豊洲市場が2年遅れで開場、膨大なコスト増は都民負担
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【舛添要一の僭越ですが(115)】2014年の「安全宣言」を踏まえていたなら

舛添 要一 (国際政治学者)(News Socra)

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Reuters

 10月6日、築地市場は83年の歴史に幕を閉じた。11日には、豊洲市場が開場する。約2年遅れての移転である。なぜ遅れたのか、遅らせるだけの合理的理由はあったのか、遅延のコストはどれくらいなのかなど、数多くの疑問が噴出する。

 築地の最後の競りの日に、あれだけ豊洲批判をしていたメディアも、移転するのが当然だといったトーンで報道している。2年前、豊洲の危険性を問題にして世論を煽っていた記者たちも、今は沈黙している。自らの言動の責任は取らないし、もちろん反省などしない。実に気楽な身分である。

 結論を言えば、政治に翻弄された2年であった。豊洲問題は、小池都知事の劇場型政治の道具として使われ、マスコミもその一翼を担って大きな扇動役を演じた。毎日のように「汚染された豊洲」のイメージを拡散させたのはメディアである。

 2016年9月10日に、小池知事は、豊洲市場は全て盛り土をしているのではなく、一部厚めのコンクリートを敷いていると発表した。この情報は、事前に一部のマスコミがキャッチするところとなり、一大スクープとして大々的に報道された。

 私は、都知事時代には、そのような工法の変更があったことは知らされていなかった。コンクリートで掩われた空間のほうが、安全性も高いし、メンテナンス作業を容易にするという発想で、そのようにしたと言われているが、そのことが公表されてなかったことは問題である。

 この工法に変えたこと、そしてその理由について、都の職員はなぜ公にし、説明しなかったのか。いろいろな理由があると思うが、これこそが、過去20年間の「異常な都政」の象徴である。知事と職員の間に十分なコミュニケーションもなければ、信頼関係もない。

 もし、工法の変更を公表したときに、都民に対して知事がきちんと説明して、そのほうが良いのだということを説得してくれるという信頼感があれば、そうしていたかもしれない。

 「盛り土なし」という単純化された言葉が一気に拡散し、東京都に対する不信感がさらに高まっていった。そうなると、もう工法変更の利点など言える雰囲気ではなくなる。

 そして、9月30日には、第8回目の地下水検査の結果、豊洲の敷地3箇所から、環境基準の最大1.4倍のベンゼン、1.9倍のヒ素が検出されたとの発表があった。不信感はまた増大する。10月13日には、都議会が豊洲問題を審議する特別委員会を設置する。すべてマスコミ主導である。マスコミに叩かれる、だから議会が動く、そして最後は自民党までもが百条委員会設置に賛成してしまった。

 住民監査請求・住民訴訟や百条委員会は、地方自治を担保するためのものであるが、それは「国民としての義務と責任を自覚した有権者」が前提である。「パンとサーカス」にうつつを抜かし、愚民と化した者たちにその武器を持たせると、ポピュリズムをさらに激化させることになる。

 実は、築地の地下にも、豊洲の地下と同じように余計なものが埋まっている。2017年2月28日に、都は、築地市場の土壌が汚染されていることを公表した。それによれば、戦後に米軍のドライクリーニング工場があった時期があり、土壌が洗濯用の有機溶剤で汚染されている可能性があるという。

 実は、このことは2016年3月には文書にまとめられていたという。ところが、この時期には、すでにマスコミによる「舛添バッシング」が始まっており、役人のサボタージュか、そのような文書については都知事の私には届けられなかった。

 江戸時代の鉄砲州が埋め立てられ、「築地」となったが、文字通り「築かれた土地」、つまり埋め立て地なのである。明治維新後に海軍造兵廠が置かれ、戦後は占領軍が進駐し洗濯工場があったので、都の発表のような土壌汚染が想定される。

 さらに、複数の藩邸(松平定信邸など)があった場所なので、埋蔵文化財調査が必要で、開発には時間がかかる。
 
 このようなことは少し調べれば分かることであり、私は、都の技官たちに築地市場の跡地利用は手間がかかると言い続けてきた。それを明記した文書の公表が、小池都政下で1年も遅れたのは、「築地は安全、豊洲は危険」と煽るための政治的目的だったのではないだろうか。

 今のトランプ大統領もそうであるが、前任者の政策をけなすことで、自らの支持率をあげようとする。その恰好の材料として、小池陣営は豊洲問題をとりあげたのである。まさにポピュリズムの極致である。

 2014年12月9日の定例記者会見で、都知事の私は、以下のような安全宣言を出しており、それは今でも都庁の公式ホームページで見ることができる。

      *       *

  【知事】基本的には、まさに何重にも安全な措置を取ったということが一つ。それから、この土壌の安全措置というのは、絶対にやれという法的に決められたものではなく、これはこれできちんとやる。しかし、そこに市場を開設するかどうかは、その措置をやらないとできないというような、そういう決まりではありません。法律を調べればわかりますけれど、念には念を入れてきちんとそれをやったということをしっかり申し上げたのであって、これをやらなかったから開けませんとか、これやったから開きますという因果関係の話には法的にはなっておりません。しかしながら、きちんとそれはやって、安全だということで進めていくということです。

 【記者】法律に基づいて云々というんじゃなくて、都として安全だと思っていると。

 【知事】そうです。ですから仕事を進める訳です。そこまで莫大なお金をかけて土壌を改良して、勝手にこちらが点検した訳ではなく外の人たちを入れて、専門家を入れて点検して、安全だということです。

 【記者】じゃあ、市場関係者とか外に向かってここは安全ですよと宣言したということとイコールだと捉えても大丈夫なわけですか。

 【知事】大丈夫ですよ。間違ってほしくないのは、それがなければ開けないというマストの条件ではありませんけれどやったということ。その因果関係は法律上は全くありませんということを申し上げたいので、私はこれで十分安全であると、ですから市場を開設しますということを、責任持って申し上げたいと思います。

     *      *

 ところが、小池都知事が豊洲の危険性を喧伝し、大騒ぎになったとき、記者たちは誰1人、この私の安全宣言に言及しない。彼らは、過去の経緯をきちんと勉強していない。都庁のHPくらいは読んでから記事を書いてもらいたいものである。

 私の安全宣言を記憶している記者がいたかもしれない(例えば記者会見で質問した記者)が、「豊洲は危険」というトーンの記事を書くべきだという「信念」からか、意図的に無視したのであろう。

 築地から豊洲への移転が実行されつつある今も、小池都知事からもマスコミからも、この2年の遅れについて何の反省も謝罪もない。マスコミは、記者が交代したのでという言い訳ができるが、小池都知事には弁明の余地はない。

 10月7日朝の民放のある番組で、小池都知事側近の前代議士が、豊洲は「安全だが安心でない」などという詭弁を弄していた。科学的、法的に安全基準を満たしているのに、危険だという誤ったイメージを拡散させたのは小池陣営ではないのか。反省もなしのマッチポンプというしかない。

 豊洲市場は10月11日に開場する。2年遅れである。環状2号線も全面開通せず、千客万来施設も五輪後に先送りと、後遺症は大きい。2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の準備にも大きな支障をきたしている。

 豊洲地区のイメージダウンも甚だしいし、この地区と都心とを結ぶBRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)など交通網の整備もすっかり遅れてしまった。

 このような事態に陥ったのは、第一義的に小池都知事の責任であるが、最終的には愚民と化した有権者の責任である。無責任なメディアに煽動され、自分で考えることをやめたのであるから、自業自得だと言ってよいが、その代償は膨大なコストである。

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