屈指の傑作! 英劇作家が描く地震・津波・原発事故
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【舞台直送(95)】「チルドレン」「MESSIAH(メサイア)」「ジャージー・ボーイズ」

河野 孝:舞台直送 (文化ジャーナリスト・演劇評論家、元日経新聞編集委員)(News Socra)

【舞台直送(95)】「チルドレン」「MESSIAH(メサイア)」「ジャージー・ボーイズ」の記事画像

「チルドレン」より、左から高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美(撮影:尾嶝太)

「チルドレン」
 ★★★★★ 屈指の傑作
「MESSIAH(メサイア)」
 ★★★★ 見応えあり
「ジャージー・ボーイズ」
 ★★★★ 見応えあり


■「チルドレン」(世田谷パブリックシアター、9月26日まで)
 ★★★★★ 屈指の傑作

 今世界が注目する英国の女流作家ルーシー・カークウッドが東日本大震災に触発されて書いた人間ドラマが、栗山民也の演出により日本で初上演された。

 彼女の作品自体の日本上演も今回が初となる。翻訳は小田島恒志で、企画・製作はパルコ。

 カークウッドは1984年生まれで、エジンバラ大学の学生時代に劇作家デビューした。アメリカ人写真家が、1989年の天安門広場で戦車の前に立ちはだかった男の軌跡をたどりながら、現代のアメリカに暮らす外国人が抱える問題をひも解いた問題作「チャイメリカ」は、2014年ローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞を受賞した。

 「チルドレン」はカークウッドが英ロイヤル・コート劇場の依頼で書き下ろした。米ブロードウェイでの上演成功を受けて、シドニー・オペラハウスでも上演された。

 英国の東海岸の片田舎。巨大地震と津波によって原子力発電所の緊急電源が停止し、放射線物質が放出されている。ロビン(鶴見辰吾)とヘイゼル(高畑淳子)夫婦は、放射能汚染の心配のない地区にある簡素なコテージに移り住んでいるが、水道の水は飲めず、計画停電も終わらない。隣人もほとんどなく、二人きりで不便な生活を送っている。

 二人とも若い頃は事故が起きた原発で一緒に働いた科学者だった。そこに何の前触れもなく、同じ原発で働いていたローズ(若村麻由美)が38年ぶりに突然訪ねてきた。侵入者と間違えて驚いたヘイゼルがローズに暴力をふるい鼻血を出させてしまったところから始まる。

 二人の間に緊張感が漂っている中、ヘイゼルの夫ロビンが放射能汚染区域内にある自分たちの農場に取り残された牛の世話を終えて戻ってくる。ヘイゼルが部屋を離れると、ロビンはローズの乳房に手を伸ばす。二人が以前は恋人同士で、その関係が結婚後もしばらく続いていたことがわかってくる。

 夫婦には子供が4人いるが、独立していて彼らが両親に会いに来ることもない。

 なぜローズが昔の愛人ロビンに会いに来たのかが明らかにされると、ストーリーは急展開する。ローズは、原発の大事故後の危険な処理を、これから老年を迎える自分たちが行うべきだとボランティアを募っていたのだ。そこで、原発で昔一緒に働いていたロビンとヘイゼルを誘いに来たのだった。

 しかし、原発事故後の処理に携わることは犠牲的な覚悟を必要としたが、未来のある若いエンジニアたちにこれ以上は現場を任せるべきではないとローズは説く。そんな議論を交わしている時、ロビンが突然、血を吐いた。

 登場する3人は物理科学者で、どこか変な人たち。ロビンは女好き、ヘイゼルは異常に几帳面だし、ローズも一人荒野を行く感じ。そうした3人が昔のように語らい、冗談を言い合う中でも、地震、津波、原発事故に見舞われたPTSD(心的外傷後ストレス障害)が節々の言動や動作に顔をのぞかせる。

 劇作家は元々男女関係をテーマに書いていたところ、東日本大震災後の出来事に刺激され原発事故という物語を追加することになった。男女関係のもつれなど日常性が微細に描かれると同時に、原発事故後の危機が進行する事態が、織り成すように交差しながら進んでいくのが面白く、緊張感を生み出している。

 ヘイゼルとローズの会話も裏にはとげのようなものがある。ヘイゼルは夫とローズの以前の関係を知っており、警戒心があるからだ。昔のパーティーを思い出し踊るところは楽しく盛り上がり観客も気を抜けるところだ。

 実はヘイゼルが可愛がっていた農場の牛は被爆して全滅していたのにも関わらず、彼女の気持ちを傷つけまいと「牛が無事なので世話に行く」と毎日汚染された農場に足を運んだ夫のロビンが、多量に被爆してもう助からない身になっている。

 水のイメージも象徴的に巧妙に使っている。トイレの排水機能が壊れ、大便が詰まって汚染水が床にあふれ出てくるところは、原子炉の冷却で放射能に汚染された水が大量に出来て、海に流れだそうとしている現場の危機とダブる。

 また、海の底からは津波で流された教会の鐘が聞こえてくる、というシーンも犠牲者への鎮魂を意識している。

 日本の劇作家も東日本大震災、津波、原発事故をテーマに取り上げ作品は書いている。その場合、あまりにもストレートであったり、問題を列挙するにとどまったりで、演劇的なふくらみを感じさせる良質な作品は少ない。

 それを大きな地震のない英国の劇作家が、物語の舞台を英国に移したとしても、人間ドラマとして緻密に書き上げたことは作家の力を感じさせる。伏線の張り方もうまい。

 ドイツの実存主義哲学者ハンス・ヨナスは「未来世代への責任」を主唱したが、作家が観客に問いかけるのも、人間が多くの過ちを繰り返し、汚されたこの地球に今を生きる我々が、生まれ来る未来の子供たちのために何ができるのか、母なる地球とどう関わるべきなのか、ということである。
(上演時間は休憩なしで1時間50分)

東京公演後、穂の国とよはし芸術劇場PLAT(9月29~30日)、大阪・サンケイホールブリーゼ(10月2~3日)、高知市文化プラザかるぽーと(10月10日)、北九州芸術劇場・中劇場(10月13~14日)、富山県民会館(10月20日)、宮城・えずこホール(10月30日)


■宝塚歌劇花組「MESSIAH(メサイア)」「BEAUTIFUL GARDEN」(東京宝塚劇場、10月14日まで)
 ★★★★ 見応えあり

宝塚歌劇花組公演のチラシ

宝塚歌劇花組公演のチラシ

 ミュージカル「MESSIAH(メサイア)-異聞・天草四郎-」は、奇しくも「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が今年6月、世界遺産に登録が決まった時期と重なった。

 作・演出の原田諒は、島原の乱の指導者として多くの伝説を残し、異彩の魅力を放つ天草四郎の姿を、新たな視点でドラマティックに描き出した。天草四郎を花組トップの明日海りおがりりしく演じ、動乱の時代に信仰に命を賭けた人々の熱い息遣いが伝わってくる。

 江戸時代初期、幕府の禁教令にもかかわらず、九州・天草の地には数多くのキリシタンが隠れ住んでいた。そこに一人の男が難破して流れ着く。自らの過去を語ろうとしないその男は倭寇の頭目だったが、キリシタン大名として知られた小西行長の遺臣によって匿われ、四郎と名づけられた。

 周囲の人々と交わろうとしない四郎は、やがて一人の娘・流雨との出会いを通じてキリシタンの教えを知ることになる。その頃、肥前島原藩主によるキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てに、民衆たちの我慢は限界に達していた。四郎は、天草、島原の人々のために立ち上がることを決意する。四郎は真の救世主(メサイア)となり得るのか。

 天草四郎といえば、襞襟の南蛮風の衣装が思い浮かぶが、ここでは現代風のビジュアルにしている。

 正統派スターとしてのみずみずしい清潔感にあふれる明日海は、芯の強さを持つ天草四郎をくっきりと演じている。憂い顔、笑い顔にも「永遠の少年」のような輝きがある。

 娘役トップの仙名彩世(せんなあやせ)が演じるのは、オリジナルキャラクターである流雨。密かにキリスト教を信仰し、柚香光(ゆずかれい)が演じる山田右衛門作が描く絵のモデルをしている女性で、抑圧されながらもキリスト教への信仰を守り抜く凛とした面を見せる。

 柚香光が演じる山田右衛門作(リノ)は、島原の乱の際、民衆側で唯一生き残った人物として歴史にその名が残っている。なぜ生き残ったのかの真相はわからないが、演出家の解釈は大胆だ。

 島原の乱の真相を知りたいと欲する四代将軍徳川家綱が、南蛮絵師のリノを江戸城に密かに召し出して、一揆の当事者から実際に事情を聞こうとする大胆な着想だ。懐の深い柚香が役の人物を膨らませ、物語に厚みを出している。

 ほかに中堅メンバーが、個性的な人物をしっかりと演じ舞台を支えている。キリシタン大名だった小西行長の遺臣、渡辺小左衛門を瀬戸かずや、島原藩で悪政を敷き、乱の原因ともなる藩主松倉勝家を鳳月杏、乱の鎮圧に当たった江戸幕府の老中松平信綱を水美舞斗が演じる。敵役にすごみや存在感がなければスターも輝いてこないのである。

 島原の乱は直接的には、苛政に対する一揆という性格が強い。しかし、演出家は、自由と平等を求める戦いだった、と位置付けているようだ。「神は人間を救うことができるのか」という問いに対し、どうせ死ぬのなら、死後の「パライソ(楽園)」を願うのではなく、この世に「パライソ」を建てようと四郎は呼びかけるのだった。

 ショー・スペクタキュラー「BEAUTIFUL GARDEN -百花繚乱-」(作・演出=野口幸作)は、明日海りおが率いる花組を「BEAUTIFUL GARDEN」(美しい庭)に例え、花にまつわる様々な恋人たちの夢とロマンを描き出す。華やかなだけでなく、耽美的で大人の雰囲気の場面もある。

 ストーリー仕立ての場面が二つはさまれている。スペインの伝説のマタドールの愛と死を描いた場面と、もう一つは、ローマのグラディエイター(古代ローマ帝国の剣闘士)にまつわる場面で、力強さと退廃美を見せている。

 新機軸は、4人組ダンスカンパニー「s**t kingz(シットキングス)」のOguri(オグリ)に、初めて振り付けを依頼したこと。若い男女の恋模様をバート・バカラックの名曲で綴る躍動感いっぱいのダンス。さらに11人の美青年ユニット「花美男子(HANAOTOKO)」が真夜中の街で歌い踊る現代的なシーンとの2場面だ。

 また今年生誕120周年を迎えるジョージ・ガーシュインの名曲を現代的にアレンジした「ガーシュイン・メドレー」がアーバン・ジェントルマン、アーバン・レディによって展開、宝塚の男役と娘役の美学を見せつける。

 最後を締めるのが永遠の花園である宝塚への愛を歌う「ETERNAL GARDEN TAKARAZUKA(エターナル・ガーデン・タカラヅカ)」。明日海のために新曲も作られたが、この曲は明日海のエッセイなども調べ、明日海にまつわるエピソードなども歌にしたという。
(上演時間は休憩1回で3時間)


■ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」(シアタークリエ、10月3日まで)
 ★★★★ 見応えあり

「ジャージー・ボーイズ」より、「チームBLUE」公演。左から矢崎広、中川晃教、伊礼彼方、spi(写真提供:東宝演劇部)

「ジャージー・ボーイズ」より、「チームBLUE」公演。左から矢崎広、中川晃教、伊礼彼方、spi(写真提供:東宝演劇部)

 米国のポップグループ「フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」の軌跡を、彼らのヒット曲に乗せて見せていく。

 2016年の日本初演(【舞台直送(31)】で既報)で大評判となり、その年の数々の演劇賞を受賞した。今回はこの人気の舞台が、2年ぶりに東京で再演されるとともに、全国5カ所で初上演される。

 成功の大きな要因となったのが、「天使の声」と称されたフランキー・ヴァリの歌声を見事に体現した中川晃教の存在。今回は「この作品に出会えたのは奇跡」という中川のフランキーを中心に、「チームBLUE」(伊礼彼方、矢崎広、spi)、「チームWHITE」(中河内雅貴、海宝直人、福井晶一)の2チーム制で上演、それぞれに違った味わいを見せている。演出は蜷川幸雄の薫陶も受けた気鋭の演出家・藤田俊太郎が続投。

 ニュージャージー州の貧しい片田舎で、フランキー(中川)は、兄貴分のように慕うトミー・デヴィート(伊礼、中河内)と友人のニック・マッシ(福井、spi)のグループのボーカルとして迎え入れられた。トミーの兄が抜けた後、作曲の才能があるボブ・ゴーディオ(海宝、矢崎)の加入をきっかけに4人は活動をスタートした。

 下積み時代を経て、ついにボブの楽曲と4人のハーモニーが認められる。「ザ・フォー・シーズンズ」としてレコード会社と契約し、全米ナンバー1の楽曲を次々と生み出していく。しかし輝かしい成功の裏では、莫大な借金やグループ内の確執、家庭内不和など様々な問題が彼らを蝕む。やがてそれらは大きな軋轢となり、グループを引き裂いていく。

 4人の物語がグループ名の通り春・夏・秋・冬の4つに分かれていて、季節ごとにストーリーテラーがバトンタッチしていく。トミーがフランキーを見つけてグループとして出発するのが春。

 夏は作曲家のボブがフランキーの歌声を聴いてグループに加わり、大きな転機を迎える。グループの要となっていた、ニックが脱退するのが秋。そしてフランキーは娘を亡くし、グループも危機を迎える。

 一番の見どころは「シェリー」や「君の瞳に恋してる」など名曲の数々を思う存分に楽しめること。それがジュークボックスミュージカルと言われる所以だ。

 藤田俊太郎の演出もさえている。舞台の両端には大小様々なテレビが積み上げられ、舞台上で撮影した映像を生配信したり、当時の時代を象徴するような映像を流したりして、視覚的に多彩に見せる。要所要所で回転舞台を使い、観客の視点も多角化させてくれる。

 今回から参加したトミーの伊礼はワルな感じが出ている。兄貴肌のリーダーでありながら、裏ではマフィアとつながり多額の借金を背負うという二面性をうまく表現していた。同じく初参加のニックのspiは、恵まれた体格に細やかな演技も相まって安定感がある。

 初演に引き続き神がかり的なハイトーンで楽曲に光を与える中川。中川の10~20代の代表的な役がミュージカル「モーツァルト!」のモーツァルトだとしたら、30代の今はこのフランキー・ヴァリだ。

 しかし、中川がフランキーの役を掌中におさめるまでの過程は大変だった。この役はプロデューサーで、フォー・シーズンズのメンバーであるボブ・ゴーディオのOKを取らなければならなかった。そのためにデモ・テープと歌唱している姿を複数回送った。

 フォー・シーズンズの楽曲は、初期・中期・後期で音楽性が進化し、フランキーの声の出し方も変わったとのことで、発声のコントロールも厳しくチェックされたわけだ。

 また中川は、鼻にかかった高音を出すトワングという独特の発声法を、時間をかけて習得した。解剖生理学的知識に基づいて喉や身体全体の仕組みを考えつつ、自分の個性も合わせてフランキーの声を出すための筋肉を鍛えていった。初演が終わってからもこれまでレッスンを続けていたという。

 フランキー・ヴァリは今年84歳。「自分もあの年まで歌い続けることができるだろうか」と尊敬の念を抱いている中川は今、心身ともにフランキーと同体になっている。
(上演時間は休憩1回で2時間50分)

東京公演後、秋田・大館市民文化会館(10月8日)、岩手県民会館(10月11~12日)、名古屋・日本特殊陶業市民会館(10月17~18日)、大阪・新歌舞伎座(10月24~28日)、福岡・久留米シティプラザ(11月3~4日)、横浜・神奈川県民ホール(11月10~11日)


□【舞台直送】の61回目から、舞台の格付けを始めました。各評価は次の通り(星三つ以上が「観る価値あり」の作品です)。
★★★★★ 屈指の傑作
★★★★ 見応えあり
★★★★★ 一見の価値あり
★★★★★ 見方次第で楽しめる
★★★★ 期待していたが

出発:

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