米長期金利の上昇で米株価頭打ち症状
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【経済着眼】トランプ刺激策で過熱ぎみだったが

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)(News Socra)

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パウエルFRB議長=cc0

 9月の雇用関連指標の発表などを受けて、10月5日(金)の米国市場では、10年物国債の利回りが2011年以来7年ぶりの高水準となる3.23%、30年物利回りも2014年以来4年ぶりとなる3.40%まで上昇した。直近ではさすがに小緩み、10年物が3.21%、30年物が3.37%となっている。

 米国の9月の失業率は3.7%と1969年以来ほぼ半世紀ぶりの低水準となったほか、9月の非農業部門雇用者数の増加も3か月平均で19万人、平均時給も前年比2.9%(前月比+0.3%)と順調な改善を示し続けている。

 しかし、4%という高い実質成長を続ける割には賃金の伸びは緩やかであり、物価面でも個人消費支出(PCE)デフレーターやCPI(消費者物価指数)は、FRBが目標とする前年比2%近傍にとどまっている。

 一方で、原油価格はトランプ大統領による制裁強化に伴うイラン原油の輸出減少予想等から、北海ブレントが80ドル/バーレルと4年ぶりの高値を付けた。失業率の改善と原油価格の上昇を結び付ければ、FRBの利上げペースが速まり米国の金融情勢はいよいよタイト化の方向に向かう、との予測になる。

 このため、10月5日にはNYダウ工業株30種平均は前日の史上最高値から200ドル安の26,627ドルとなり、10月9日段階でも26,430ドルと上伸力に欠く展開となっている。

 米国の株価は、アップルに続き、アマゾンが時価総額で1兆ドルに達するなど、テック企業株を中心に止まることを知らない上昇が続いている。

 経済評論家、株式アナリストの中では、買い推奨で強気予想を続けてきた者が相場を当ててきた。米国10年物国債の利回りはFRBの利上げが続きながら年初には2%台半ばにも達しなかった。

 しかし、その後はジリジリと米国債利回りは上昇して3%の大台を超えてきた。それにもかかわらず、米国の株価はそのほかの先進国、新興国を上回るペースでの上昇を続けてきたが、さすがに見直し機運も一部でみられるようになった。

 エコノミストの論評をみても、「米国経済が3%の成長軌道に乗り、労働市場が過熱してきた証拠である。したがって、インフレ率は上昇圧力を高めよう」

 「FRBは9月のFOMCステートメントで金融緩和を続けるとの文言を消した通り、今後は徐々に引き締め局面入りに転換し、19年も3回程度の利上げに踏み切ろう」といった従来に比べればタカ派的なコメントが増えてきた。

 今後の株価を占ううえでは、米国企業収益の動向が重要である。第2四半期の企業収益は、S&P500指数が同期間中7%上昇したことに示されるように2期連続で20%を超える増収と好調そのものであった。

 増収分の半分はトランプ大統領による大幅減税の影響なので2019年にはその効果ははげ落ちる。さらに、これから続々と発表される第3四半期の決算には金利・賃金・石油価格の上昇といったアゲンストの風が吹くわけで、投資家が慎重なスタンスに転じるとしても驚くにはあたらない。

 すでに米国株の投資家は、米国の株価水準が株価収益率(PER、S&P500で20倍台)や純資産倍率(PBR)などの指標で見て他国の市場に比べてかなり割高であるということで東京市場など他の市場に資金をまわすようになった。

 これには上記のように米国企業の収益サイクルの好循環が最終局面に入ったのではないか、さらには米国の実体経済がピークを打ったのではないか、との疑念の増大があるといえる。

 単純なようであるが、中長期的観点から株式投資に踏み切るには株式のバリュエーションが長期的趨勢値から見て低い、あるいは配当利回りが魅力的な水準に達していることが条件である。

 いろいろな試算があるが、どう見ても米国の株価は8~10%ほど長期平均を上回っているとみられる。はたして米国株価は太陽に向かって飛び、(ろう)の翼が高温で溶けて墜落した「イカロスの翼」のごとき様相を呈するのであろうか。

 その確率はゼロではないが、米国株式市場の堅調はなおしばらく続きそうだとみている。その背景は、FRBのパウエル議長が「米国経済はかつてないほど繁栄しており、それに満足している」「FRBが中立的水準に引き上げるのは長い道のり(long way)を経る」などと発言していることにある。

 パウエル議長は成長・雇用の増加にもかかわらずインフレ率は過去の経験と異なって急騰しない、との診断を下しているといえる。賃金・インフレがかつての景気循環局面に比べて落ち着いている、との判断が利上げペースを緩やかなものにすると市場も観測している。

 ただ、直感的には10年物国債利回りが3.5%に近づくようになれば、さすがに米国株式市場の好調も峠を越えて、投資資金は米国でも高値警戒感のある株式市場から、次第に値ごろ感が醸成されつつある債券市場へと流入することになりそうだ。

 心配なのは、そうなった場合の新興国の状況である。すでにアルゼンチン、トルコ、南アなどで資本の流出と通貨下落が続いている。IMFが発表したように、主要新興国の非金融債務残高が2008年の113兆ドル(GDP比200%)から167兆ドル(GDP比250%)まで膨らんでいる。

 IMFは米国長期金利の上昇とドル高進展によって、新興国(中国を除く)への債券投資が最大で1,000億ドル(2009年のリーマンショック後とほぼ同額の水準)程度の規模で引き揚げられる可能性があると推計している。

 IMFでは、米国の長短期金利上昇やその結果としてのドル高に先進国は耐えられても、脆弱な新興国に悪影響が及びかねない、と分析している。火種は新興国にあるといえるのだろう。

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