【人インタビュー】畳めるバイクのICOMAが描く未来 おもちゃの心で社会をデザイン:株式会社ICOMAの代表取締役・生駒崇光 (下)おもちゃで社会を変える、「トイボックス」というデザインメソッド

ジョルダンニュース編集部

Q:ICOMAの事業の根幹には、他にはない独自の開発手法があるようですね。

A: ええ。僕がこれまでの経験から確立した「トイボックス」と呼んでいるデザインメソッドがあります。これは、アイデアをいきなり高額なプロトタイプにするのではなく、まずはおもちゃのような簡易的な形で具現化し、多くの人に見せて、意見を募るという手法です。

一般的なハードウェア開発では、企画段階のアイデアはクローズドなものとして扱われ、一部の関係者以外には見せません。しかし、ICOMAでは、「ICOMA TATAMEL BIKE」のおもちゃを10万個以上出荷しました。これは、まだ実車のバイクに乗れない子どもたちに、「バイクって畳んで変形してもいいんだ!」という新しい概念を提示するためです。このおもちゃをきっかけに、多くの人が私たちの製品に興味を持ち、意見を寄せてくれました。これにより、より多くのフィードバックを得ることができ、製品の改善に役立てることができました。

タタメルバイクのカプセルトイ。第三弾はアーティストとのコラボレーションで今年11月に発売予定

Q:おもちゃでフィードバックを得るというのは、どのようなメリットがあるのでしょうか?

A: 従来の開発プロセスでは、数億円をかけて作った試作品に対しては、誰もが本音を言えなくなってしまいます。「こんな大金がかかっているのに、今さらやり直しはできない」という状況が生まれやすいのです。しかし、おもちゃであれば、誰でも気軽に触って遊べ、忌憚のない意見を述べることができます。子どもが遊びながらアイデアを出すように、多くの人が楽しんで意見を交換できる環境が生まれるんです。

機能的なモデルだけでなく、「この製品が社会に普及したらどうなるだろう?」といった想像力をかき立てるモデルを作ることで、より多くの人の意見が反映された、本当に価値のあるプロダクトが生まれると信じています。これを僕らは「トイボックス」というデザインメソッドとして体系化し、社内だけでなく、大企業との協業でも活用しています。

Q:ICOMAのプロダクトは、見た目のユニークさやキャラクター性が強いですね。

A: それも日本の強みだと考えています。僕はトランスフォーマーやLOVOT、そしてICOMAのバイク開発を通して、「デザインの付加価値」の重要性を痛感しました。最近ではAIの発展により、一般的な答えは簡単に出せるようになりました。しかし、人の心を動かすような「付加価値」を生み出すことは、ますます重要になってきます。

例えば、Appleのデザイン責任者だったジョナサン・アイブ氏が立ち上げたデザイン企業ioは今年、オープンAIに数千億円という破格の金額で買収されました。これは、単なる製品開発力ではなく、彼のデザインメソッドや付加価値を生み出す力が評価されたのだと思います。ICOMAも、デザインという武器で、まだ答えのない社会課題を解決したい。そして、日本の持つユニークなコンテンツやデザイン力を、世界に発信していきたいと考えています。

海外展示会にも積極的に出展し、フィードバックを得ています。今年も、「ミラノデザインウィーク」の主要イベント「ミラノサローネ」に出展しました。

ミラノサローネに出展した新型製品
ミラノサローネに新型製品を出展した生駒氏(右から2番目)

Q:ICOMAの製品は、どのようなユーザーに支持されているのでしょうか?

A: 実用性だけでICOMAのバイクを購入される方は、まだ少ないかもしれません。むしろ、「目立ちたい」「好きなものを共有したい」という方が多いですね。たとえば、バイクに自分の飼っている猫のイラストのパネルをつけ、毎日通勤に使ってくださっているユーザーさんがいます。彼にとっては、このバイクは単なる移動手段ではなく、自分の「推し」を表現するツールなんです。

他にも、看板代わりに美容室の前に置いてくれるお店や、趣味でバイクを愛でる人など、使い方は様々です。パネルのデザインも豊富に用意しており、自分でデザインした画像データで、世界に一つだけのバイクを作ることもできます。

実用性だけでなく、「好き」という気持ちを表現できる道具であること。それが、ICOMAのバイクが持つ一番の価値だと思います。この「好き」という感情が、社会に新しい価値を浸透させる原動力になるはずです。

Q:今後の事業展望についてお聞かせください。

A:ロボットを社会に普及させるには、その技術がどういう存在なのかを多くの人に理解してもらう必要があります。LOVOTは、新型コロナウイルス感染症の流行によって、多くの人がその存在価値を再認識したことで普及が進みました。これは、ロボットの価値が、社会との関わりの中で明確になった例です。

だからこそ、ICOMAは「おもちゃ」という分かりやすい形で、未来の乗り物やロボットのコンセプトを社会に先行して提示したいのです。子どもたちがICOMAのバイクのおもちゃで遊ぶことで、「こんな未来の乗り物があるんだ」と、自然にその概念を受け入れてくれる。そういった未来を見据えて、僕たちは新しいデザインメソッドとプロダクトを、これからも生み出していきます。

新しい技術をどう社会に実装するか、その「翻訳」を担うのがデザインだと考えています。ICOMAは、ハードウェアスタートアップとして、自社のプロダクト開発だけでなく、大企業と協業しながら、まだ見ぬ未来のプロダクトをデザインするチームとして成長していきたい。そして、デザインの力で、日本のものづくりを世界に発信していきたいと考えています。

<略歴>

桑沢デザイン研究所プロダクトデザインコース卒 株式会社タカラトミーで「トランスフォーマー」の海外事業を担当。その後、株式会社CerevoでIot家電製品の開発を行い、 2016年からGROOVE X株式会社にて家族型ロボット「LOVOT」 の開発に携わる。2021年に ICOMA Inc.を創業。
専門学校桑沢デザイン研究所非常勤講師
総務省公認 異能β
科学未来館 上席客員研究員(-2025/3)

記事提供元:タビリス