつくりでは味わえないものです。

竪穴住居をつくったときの動画は、こちら。二人のすごさ、縄文人のすごさ、現代のテクノロジーのすごさ……いろいろと実感します。

竪穴住居とは切り離せない、火の存在クマザサを使ったのは、この近くに大量に自生していたから。住居の中で火を焚くと、屋根から煙が抜けていく(写真撮影/嶋崎征弘)

クマザサを使ったのは、この近くに大量に自生していたから。住居の中で火を焚くと、屋根から煙が抜けていく(写真撮影/嶋崎征弘)

縄さんは慣れた様子でスムーズにイン。記者はお尻をついてのけぞるようにしてやっとのことで入れた(写真撮影/嶋崎征弘)

縄さんは慣れた様子でスムーズにイン。記者はお尻をついてのけぞるようにしてやっとのことで入れた(写真撮影/嶋崎征弘)

竪穴住居で火を起こすため、野焼きで使った熾火を運ぶ(写真撮影/嶋崎征弘)

竪穴住居で火を起こすため、野焼きで使った熾火を運ぶ(写真撮影/嶋崎征弘)

火を焚くと、家の中の空気がたちまち循環する(写真撮影/嶋崎征弘)

火を焚くと、家の中の空気がたちまち循環する(写真撮影/嶋崎征弘)

竪穴住居には、火は欠かせない存在だといいます。家の中央には焚き火口がつくられ、先ほどの野焼きで使った熾火と拾ってきた小枝で、文さんが瞬く間に火をつけてくれました。すると、家の中がほわっと明るく照らされます。
「火があると、家も生き生きとするんです。夏は暑いと思われるかもしれませんが、空気が動くから換気ができて快適です。煙で家中がコーティングされると乾燥してカビも生えない。煙に燻されて虫も追い払えるし、獣も近寄りません」と縄さん。いいことずくめなんですね!焚き火の効力もあって、縄文時代の家は20年持つといわれているそうです。

「火があって初めて家だといえるんです。火は光になり、暖かい温もりがあり、ごはんもつくれ、燻すこともできる」(文さん)

地中50cmほどの深さが、穴の中にこもっているようで落ち着く(写真撮影/嶋崎征弘)

地中50cmほどの深さが、穴の中にこもっているようで落ち着く(写真撮影/嶋崎征弘)

骨組みや柱になる木材は、知人の山から3日かけて切り出したもの。安定した構造がつくれたのが本当にすごい(写真撮影/嶋崎征弘)

骨組みや柱になる木材は、知人の山から3日かけて切り出したもの。安定した構造がつくれたのが本当にすごい(写真撮影/嶋崎征弘)

自然の移り変わりを感じながら、非効率なことを楽しめる暮らし

4年目に入った縄文生活は、二人の日々の感じ方に変化をもたらしていました。
「東京での仕事が忙しくて終電帰りが1カ月続いたりすると、家と会社を往復するだけの毎日で、なんだか息苦しい。ふとまわりを見ると、確か夏の終わりだったはずなのに、もうイチョウの葉が落ちていて、冬が始まろうとしていたりする。その変化に気づかなかったことにショックを受けました。週末ここに来ると、町から山にかけて紅葉の色が変わってきて、グラデーションを感じる。デジタル時計とアナログ時計みたいな違いなのかも。環境や自然の変化にとても敏感になります」(文さん)

例えば石を磨くのも、何時間もかけて削れるのはほんの数ミリ。縄文生活の変化の速度はとにかくゆっくり、ゆっくり。
「現代の暮らしと、スピード感がなにもかも違うんです。土器を焼くのも、家をつくるのも。時間がかかることは非効率的といえますが、その分じっくり味わえるということ。各駅停車の旅みたいに」(縄さん)

研いだ石はナイフ、どんぐりはアク抜きをして食べる予定。どんぐりの煮汁はひび割れた土器の目止めにも使える。目止めは現代でも陶器をおろすとき最初にやること。縄文時代から続いていたとは……(写真撮影/嶋崎征弘)

研いだ石はナイフ、どんぐりはアク抜きをして食べる予定。どんぐりの煮汁はひび割れた土器の目止めにも使える。目止めは現代でも陶器をおろすとき最初にやること。縄文時代から続いていたとは……(写真撮影/嶋崎征弘)

血豆だらけの縄さんの手が、現代の道具を使わずになにかをつくる過酷さを物語る(写真撮影/嶋崎征弘)

血豆だらけの縄さんの手が、現代の道具を使わずになにかをつくる過酷さを物語る(写真撮影/嶋崎征弘)

石磨きに没頭すると、感性が研ぎ澄まされていくという文さん。磨き込んだ石を使った二代目の石斧は、縄文人レベルに達するものができたという(写真撮影/嶋崎征弘)

石磨きに没頭すると、感性が研ぎ澄まされていくという文さん。磨き込んだ石を使った二代目の石斧は、縄文人レベルに達するものができたという(写真撮影/嶋崎征弘)

縄文人目線で見ると、現代の文明がまぶしい!

近い将来挑戦したいことは、縄さんは「鉄をつくりたい。鉄で鍬(クワ)をつくって、田んぼを耕したい」。文さんは「衣服づくり。カラムシという植物の茎から糸をつくって布ができるんです。ただ、大人ひとり分の服をつくるのに1年くらい時間がかかると聞いたので、尻込みしてなかなか始められていません(笑)」

では、現代の暮らしから縄文生活に取り入れたいものがあるか聞いてみると、
「『まっすぐ』があったらいいなぁ。この家に、直線のものってないんです。現代の道も床も、まっすぐだからこそ快適なんですよね。まっすぐは偉大です」と文さん。確かに、自然のものは曲がっているのが当たり前。そんな縄文人目線で現代を見ると、人工物が輝いて見えてきそうです。
縄さんが欲しいものは、ひとしきり悩んだ末、「リアルに軽トラかな。遠方から土や木を運んだりするために使いたい。文明の利器ってやっぱりすごいです」

二人がおじいさんになったころ、時代がどれくらい進んでいるのだろうか、楽しみにしたい(写真撮影/嶋崎征弘)

二人がおじいさんになったころ、時代がどれくらい進んでいるのだろうか、楽しみにしたい(写真撮影/嶋崎征弘)

二人でこうして家まで建てられたのだから、リアルな暮らしでも古民家をリノベーションするとか、DIYして住むとか、そういった次のことに興味は出てきたり……?
「それは全然思わないです(笑)。その時間があったら、今の縄文人活動に使いたいので」

現代の暮らしにおいて、原点回帰したいとか、自給自足したいとかいう気持ちが芽生えたわけじゃない。そうやって一見、現代の生活とは切り離している縄文生活ですが、暮らしの本質は変わらず、1万年前から地続きでつながっていることに気づいたと二人は言います。

過酷とも思える縄文人の活動はすべて、自分たちが安全に、豊かに、幸せに暮らすために必要なこと。現代に生きる私たちはなかなか実感しにくいけれど、仕事(労働)と営みが直結していた縄文生活。
その「自分の手で暮らしをつくる」ことの尊さを身をもって知ったからこそ、二人は生きている証のようなものを日々味わい、楽しみ尽くしているように見えました。どう生きたら人生が豊かになるのか、幸せなのか。それはコスパやタイパ※では計れないものなのだと感じました。

※タイムパフォーマンス/時間対効果。かかった時間に対する満足度

この先、何十年か経っておじいさんになっても、文明をつくり出すまでこの活動を続けたいと言う週末縄文人の二人。その悠久とも思える日々を共有してもらえることを楽しみにしながら、私も今度の週末は火起こし、やってみたいな……などと思ったのでした。

●取材協力
週末縄文人

週末の縄文人

『週末の縄文人』(産業編集センター刊)

■関連記事:
縄文人さん、「竪穴住居」でどんな暮らしを送っていたんですか?

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記事提供元:タビリス