【人インタビュー】「遊び心」が世界を変える:クッキー生地で夢を叶える コロリド竹内ひとみ(上) クッキー生地に込めた「誰でもできる」という哲学

ジョルダンニュース編集部

フードテック・スタートアップ、コロリド(米デラウェア州)の代表兼CEOである竹内ひとみ氏は、一見するとシンプルなクッキー生地に、驚くほど多層的なビジョンを込めています。彼女のキャリアは、阪神・淡路大震災での被災体験から始まり、ITバブル、そしてシリコンバレーでの独自の共同生活へと続きました。延べ6000人もの起業家と食卓を囲んだ経験から生まれた「食の持つコミュニケーション力」という確信が、現在の事業の原点です。また、自身の経験から「子育てをキャリアとして評価する社会」の実現を掲げ、コロリドをそのための第一歩と位置付けています。今回は、そんな彼女の波乱に満ちた半生と、ユニークなクッキー生地が世界をどう変えていくのかについて、深掘りします。

社名に秘められたグローバル戦略

Q: まずは会社紹介をお願いします。

A: はい、コロリドの代表兼CEOの竹内ひとみです。私たちが日本の皆さんには「コロリド合同会社」として知られていますが、実は本社はアメリカのデラウェア州に登記しています。正式名称は「コロリドインク(Coloridoh, Inc.)」といって、資金調達も全てアメリカで行っています。日本法人はアメリカ本社の活動をサポートする子会社という位置づけです。日本での販売や活動をスムーズに行うために設立しましたが、私たちは創業当初からアメリカをメインマーケットと見据えているので、グローバルな事業展開を最初から意識した社名と体制にしています。

ピッチコンテストなど様々な機会で事業内容を説明する

Q: どのような事業をされているのでしょうか?

A: 私たちのメインプロダクトは、「遊んで食べる体験型クッキー生地」です。一見するとシンプルな商品ですが、構想から3年以上の開発期間を経て生み出した、独自技術が詰まった商品です。袋の中には、常温で保存できるクッキー生地が入っていて、これを手で揉むと柔らかくなり、粘土のような状態になります。好きな形を作って、オーブンやトースターで5~10分焼くだけで、オリジナルのクッキーが完成します。計量も不要で、面倒な準備もいりません。

このプロダクトで最も大切にしているコンセプトは「ユニバーサル」、つまり「誰でもできる」ことです。 料理の腕前や年齢、性別を問わず、誰もが手軽にクッキー作りを楽しめます。私たちはこれを、単なる食品ではなく、食を介した新しい「コミュニケーションツール」として設計しました。カラフルな生地を混ぜて「どんな色になるかな?」「どんな味になるかな?」と想像するだけで、クリエイティブな要素と遊び心が加わり、自然なコミュニケーションが生まれるように工夫しています。

食のハードルを越える「世界初」の技術

Q: コミュニケーションツールとして、なぜクッキーを選んだのですか?

A: クッキーは、世界中のどの国に行っても通じる「共通言語」だと考えたからです。食という誰もが関心を持つテーマを入り口にすれば、国境や文化を越えて自然な会話が生まれます。

プロダクト開発においては、多くの人が抱える食のハードルを乗り越えることも重視しました。まず、アレルギー物質28品目に対応し、ビーガンにも対応しています。主原料を米粉ベースにすることで、小麦アレルギーの方でも安心して楽しんでいただけます。これはシリコンバレーでのシェアハウス時代、様々なアレルギーや宗教、食の嗜好を持つゲストのために毎日料理を作っていた経験から生まれたアイデアです。彼らが毎日の食事を楽しみにしている姿を見て、食が持つ力を改めて感じました。

また、常温保存を可能にした独自技術も大きな強みです。アメリカではコンシューマー向けのクール宅急便が一般的ではないため、常温での輸送や保管ができないと、ビジネスの拡大が非常に困難になります。そこで、私たちは、水分を極限まで減らすことで、保存料を一切使わずに、腐敗しない状態を実現しました。この技術は、クッキー生地として世界初であり、現在、国際特許を出願中です。このおかげで、工場から売り場、イベント会場、そしてお客様の食卓まで、冷蔵庫に入れる必要がなく、輸送コストも大幅に削減できます。

イベントやポップアップストアで販売を重ねる

工場探しに1年…波乱の日本再始動

Q: 事業開始からこれまでの経緯と、販売状況について教えてください。

A: 2020年にアメリカで法人登記しましたが、翌年、新型コロナウイルスのロックダウンで、現地の工場探しや交渉が全くできなくなってしまいました。私たちのシェアハウスもロックダウンで身動きが取れなくなり、やむなく日本へ帰国せざるを得ませんでした。

日本に戻ってからも、製品開発は難航しました。私たちの生地は非常にデリケートで、米粉の種類を少し変えるだけで全く違う仕上がりになってしまうからです。理想の口当たりや焼いた時の膨らみ、食感などを実現するために、試行錯誤を続けました。そして、この特殊な生地を製造できる工場を見つけるまでに、さらに1年もの歳月がかかりました。2022年に日本の合同会社を設立し、ようやく本格的に活動を開始しました。プレローンチとしてポップアップイベントなどでテスト販売を重ね、品質に納得がいくまで改良を続けました。本格的な販売に舵を切ったのは、ようやく今年の初めからです。イベントなどの販売では徐々に手応えを感じています。

レゴのビジネスモデルをベンチマークに

Q: どのような販路で展開されていますか?

A: 私たち自身が積極的に広告宣伝をするための資金はまだ潤沢ではありません。そのため、今はイベントでの集客・販売をメインにしています。ファミリー向けのイベントや住宅展示場、百貨店の夏休みイベントなどで「目玉」として呼んでいただくことが多いです。

会場でクッキーを焼くと、香ばしい匂いが広がり、それに誘われて自然と人が集まってきます。男の子も女の子も、年齢層も幅広く楽しんでいただけるので、集客ツールとして非常に高い評価をいただいています。実際に、TBSさんの「遊び学びフェスタ」のような大規模なイベントや、百貨店さんの催事にも呼んでいただいています。

イベントで子供たちが作ったクッキー

また、私たちのプロダクトはコラボレーションとの相性が抜群です。自然由来の着色料のみを使用しており、緑色の生地はバイオベンチャーのユーグレナさんとのコラボで実現しました。最近では、バンダイナムコさんとパックマンのコラボパッケージを開発し、クラウドファンディングで販売を9月1日にスタートさせました。
https://camp-fire.jp/projects/873620/
今後も様々なIPと組んで、世界観を広げていきたいと考えています。

私たちは、「レゴのようなビジネスモデル」を目指しています。レゴはシンプルなブロックというメインプロダクトを軸に、映画やゲーム、教育プログラムなど、様々な展開をしています。私たちも、このシンプルなクッキー生地を、企業やブランドのIPとコラボレーションすることで、教育やチームビルディングなど、食以外の様々な体験を提供していきたいと考えています。

(続く)

記事提供元:タビリス