米中間で新冷戦が始まった
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【けいざい温故知新】敵はデジタルレーニン主義に

土谷 英夫 (ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)(News Socra)

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Reuters

 「米中貿易戦争は20年続く可能性がある」とアリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長は言う。ペンス米副大統領は先週の演説で、政治や軍事面でも中国との対決姿勢を露わにし、東シナ海での両国駆逐艦のニアミスに言及した。「冷戦」という語が飛び交う。

 「バルト海のシュチェチンからアドリア海のトリエステまで、欧州大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた。中欧と東欧の歴史ある首都は、全て向こう側にある」。1946年3月、英国の前首相として米国に招かれたチャーチルのミズーリ州フルトンでの演説は、冷戦の始まりを告げた歴史的演説とされる。

 ペンス副大統領が4日、ハドソン研究所で行ったトランプ政権の中国政策に関する40分の演説も、新たな冷戦の号砲として、記憶されるかもしれない。

 「北京は政府を挙げて、政治、経済、軍事的手段とプロパガンダで米国内での影響力を強め利益を得ようとしている」と始まった中国批判は多岐にわたる。

 向かう矛先は、「経済侵略」のほか、軍事面では尖閣諸島周辺での活動や南シナ海での人工島基地建設、監視国家化による国民の抑圧、宗教への弾圧、「一帯一路」圏の国を借金漬けにする「債務外交」等々。

 また、中国が世論工作などを通じ、トランプ大統領の排除を画策している、と内政干渉に噛みついた。

 35年前にレーガン大統領が、ソ連を「悪の帝国」と呼んだのを引き合いに、トランプ政権による「悪の帝国(=中国)」宣言、との見方もあるようだ。

 中国との関係の抜本的な見直しは、トランプ政権限りの思いつきではなく、超党派の政官の支持を得ているようだ、と最近ワシントンを訪れた日本の中国専門家らは口をそろえる。「ベルリンの壁崩壊」から来年で30年、新たな冷戦が始まる気配だ。

 20世紀の冷戦は、民主主義と市場経済の価値を共有する「西側」が、私有財産制を否定する一党独裁の「共産主義体制」と対峙した。21世紀の冷戦で、米国が対峙する“敵”の正体は、ドイツの中国専門家セバスチャン・ハイルマンが名づけた「デジタルレーニン主義」(digital Leninism)ではないか。

 「ビッグデータが可能にした、情報技術(IT)に支えられた権威主義」と定義するハイルマン氏は、中国の習近平政権が、デジタル技術を利用して、経済や社会の統治を再構築しつつあるとみる。

 習氏自身が「中央インターネット安全・情報化指導小組」の組長に就いている。ネットへの監視が一段と厳しくなった。「防火長城」(グレート・ファイアウォール)と呼ばれるネット情報を検閲・遮断するシステムに加え、最近は、防火長城を迂回できる仮想私設網(PVN)への規制も強めている。

 昨年施行した「インターネット安全法」は、ネット事業者に政府への協力を義務づけた。すでに騰訊(テンセント)、百度(バイドゥ)、微博(ウェイボ)の大手3社が、同法違反で罰金を科せられている。

 中国政府は「社会信用システム」と呼ぶ、ビッグデータを利用して、獲得スコアで14億人の国民の信用度を格付けする仕組みを構築中だ。監視カメラ網と人工知能(AI)を結び、顔認識で容疑者の摘発などに使える「天網」システムの整備も着々と進む。

 70年ほど前、英国の作家ジョージ・オーウェルがディストピア(反理想郷)小説で描いた、専制政治と情報技術が結びついた監視国家を彷彿させる。

 ペンス演説も中国を「無比の監視国家」と呼ぶ。中国への再参入を目指すグーグルを名指しして、中国の検閲に対応するために準備中とされる「ドラゴンフライ」アプリの開発を、即刻止めるよう警告した。

 新たな冷戦は、サイバー空間での覇権争いになりそうだ。中国が、監視国家の「中国モデル」を、世界に広めようとすれば、民主主義の国々には大きな脅威だ。亀裂が入った「西側」の再結束を促すかもしれない。

 ちなみに冷戦(cold war)という語は、45年10月に、英紙トリビューンに掲載されたオーウェルのエッセイが、初出とされる。

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