北方領土ほぼ進展なし 背景に米露の対立
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【舛添要一の僭越ですが(108)】まずはトランプ外交の修正から

舛添 要一 (国際政治学者)(News Socra)

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択捉島、留別村=CC BY /acidka(cropped)

 9月11日、安倍首相は「東方経済フォーラム」に参加するためウラジオストクを訪ね、プーチン大統領と会談した。通算して22回目の会談であるが、北方領土問題の解決については具体的な進展はなかった。

 2016年12月の首脳会談では、領土問題は棚上げして、共同経済活動で信頼醸成を図り、平和条約締結にこじつけるという方針で一致しており、その延長線上に今回の会談がある。

 両首脳は、北方領土での共同経済活動の実現に向けた行程表(ロードマップ)をとりまとめた。具体的には、ウニなどの海産物の増養殖、苺などの温室野菜栽培の事業推進、風力発電、ゴミ減量、観光の5項目である。そのために、10月には現地調査団を派遣することも決まった。

 日本側の最終目的は、四島返還を実現し、平和条約を締結することである。日本政府は、この共同経済活動を、そのための環境作りとして位置づけている。しかし、ロシア政府は、クリル諸島(千島列島と北方領土)が第二次大戦の結果、ソ連に合法的に編入されたという立場を崩していない。

 日本とソ連・ロシアの関係を振り返ってみると、1956年の日ソ共同宣言では、「歯舞諸島及び色丹島の2島を日本国に引き渡すことに同意」し、「平和条約が締結された後に現実に引き渡される」と記されている。この宣言で国交が回復されたが、米ソ冷戦下ではアメリカの意向もあり、北方領土問題はこれで解決したわけではなかった。

 この後、日本側は、歯舞、色丹に加えて国後、択捉の4島を一括して返還する要求を堅持していくことになる。

 1973年10月には、田中・ブレジネフの首脳会談が行われたが、領土問題の進展は見られなかった。その後、エリツィン・細川護煕の間で行われた1993年10月の日露首脳会談で、「法と正義」に基づいて解決すべきことを記した東京宣言がまとまった。さらに、エリツィン大統領と橋本龍太郎首相の首脳会談で発せられた1997年11月のクラスノヤルスク合意では、2000年までに平和条約を結ぶべく努力することが謳われた。

 その後も、1998年4月の川奈、1998年11月のモスクワと、日露首脳会談で、平和条約と国境線画定のいずれが先かの試行錯誤が繰り返された。私は、エリツィン大統領と交渉に当たった橋本龍太郎首相とは懇意にしていたので、交渉のこともよく伺ったが、領土問題については相当に前進したような感じであった。やはり、首脳間の信頼関係が極めて重要だということである。

 因みに、1999年8月にエリツィンは大統領職を任期途中で退き、プーチンに交代するが、エリツィンは橋本龍太郎首相に「有能な若手がいるので、それを抜擢することにした」とプーチンのことを話したという。それから、約20年にわたって、プーチンが現代版「ロシア皇帝」として君臨し続けているのである。

 2001年3月には、イルクーツクでプーチン・森の日露首脳会談が開かれ、日ソ共同宣言を平和条約交渉の基礎として東京宣言(1993年)に基づいて北方4島の帰属問題の解決に努力することで合意した。

 プーチン大統領は、その後は一貫してこのイルクーツク声明の方針を踏襲している。今回の安倍首相との会談でもそうで、「両国民が受け入れられる解決策を模索する準備はある」とし、そのために共同経済活動を行うのだと述べている。

 日本側は、歯舞、色丹は返還されることを前提にして、国後、択捉でも特区のような形で経済活動を行い、特権的な地位を確保しようと狙ったが、ロシア側はロシア法に従うべきだとして反対している。

 しかも、中東など世界中で米露の対決気運が強まっている現在、ロシアは択捉島をアメリカ牽制の拠点とすべく、軍事力を展開している。その意味でも、軍は国後、択捉を手放すことはないと考えてよい。

 「東方経済フォーラム」の開催に合わせるように、11日からロシア軍は極東で冷戦終結後最大規模の軍事演習「ボストーク2018」を開始した。約30万人の兵士、戦車3万6千台、航空機1000機以上が参加している。これに中国は3200人の兵士と軍用車両約1000台を派遣している。

 このような状況を考えると、北方領土問題の進展はあまり期待できない。橋本・エリツィン両首脳の時代は、米ソ冷戦が終わった直後であり、冷戦に勝ったアメリカと負けたロシアの関係は、両者の力関係もあり、今ほど悪くなかった。プーチンは、アメリカと拮抗できた最盛時のソ連のような大国を目指しており、アメリカと衝突するのは当然である。

 ウラジオストクでは、11日に習近平国家主席とプーチン大統領が首脳会談を行い、両国の蜜月ぶりを世界に誇示した。これは、アメリカに対する牽制の意味を持っている。

 今の日本にできるのは、EUと協力してトランプ大統領の外交姿勢を改めさせることである。それが、米露間の緊張緩和につながればよい。対露、対中についても、安倍首相とプーチン大統領との間には信頼関係があるし、また最近は日中関係が好転している。今回、日中首脳会談も行われた。これもまた、北方領土問題解決のための国際環境を整えるのに役立つ。

 来年6月に大阪で開催されるG20に出席するため、プーチン大統領は訪日し、日露首脳会談を行う。自民党総裁選の結果次第であるが、今のところ安倍首相の三選はほぼ確実なようである。両首脳が領土問題の解決をさらに一歩進めることを期待したい。

 プーチン大統領は、今回のフォーラムの席で、前提条件をつけずに今年中に平和条約を締結することを提案したが、これに対しては、この提案を飲めば領土問題の解決は永遠に不可能になるという危惧を日本側は持つ。慎重な対応が望まれる。

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