伊政権の無茶な財政膨張、銀行危機の不安
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【経済着眼】ポピュリスト連合で欧州議会乗っ取り企む

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)(News Socra)

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コンテ・イタリア首相(右)=Reuters

 コンテ首相率いるイタリアの連立政権は、9月27日、きわめて拡張的な2018-20年度の財政計画を打ち出して、イタリア国債やイタリアの銀行株価が急落した。

 この内容は前民主党政権によるEUとの約束を無視するだけでなく、トリア財務相の当初案をも打ち砕くものであった。同計画は、コンテ首相以下、連立政権首脳部は自画自賛しているが、全くそれには値しない危険極まりないリスクを冒している内容だ。

 レンツィ元首相らが率いた前民主党政権は、財政再建策を通じて、財政赤字及び公的債務残高の減少を図ってきた。昨年には、EUに対して年間の財政赤字をGDP比0.8%にまで縮小して2019、20年には黒字化する、と約束していた。

 市場では、はっきり言って、このような高い目標を達成するのは難しかろう、とはみていた。しかし、9月27日に示された財政赤字の規模は、トリア財務相が提出したGDP比1.6%という数字も無視して、向こう3年間でGDP比2.4%と市場予想を大きく超えるものであった。

 連立政権からすれば選挙時の公約を全て実施すれば、約1,000億ユーロ、GDP比6~7%の財政赤字になるとの試算であった。さすがに同盟の提唱する北部富裕層の減税に繋がるフラットタックス(必要資金500億ユーロ)や五つ星運動の公約である南部貧困層の最低所得を保証するベーシック・インカム(必要資金170億ユーロ)などについては段階的に実施することになった。

 それでも、ほとんど歳入増措置が取られずに、歳出にVAT増税凍結や公共投資の増額も加わって今回の財政赤字の規模になったと伝えられる。

 イタリアの国債残高のGDP比はギリシャに次ぐ高さ(131.6%)で安定・成長協定(SGP)で謳われる上限(60%)を大きく上回っている。EUから早急な引き下げを迫られていたが、大幅な赤字計上の見通しによりこのままではその達成は不可能となったと言える。まだ明らかになっていないが、三年間、財政赤字が2.4%と一定であるということはEUが重視する構造的財政赤字も縮小しないことを意味する。

 ポピュリズムの常として耳に痛い政策は全く織り込まれていない。連立政権は「EUが緊縮政策を迫ったからイタリア経済は長期低迷を続けた」と批判しているが、まったくお門違いというものである。

 イタリア経済の不振は、中小零細企業のウエイトが高く生産性が全く伸びないのに賃金だけは上がっていったので国際競争力を失ったこと、労働者の解雇や労働条件変更が容易でないという労働市場の硬直性、深刻な不良資産問題に悩み続けてきたこと、などいずれも抜本的な構造改革を要するイタリア自身の問題にある。

 それなのにこれらを打開するような成長促進、投資増加を実現するような財政面からの対処策は一切採られていない。

 当然のことながら市場はこの財政計画の発表を受けて10年物国債の利回りが3.4%程度と急騰(価格は急落)した。ドイツ国債とのスプレッド(利回り差)は一時、303ベーシスにまで開いた。銀行の株価は、その国債を大量に保有していることに伴う多大の評価損が嫌気されて急落した。EUやECBが恐れているようにイタリアで銀行危機が起きる可能性は依然として大きい。

 テクノラートとして市場の信頼も厚いトリア財務相が政府内部の調整を期待されていたが、五つ星運動のディマイオ氏と同盟のサルビーニ氏の両副首相を制御することは叶わなかった。トリア財務相が辞任すれば、その混乱はますます深まろう。

 一方で、コンテ首相や両副首相は外圧には屈しないと強気だ。これはイタリアの連立政権が来年5月に予定されている欧州議会選挙で、フランスの国民戦線やポーランドのオルバーン首相らと協力して極右・ポピュリストの連合会派を結成して、EUを牽制できると踏んでいるためだ。

 19-21年財政計画は10月15日に欧州委員会に提出される予定だ。欧州委員会は当然、「重大な規律批判のおそれがある」として計画の修正を求めてくるだろう。11月末までにはEUが最終意見表明をして、イタリア政府はそれを踏まえて本年末までには上下院で可決するスケジュールとなっている。

 また周知のように、財政赤字のGDP比が3%以下、公的債務残高のGDP比が60%を超える場合、過剰財政手続き(EDP)を原則として適用される。財政再建が不十分な加盟国にはGDPの0.2%の制裁金を課すことができる。政治的な判断が優先されてこの適用を受けた加盟国は実際にはない。いずれにせよ、イタリアに対する厳しい視線がブラッセルならびに市場から浴びせ続けられることであろう。

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