「EUお手本に」の日本、見事に梯子を外される【緑の最前線(59)】EUのサマータイム廃止論議の波紋

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)(News Socra)

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 猛暑の夏が去り、今月下旬頃から日の出が遅く日没が早くなり、目に見えて日中の時間が短くなる。

 EU(欧州連合)加盟国は3月の最終日曜日に時計を1時間進めてサマータイム(夏時間)としてきたが、10月の最終日曜日(今年は10月28日)に標準時間(冬時間)に戻すために時計の針を1時間遅らせる。同じ夏時間を採用しているアメリカも11月第1日曜日(同11月4日)から冬時間に戻る。

 実は日本でも戦後の占領時代の昭和23年(1948年)に健康福祉や省エネによいという名目でGHQ(連合軍総司令部)のイニシアチブでサマータイムが4年間導入されたことがある。

 しかし労働時間の延長や日の出とともに起き、日没とともに一日を終える日本人の生活慣習に合わないなど国民の抵抗が強かったため、27年の講和条約で日本が独立を手に入れると、サマータイムも廃止になった。

 その後、折に触れてサマータイム復活を求める声が何度か起こったことがあるが、その都度国民の支持が得られまでの盛り上がりを欠き、導入には至らなかった。

 今回、導入論が浮上してきたのは、7月下旬、東京五輪組織委員会の森喜朗会長らが安倍晋三総理と面会した際、酷暑が予想される2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として「サマータイム導入」を要請したことが始まりだった。これに対し安倍総理も「なるほどね」と応じ、関係部局に検討を指示し、導入の是非を巡る論議が盛り上がってきた。

 導入賛成派は明るい時間にスポーツを楽しめる、家族と外出し散歩、談笑など余暇時間を有効に使えるなどの利点を挙げている。一方、反対派は情報化時代の今日、コンピューターシステムの書き換えやシステム変更など手間のかかる作業が多く,2020年までにとても間に合わないと反論している。

 占領下でサマータイムを経験した年長者の中には、占領下の暗い時代の思い出と重なるサマータイムに拒否反応を示す向きも少なくない。

 こんな折り、突然降って湧いたように登場してきたのが、EUのサマータイム廃止提案だ。EU加盟28カ国の間ではこの数年、サマータイム制度は「健康によくない」、「省エネの効果が乏しい」などの批判が強まっている。

 例えば今年1月に7万人を超える廃止の署名を集めたフィンランド政府がEUに廃止を提案した。17年3月にはオランダでも2万人の署名が集まった。ラトビア、リトアニアなどでもサマータイム廃止をEUに求める動きを強めている。ドイツでは17年の世論調査で74%が廃止を支持、フランスでも54%が夏時間に反対と回答している。

 各国の動きに対応して、EUの行政機能を担う欧州委員会は7月から8月中旬にかけて、域内28カ国の市民を対象に制度の廃止の是非や理由を聞く「パブリックコメント」を実施した。

 過去最多の約460万人から意見が寄せられた。速報値として8月31日に発表された結果によると、84%が廃止を支持した。健康への悪影響や交通事故の増加などを廃止の理由に挙げる向きが多かったという。

 欧州のサマータイムの歴史は古い。夏時間を初めて導入したのは第一次世界大戦中のドイツで1916年。続いて英仏も同年に導入した。第二次世界大戦や70年代初めの石油ショックを経て米国など各国に広がった。ただし一時採用したものの廃止した国も多い。

 ユンケル欧州委員長は「人々に意見を聞いておいて、その結果に従わなければ意味がない」と述べており、欧州委員会は「欧州議会と欧州理事会に廃止を提案する」と発表した。制度の廃止には様々な手続きが必要だが、数年後にはEUが戦前から導入してきたサマータイム制度が廃止される見通しだ。

 EUをお手本にして、2020年の東京五輪対策として提案された日本のサマータイム導入論議は見事にはしごを外された格好だ。

 2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策は何も大仰にサマータイム制度を導入しなければできないということではないだろう。五輪・パラリンピックの期間中、競技の種類、性格などによって、1時間スタート時間を早める、逆に1時間遅くらせるなどで十分対応できるはずだ。

 サマータイムに限らないが、国民の生活に深く係わるような制度改革は一部のグループの思い付きではなく、時間をかけ、広く国民の意見を集約するための議論が必要だ。

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