ブラジル次期大統領に確実視される元軍人のボルソナロ氏とは
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少数党を渡り歩き、腐敗への反発の受け皿に、外交は親米

松野 哲朗 (経済ジャーナリスト)(News Socra)

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ボルソナロ氏(左)=Reuters

 28日に実施されるブラジル大統領選の決選投票は、保守候補と左派候補の一騎打ちとなることになった。7日の第1回投票の結果、保守的な発言で物議を醸すことが多い元軍人のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)が46%の得票を得たものの、当選に必要な過半数に届かなかった。

 これに対し、労働者党(PT)のフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長(55)は貧困層の多いブラジル北東部などで強みを見せ、29%と2位を確保した。不祥事発覚などでもないかぎり、ボルソナロ氏の当選が確実視されている。

 8月まで世論調査のトップを走っていたのは、収賄罪で禁固12年1カ月の判決を受けて収監中のルラ元大統領(労働者党)だった。しかし、9月1日に高等選挙裁判所が元大統領の立候補を認めない決定を下した後、それまで2位につけていたボルソナロ氏が順調に支持を広げ、調査会社IBOPEの調査では、同氏への投票意向は8月20日公表の20%から10月6日の36%まで、ほぼ右肩上がりに上昇した。

 調査結果から白票などを除き、選挙裁判所が公表する得票率と比較可能な数字にすると、10月6日時点で41%と4割を上回る得票が予測できた。

 一方、ルラ擁立を断念した労働者党は9月11日に副大統領候補だったアダジ氏を大統領候補に差し替えた。この結果、アダジ氏の支持率は躍進し、IBOPEによると、ルラ不出馬の場合にアダジ氏に投票する意向を示していた有権者は8月20日まで4%しかいなかったのに、9月24日公表の調査結果では22%に上昇した。労働者党陣営が「アダジはルラである」というキャンペーンを展開し、ルラ票を取り込んだためである。しかし、ルラ票の吸収はここで頭打ちとなり、そのまま投票日を迎えることになった。

 第1回投票日までほぼ1カ月の間にボルソナロ氏が急速に支持を取り付けるに至ったのは、政策論争のおかげとはいいがたい。同氏は9月6日には暴漢に腹部を刺されて3週間以上入院し、その後も自宅療養している。投票日まで街頭演説をしていないうえ、候補者同士の討論会も欠席している。

 人気の原動力は、同氏の政策というよりも、清廉さと強さを併せ持っているというイメージである。2014年に国営石油会社ペトロブラスを舞台にした大規模な汚職事件が明るみに出て以来、「腐敗はもうたくさん」という気持ちが国民に高まり、近年の経済低迷も加わって変化を求める声が強い。その受け皿として浮上したのがボルソナロ氏なのである。

 ここでボルソナロ氏の略歴をみていきたい。ブラジルの軍政期(1964‐85年)に同氏は士官学校を出て軍歴を積んだ。民政移管後、30代前半で政治の道に入り、1991年からリオデジャネイロ州選出の下院議員を務めている。現地の報道によると、下院議員としての27年間で約170の法案を提案し、そのうち承認されたのは工業製品税の免除とがん治療薬承認に関する2つだけという。政治家としての実績は驚くほど乏しいといえる。

 比較的小さな政党を渡り歩いており、テメル現大統領のブラジル民主運動党、カルドゾ元大統領のブラジル社会民主党、ルラ元大統領やルセフ前大統領の労働者党といった主要政党に属した経験はない。このことは政治家としての実績のなさを弁明する材料になるとともに、主要政党を軸にした大規模な汚職とは無縁であったと主張する根拠になる。

 そもそもブラジルではラテンアメリカ諸国の中でも軍人に比較的清廉なイメージがあるといわれる。ボルソナロ氏がみせる反汚職と犯罪撲滅の強硬姿勢に説得力を感じ、汚職にどっぷり漬かった既存の政治家ではできない改革を成し遂げてくれるのではないかという望み(エスペランサ)を抱く有権者が一票を投じている。

 こうした国民感情はアダジ候補の支持率が伸び悩んだ要因でもある。ルラ政権期は資源価格の高騰を背景に経済が成長し、貧困層への条件付き現金給付などのばらまき政策が可能になったため、いまもルラ人気は北東部などで根強い。しかし、当時にさかのぼる汚職事件への失望、裏切られたとの思いはぬぐいがたく、労働者党に対する多くの有権者のアレルギー反応につながっている。

 経済政策にも触れておきたい。ボルソナロ氏は経済に相当疎いとみられる。このため、経済政策は経済チームに全面的に任せることになりそうだ。その中心となるのは、経済学者で投資会社創業者のパウロ・ゲデス氏である。シカゴ大学で博士号を取った自由主義経済学者であり、財務相への就任が予想されている。

 財政健全化、税制簡素化、民営化推進といった市場重視政策を採用することは間違いなく、経営側に有利な労働法改正や、財政健全化のための年金改革といったテメル現政権が進めた経済改革を逆戻りさせることはない。

 むしろ、どこまで前に進めるかが注目される。ボルソナロ氏自身が直接、旗を振るのは、全国民の銃所持促進、刑罰の適用年齢引き下げといった犯罪対策のほか、同性婚・中絶反対といった保守的な社会政策になるだろう。外交的には親米である。

 軍政期を礼賛する発言から極右と呼ばれることも多いが、 現在の国情からすると、 極端な差別や人権無視に基づく政策が実行されるとは考えにくい。

 ボルソナロ陣営に落とし穴があるとすれば、勝った気になって油断しておごりや隙をみせることだろう。最後まで有権者のエスペランサに寄り添わなければ、票が逃げる可能性がある。アダジ陣営は、既存政党の合従連衡による票のやり取りや、国民に対する安易な口約束では巻き返しは難しい。ボルソナロ候補へのエスペランサを打ち砕くことはできるだろうか。

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