朝毎東は「トランプペースでないか」(毎日)など疑問投げかけ
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【論調比較・日米貿易協議】「高関税発動は避けられた」と一定の評価では一致

長谷川 量一:論調比較 (ジャーナリスト)(News Socra)

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Reuters

 日米は貿易に関する2国間協定「物品貿易協定」(TAG)の交渉開始で合意した。9月末にニューヨークで行われたトランプ米大統領と安倍晋三首相との会談で決まったもので、日本は自動車への追加関税をかけるとのトランプ政権の脅しに押され、2国間協議に引きずり込まれた格好だ。

 対日貿易赤字の削減はトランプ政権の重要な課題。日本はその圧力をかわそうと、麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領による「日米経済対話」という枠組みを2017年に設け、幅広い経済問題について意見交換を始めた。

 2018年になって、その下に担当大臣による新通商協議(FFR)を設けたが、米国側はモノの貿易、サービス、投資などのルールを含む日米自由貿易協定(FTA)を要求する一方、日本は環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を訴え、FTAには難色を示してきた。しかし、トランプ政権は苛立ちを募らせ、日本からの自動車に関税をかける構えを示していた。

 9月26日(日本時間27日未明)の日米首脳会談後に発表された共同声明は、農産物を含む「モノの貿易」を対象とするTAG交渉開始を決め、その進め方などについて言及している。

 まず、日本は「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限である」、米国は「自動車について、自国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものである」と主張し、これを双方が「尊重する」とした。また、両国は「信頼関係に基づき議論を行い、協議が行われている間、この共同声明の精神に反する行動を取らない」と明記した。

 これについて日本は、「TAGは、包括的なFTAとは異なる」(安倍首相)と性格付けするとともに、交渉中は日本の自動車に対して追加関税を課さないといいう意味で、農業の自由化はTPP水準までという枠をはめたと説明する。

 一方、米国は協議が国内自動車産業に貢献するものでなければならず、交渉で成果がなければ自動車関税を再び持ち出すと言っているようなもの。農業自由化の水準も、日本の主張を「尊重する」が、それ以上の要求をするかは交渉次第ということになる。

 さらに共同声明には、「サービスを含む他の重要分野で早期に結果が出るものについて交渉を開始する」「TAGの議論が完了した後、他の貿易・投資の事項についても交渉する」とも書かれている。

 TAGは「モノの交渉」に限るにしても、その先を含めて考えれば、実質的には、投資やサービスの自由化など広範囲に及ぶFTAに道筋がついたというのが素直な受け止めだ。

 NAFTA見直し交渉がTAGの参考になる。米国、カナダ、メキシコの3カ国協定でありながら、米・加、米・墨の2国間交渉を重ねてまとまった。その中身は、自動車の関税を免除する域内の部品調達率の引き上げだけでなく、加墨からの米国の自動車輸入上限を年260万台とする数量規制や、通貨安誘導を禁じる「為替条項」も盛り込まれた。

 日本も厳しい要求を突き付けられるのは確実で、トランプ大統領はNAFTA見直し合意を受けた10月1日の会見で日米交渉の舞台裏に言及し、「交渉しないなら、日本車にかなりの関税を課すと伝えたら、すぐに交渉したいと言ってきた」と明かした。

 パーデュー農務長官は4日、「我々の要求はTPPプラスになる」と述べ、TPPを上回る水準の市場開放を求める考えを公言した。

 TAG開始合意をどう評価すべきか。大手紙が9月28日に一斉に掲げた社説(産経は「主張」)を読み比べてみよう。

 まず、交渉開始の合意、TAGという枠組みの是非についてだ。日本は、かつての日米自動車交渉や構造協議などで、自動車輸出自主規制など不本意な約束をさせられた苦い経験から、TPPなどの多国間の交渉を推進し、米国とFTA交渉しないと安倍首相が言い続けてきたが、今回、自動車への高関税をかけるとの脅しを受けて取引(ディール)に持ち込まれた形だ。こうした流れに照らして、各紙の見解は割れる。

 関税発動が当面、回避されたことには、<最悪の事態はひとまず避けられたと言える>(毎日社説)と、安どしているという点は、各紙一致する。

 しかし、<多国間の枠組みを重視してきた日本にとって、大きな方針転換>(朝日社説)であり、<トランプ大統領の圧力で方針転換を余儀なくされた>(東京社説)。このため、この3紙は<日米FTA交渉につながるのかどうかでは、早くも両首脳の見方が食い違っている>(東京)、<安倍首相は「TAGは、これまで日本が結んできた包括的なFTAとはまったく異なる」と話すが、本当なのか>(朝日)と疑問視し、<米大統領のペースに巻き込まれたままの交渉にならないだろうか>(毎日)と、懸念を前面に出す。

 これに対し、読売社説(すでにサイトから削除)は<通商問題での対立をひとまず回避し、結束を確認した意義は大きい>、産経の「主張」(社説)も<事態打開のため物品貿易に限って米国との交渉に応じるのは、やむを得まい>と、肯定的に評価しているのが目を引く。

 他方、日経社説は、<米国と、どういう通商関係を築くかは、日本にとっても避けて通れない課題だろう。これを機に建設的な輸出入の促進策を打ち出し、世界に貿易協議の範を示したい>と、日米関係の重要性を確認しながら、こうあるべきだという「べき論」を連ねた形。

 北朝鮮問題を含めて<米国第一の政策にもの申す安倍首相の役割にも期待したい>という締めも含め、難しい問題の社説にありがちな総花的な書きぶりが目についた。

 各紙とも、米国の要求を安易に飲んで管理貿易を受け入れてはいけないと訴え、また、今後の交渉が楽観できないと警戒感を示すのは共通だ。とは言え、こうすればよいという〝処方箋〟がはっきりしているわけではない。各紙が、世界貿易機関(WTO)の役割も含め、次のような書きぶりしかできないのは、交渉の難しさを示している。

 <米国第一に対抗する多国間の枠組み強化のため、欧州との経済連携協定(EPA)や、米国を除くTPP11の発効を急ぐ。自由貿易を尊重する国々と協力し、米国に変化を促し続ける。それこそ日本の務めだ>(朝日)

 <自由貿易で最も利益を得たのは米国だ。そのメリットを説き、日米の一段の市場開放を図る必要がある>(毎日)

 <日本は米国との新通商協議に粘り強く取り組む一方で、WTO改革で主導的な力を発揮し、トランプ大統領をWTOにとどまらせる戦略的な経済外交が必要だ>(東京)

 <日本は、理不尽な要求に屈せぬよう緻密な戦略を練りたい。トランプ政権に、自由貿易の意義を粘り強く説き続ける必要がある>(読売)

 <米国が中国の覇権を阻もうとするなら日欧と対中包囲網を強めるのが筋だ。この点を粘り強く訴えることが重要である>(産経)

 日経は他の各紙の主張を網羅した形で、<自由貿易の原則に沿った交渉を進めるべきだ><保護貿易の道を突き進む米国の自制が何より重要だが、日本も米国の軌道修正を粘り強く促す努力を続けたい><日米がWTOの改革を協議するのは好ましい><「TPP11」やEUとのEPAを早期に発効させ、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結も急ぐべきだ>などと求めている。

 米国の法律では、政府が幅広い分野で通商交渉の権限を議会から委譲されるため、3カ月(90日)前に議会に対して交渉入りを通知する必要があるので、今後の日米交渉は早くて年明けになる。日本が3カ月の猶予期間を得たことだけは確かだ。その間には11月の米中間選挙がある。

 そのほかにも、米中貿易戦争の動向、安全保障上の米中対立、また日米でも防衛装備品(兵器など)の米国からの輸入拡大など、多くの変数が複雑に絡み合う。この多元方程式をどう解いていくか、難しい交渉になる。

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