【人インタビュー】畳めるバイクのICOMAが描く未来 おもちゃの心で社会をデザイン:株式会社ICOMAの代表取締役・生駒崇光 (上)「変形」に魅せられたデザイナーの軌跡
2025/9/16 0:00 ジョルダンニュース編集部

大阪・関西万博の会場に、近未来的なスーツケース型ロボットが登場したのをご存知だろうか。このロボットをデザインしたのは、折りたたみ電動バイク「ICOMA TATAMEL BIKE」で知られるスタートアップ、株式会社ICOMAの代表取締役・生駒崇光氏だ。おもちゃからバイクへ、そして万博のプロジェクトへ。一見、異なる分野を横断するICOMAの事業は、「おもちゃの心で未来を作る」という一貫したビジョンに貫かれている。本インタビューでは、生駒氏がこれまで手がけてきたプロダクトや、日本を代表する大企業との共創、そしてICOMA独自の「デザインメソッド」について深掘りしていく。メカデザイナーとしてキャリアをスタートさせた生駒氏の原点から、社会にロボットを普及させるためのユニークな戦略まで、ICOMAが目指す「ワクワクするものづくり」の真髄に迫る。
Q:ICOMAの原点となる「おもちゃの心で未来を作る」というビジョンについて詳しく教えてください。
A: 当社は、一般的なスタートアップとは少し変わった経緯で創業しました。通常はビジネスモデルから入ることが多いですが、私たちは「プロダクトアウト」、つまり作りたいものから出発しています。僕自身が子どもの頃から大好きだった、変形するおもちゃ「ガチャガチャ」から着想を得て、「ICOMA TATAMEL BIKE」という製品を開発しました。
このバイクは、手のひらサイズのおもちゃを組み立てるとバイクになるというコンセプトをベースにしています。なぜおもちゃから始めたかというと、僕がインターネット上に最初の設計図を公開した際、非常に大きな反響があったからです。多くの「いいね」がつき、ネットニュースでも話題になりました。この「応援」というポジティブなムードのなかで起業することで、最初から多くの人に意見をいただき、ファンになってもらえる。そういった状況が、新しいものづくりには非常に重要だと感じました。


Q:生駒さんのキャリアの原点には、おもちゃやロボットがあったのですね。
A: ええ。僕のキャリアは、タカラトミーでトランスフォーマーのキャラクターデザインから始まり、その後、Cerevoでプロジェクターロボット、GROOVE Xで家族型ロボット「LOVOT」の開発に携わりました。もともと、僕はアーティストやイラストレーターに近く、特に変形機構のあるロボットに強い憧れを持っていました。これは、アニメ『マクロス』の河森正治監督の影響が大きいです。河森さんがデザインする変形ロボットに魅了され、「メカデザイナー」という仕事に憧れを抱き、いつか自分もああいうものを作りたいと思っていました。

トランスフォーマーの仕事は、キャラクターデザインとプロダクトデザインの融合であり、まさに僕がやりたかったことでした。のちに携わったLOVOTも単なるハードウェアではなく、「キャラクター」を生み出すためのハードウェアだと捉えて開発していました。タタメルバイクも、単なる移動手段ではなく、どこか愛着のわく「キャラクター」のような存在にしたいという思いがあります。たとえば、ホンダの「モンキー」や「モトコンポ」のように、見た目にキャラクター性があるハードウェアを目指しています。
Q:大企業との協業も積極的に行われているとのことですが、どのような事例がありますか?
A: 現在、ICOMAの事業は大きく二つの柱があります。一つは自社製品である「ICOMA TATAMEL BIKE」の製造・販売。もう一つは、私たちが得意とするハードウェア開発の受託事業です。
例えば、大阪・関西万博では、日本科学未来館が主導するAIスーツケース型ロボット「AIスーツケース」の開発に携わりました。このプロジェクトは、IBMや清水建設など、大手企業によるコンソーシアムが取り組んできたものです。私たちは、このコンソーシアムには参加していませんが、デザイン面で協力する形で招集されました。

Q:具体的にどのようなデザインを担当されたのでしょうか?
A: AIスーツケースは、視覚障がい者の方向けに、盲導犬のように自律移動で誘導してくれるロボットです。私たちは、筐体のデザインや外観だけでなく、試作モデルの構造設計まで担当しました。このロボットには、多くのセンサーが搭載されていますが、一般的なロボットのセンサーはごつごつしていて、デザインに落とし込むのが難しいのです。僕自身、長年ロボットのデザインに携わってきた経験から、そのあたりの課題解決には自信がありました。センサーを美しく、そして機能的に配置し、AIスーツケースが人々の生活に溶け込むようなデザインに仕上げました。

Q:スーツケースのデザインに「溶け込む」というコンセプトがあるのは興味深いですね。
A: スーツケースという形にしているのは、ロボットをみんなが使う公共の場で、誰もが違和感なく使えるようにするためです。見慣れないロボットが一人で歩いていると、少し奇異な目で見られるかもしれません。しかし、スーツケースであれば、旅行者が持っているのと同じように、ごく自然に受け入れられると考えました。このコンセプトはコンソーシアムがもともと、持っていたもので、私たちはそこにICOMAのデザイン力を掛け合わせて、より社会に受け入れられるような形状に整えさせていただきました。
このAIスーツケースは、万博会場のロボット&モビリティステーションで展示されており、実際に体験することも可能です。目が見える人も見えない人も、このロボットを利用する実証実験が行われています。社会にどうやって新しい技術を浸透させていくかという点において、非常に重要な取り組みだと考えています。
Q:他にも大企業との協業事例はありますか?
A: 椿本チエインさんとのプロジェクトも進行中です。椿本チエインさんは、エンジン用ドライブチェーンの世界トップメーカーで、様々な事業を展開されています。新規事業として新しい乗り物開発を検討された際に、ICOMAのユニークなものづくりをみて、お声がけいただきました。私たちは企画段階から参画し、製品のビジュアルやコンセプトを約2〜3年にわたって一緒に作り上げています。

この共同プロジェクトは、スタートアップと大企業が手を取り合う良い事例だと考えています。来月末から開催されるジャパンモビリティショーへの共同出展も予定しています。大手メーカーさんが持つノウハウやリソースと、スタートアップの持つスピード感やアイデアを掛け合わせることで、お互いの強みを活かした新しい価値を創造できると信じています。
(続く)