高齢心不全患者におけるベンドニアの頻度とその予後的意義

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― ベンドニアの臨床的な有用性を検討 ―

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の中出泰輔 大学院生、末永祐哉 准教授、鍵山暢之 特任准教授、前田大智 非常勤助教、藤本雄大 大学院生、堂垂大志 非常勤助教、砂山勉 非常勤助教、南野徹 教授らの研究グループは、高齢心不全患者におけるベンドニア(体を前に曲げた時に患者が呼吸困難を訴える症状)の頻度とその予後を明らかにしました。ベンドニアに関しては、これまで十分な症例数での検討はなされておらず、特に心不全患者における予後に関しては不明でした。本研究は、世界最大規模の多施設レジストリデータ(*1)である「FRAGILE-HF」(*2)を用いて解析を行い、別の多施設レジストリデータである「SONIC-HF」(*3)を用いてその結果を検証しました。その結果、ベンドニアを有する高齢心不全患者の割合は約3‐5%と従来報告されている割合(18‐49%)よりかなり少なく、ベンドニアがない患者と比べて有する患者は、予後が悪いことを明らかにしました。本成果は、ベンドニアの早期発見、早期治療の必要性を示唆する重要な報告と考えます。

■本研究成果のポイント
高齢心不全患者においてベンドニアを有する患者の頻度は3%-5%であった。

ベンドニアを有する患者は予後が悪いことが明らかになった。

ベンドニアは心不全患者の全死亡予測既存モデルに対して付加的な予後予測能を有していた。



■背景
心不全は世界的な健康問題としての注目を集めており、世界中の多くの人々に影響を与えており、多くの心不全患者が日常的に息切れを経験します。「ベンド二ア」とは、心不全を有する人が前かがみになったときに息切れを感じる症状のことです。これまでの調査では、心不全の患者の中でベンド二アを訴える頻度(有病率)は18%から49%と幅広く報告されていましたが、正確な有病率はまだ明らかにされていません。また、ベンド二アが予後に与える影響に関するデータも限られていました。本研究では、心不全で入院した高齢患者(65歳以上)におけるベンドニアの有病率、臨床的特徴、予後などを網羅的に検討することを目的として、2つの前向き多施設レジストリのデータを用いて実施しました。

■内容
本研究では、2016年から2018年にかけて国内15施設において急性非代償性心不全で入院し、独歩退院が可能となった65歳以上の心不全患者を前向きに登録した「FRAGILE-HF」のデータと、2018年から2019年にかけて国内4施設で同じ基準で登録された「SONIC-HF」のデータを統計的に解析しました。FRAGILE-HFの1,243人の患者(中央値年齢81歳、男性57.2%)とSONIC-HFの225人の患者(中央値年齢79歳、男性58.2%)のデータが分析に用いられました。分析の結果、ベンド二アはFRAGILE-HFでは31人(2.5%)、SONIC-HFでは10人(4.4%)の患者に見られました。両方のデータを通じて、ベンド二アを有する患者の特性は類似しており、体重指数(BMI)やニューヨーク心臓協会(NYHA)クラス(*4)による重症度がより高いことがわかりました。さらに、2年間の追跡調査では、ベンド二アを有する患者はない患者に比べて生存率が低いことがわかりました。単変量および多変量のCoxモデル(*5)のいずれにおいても、ベンド二アは死亡と有意に関連しており、心不全患者の死亡を予測する既存のリスクモデルにベンド二アの有無を追加することで、予後予測能(*6)が改善されました(図1)。

■今後の展開
今回の研究では、高齢心不全患者においてベンドニアの有無が予後を左右する可能性が示唆されました。ベンド二アを早期に特定し、適切な介入を行うことで心不全患者の予後にどのような肯定的な影響を与えることができるかといったベンド二アの早期発見とその対応策に関する研究が期待されます。

[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/640/resize/d21495-640-6e8a2c573be8f606e9bf-0.gif ]

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/640/resize/d21495-640-59327554869d70fcbb19-2.gif ]


■用語解説
*1 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。
*2 FRAGILE-HF:高齢心不全患者における身体的・社会的フレイルに関する疫学・予後調査 ~多施設前向きコホート研究~
*3 SONIC-HF:高齢心不全患者に対する骨格筋評価指標の比較~多施設前向きコホート研究~
*4 ニューヨーク心臓協会(NYHA)クラス:心臓病の症状に基づいた重症度分類で、患者の日常生活における活動制限の程度を評価するために使われる。
*5 単変量および多変量のCoxモデル:時間と共に変化するイベント発生リスクに対し、一つ(単変量)または複数(多変量)の因子がどのように影響するかを分析する統計モデル
*6 予後予測能:患者の医学・心理・社会的背景等から今後の経過の予測を可能とする性質。
*7 リスクファクター:特定の病気や状態の発生リスクを高める要因

■研究者のコメント
ベンド二アの評価は、簡単でコストを節約することができ、予後不良の予測ツールとして機能する可能性があります。開業医や往診医の先生に活用していただき、一人でも多くの心不全患者への加療の一助になれば幸いです。

■原著論文 
本研究はEuropean Journal of Preventive Cardiology誌のオンライン版に2024年4月4日付で公開されました。
タイトル: Bendopnea prevalence and prognostic value in older patients with heart failure:
FRAGILE-HF-SONIC-HF post hoc analysis
タイトル(日本語訳): 高齢心不全患者におけるベンドニアの頻度とその予後的意義: FRAGILE-HF-SONIC-HFの事後分析
著者:Taisuke Nakade 1), Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Yudai Fujimoto 1),Nobuyuki Kagiyama 1), Tsutomu Sunayama 1), Taishi Dotare 1), Kentaro Jujo 2), Kazuya Saito 3), Kentaro Kamiya 4), Hiroshi Saito 5), Yuki Ogasahara 3), Emi Maekawa 4), Masaaki Konishi 6), Takeshi Kitai 7), Kentaro Iwata 8), Misako Toki 3), Kenji Yoshioka 5), Hiroshi Wada 9), Takatoshi Kasai 1), Hirofumi Nagamatsu 10), Shin-ichi Momomura 11), Tohru Minamino 1)12)
著者(日本語表記):中出泰輔 1), 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 藤本 雄大 1),鍵山 暢之 1), 砂山 勉 1), 堂垂 大志 1), 重城健太郎 2), 齋藤和也 3), 神谷健太郎 4), 斎藤洋 5), 小笠原由紀 3), 前川恵美 4), 小西正紹 6), 北井豪 7), 岩田健太郎 8), 土岐美沙子 3), 吉岡健司 5), 和田浩 9), 葛西隆敏 1), 長松裕史 10), 百村伸一 11), 南野 徹 1)12)
著者所属(日本語表記):1) 順天堂大学, 2) 西新井ハートセンター病院, 3) 心臓病センター榊原病院, 4) 北里大学, 5) 亀田総合病院, 3) 心臓病センター榊原病院, 4) 北里大学, 6) 横浜市立大学, 7) 国立循環器病研究センター, 8) 神戸市立医療センター中央市民病院, 9) 自治医科大学附属さいたま医療センター, 10) 東海大学, 11) さいたま市民医療センター, 12) AMED-CREST
DOI: 10.1093/eurjpc/zwae128
  
「FRAGILE-HF」は、ノバルティスファーマ研究助成金および日本心臓財団研究助成金によって支援され、「SONIC-HF」は、ノバルティスファーマ研究助成金とJSPS科研費番号19K11424によって支援されました。本研究はAMEDから助成番号JP21ek0109543により資金提供を受け実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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記事提供元:タビリス