【人インタビュー】宇宙の夢を追う起業家:コスモブルームCEO 福永桃子氏インタビュー(下)

ジョルダンニュース編集部

(上)ではコスモブルームの革新的な技術の全貌、特に宇宙ゴミ対策の「デオービット装置」や「拡がる[1] 構造物」の幅広い応用可能性について福永CEOに伺いました。(下)では、彼女が宇宙ビジネスの世界に飛び込んだ経緯、起業への熱い思い、そしてプライベートな一面に迫ります。

セガから宇宙へ:福永桃子CEOのユニークなキャリアパス

Q: 福永さんご自身のキャリアについてお伺いします。宇宙との出会いや、現在の事業に至るまでの道のりを教えてください?

日本大学理工学部の航空宇宙工学科で学び、修士課程を修了しました。その後、一度は一般企業であるゲーム会社「セガ」に4年間勤務しました。これは、両親からの「新卒という経験は今しかできない」というアドバイスもあり、一度社会に出てみたいという気持ちがあったからです。セガでは、UFOキャッチャーの開発部署にいました(笑)。

cosmobloomの福永桃子CEO(大田区内のオフィスで)

宇宙に興味を持った原体験は、実は子供の頃に遡ります。ものすごく宇宙好きだったわけではないのですが、芝浦工業大学で音響工学を教えていた祖父が、よく科学雑誌『Newton』を買ってくれていました。その雑誌を通じて、宇宙や「時間とは何か」といった哲学的なテーマに強く惹かれるようになったのです。元々は哲学科に進みたかったのですが、高校で理系に進んだため、哲学に近い分野として宇宙物理学、そして将来の選択肢が広そうな航空宇宙工学科を選びました。

日本大学に入学する前から、運命的な出会いがありました。現在の当社の技術顧問である宮崎先生とオープンキャンパスでたまたまお話しする機会があり、先生に「君は面白いからAO入試を受けてみないか」と声をかけていただいたのです。そのまま日本大学理工学部に進学し、日大独自のシステムで1年生の時から研究室に所属し、先輩たちと人工衛星の開発に携わることができました。大学1年生で人工衛星の開発を経験し、2年生で打ち上げを経験するという、非常に貴重な学生時代を過ごしました。

「技術を残す」という使命感:起業への決意と資金調達の舞台裏

Q: 卒業後、一度一般企業に就職されてから起業という道を選ばれたのは、なぜでしょうか?

大学を卒業する前から、宮崎先生とは研究室の将来について深く話し合っていました。この分野は研究者が少なく、[1] 先生が退職された後、この貴重な研究をどう残していくかという課題がありました。この技術はニッチな分野ながらも非常に高く評価されており、私自身も学術賞をいただくなど、その重要性を強く認識していました。

日本が世界に誇れる技術が、後継者不足や資金の問題で風化してしまうのは非常に惜しいことです。私は自分自身が「優秀な研究者」として先生の後を継ぐ自信はありませんでしたが、「チームで、組織としてこの技術を残し、継続させること」であれば、より大きな価値を生み出せると考えました。 その一つの形が、会社を設立することだったのです。

創業当初は、資金調達の知識も全くなく、会社設立の方法もGoogleで検索するような状態でした。丸1年間は自己資金(貯金200万円)と、共同創業メンバーの協力で食いつなぎました。業種の特性上、日本政策金融公庫の創業融資も難しい状況でしたが、最終的にはベンチャーキャピタルからの出資と、「アカデミスト」でのクラウドファンディングで200万円を達成したことによって、なんとか生き延びることができました。特にクラウドファンディングでは、当初は宣伝に苦戦しましたが、前職のセガの先輩や同僚が応援してくださり、最終日に達成できたことが大きな喜びであり、決意を新たにするきっかけとなりました。

ものづくりの聖地・大田区を拠点に:町工場との密接な連携

Q: 会社の拠点を東京都大田区にされたのは、何か理由があるのでしょうか?

はい、大田区には特別な思い入れがあります。私の曽祖父が大田区で町工場を経営していたという話を聞いて育ち、子供の頃から「蒲田は町工場の町」というイメージが強く頭に残っていました。さらに、セガで働いていた際も、大田区の町工場の方々と協業し、実際に図面を引いてものづくりを進める中で、その技術力と信頼性を肌で感じていました。

常に議論を交わす、頼もしいチームメンバー

私たちは、この「広がる構造物」技術を使って様々なプロダクトを展開していくことを最初から決めていたため、自社で製造設備を持つのではなく、ものづくりのプロである地域の町工場と密接に連携する方針を採っています。そのため、ものづくりの中心地である大田区に拠点を置くことを最初から決めていました。大田区でそのような施設を探していたところ、「六郷BASE」が目に留まり、その費用面での優しさも決め手となり、入居を決めました。六郷BASEは大田区が支援している施設なので、地域との繋がりも深いです。

「諦めることを諦める」:福永氏の座右の銘と技術者としての正義

Q: 福永さんの「座右の銘」や、日頃から大切にされていることはありますか?

私の座右の銘は、ホームページにも書いているのですが、「諦めることを諦める」です。これはポジティブな意味の言葉です。何か課題にぶつかった時、「ここまでしかできないかも」とか「妥協するしかない」と考えてしまうことがありますよね。でも、自分一人では無理でも、周りの力を借りたり、チームで知恵を出し合ったりすれば、乗り越えられることがたくさんあると信じています。人間は楽な方に流れがちですが、困難から逃げずに、一度「諦めることを諦めてみよう」と思って、日々仕事に取り組んでいます。

もう一つ、これは共同創業者の宮崎先生からずっと言われていることですが、「技術で嘘をつかない」ということをチームの「正義」として掲げています。私たちのようなエンジニア集団は、時に資金調達などで「できる」と大きく見せることが有利になる場面もあるかもしれません。しかし、研究者やエンジニアの目線から見て、100%言い切れないことは正直に伝えることを徹底しています。これは、技術のプロフェッショナルとしての誇りであり、信頼を築く上で最も大切なことだと考えています。

宇宙が「希望」となる世界へ:コスモブルームが目指すビジョン

Q: この事業を通じて、どのような世界を創っていきたいとお考えですか?

最終的には、「宇宙で大きな構造物が必要になったら、コスモブルームだよね」と、皆さんに言っていただけるような存在になりたいと考えています。私たちは研究者でありエンジニアですが、ただ技術を追求するだけでなく、それが社会にどう貢献できるかを常に意識しています。

私たちの技術が、宇宙開発におけるコストを大幅に削減し、これまで不可能だったサービスやインフラを、より安価に、そして多くの人々に届けることを目指しています。 例えば、宇宙太陽光発電は莫大な電力供給の可能性を秘めていますが、実現には超大型の構造物が必要です。また、私たちが手掛ける通信アンテナも、安価な衛星通信サービスを国内で完結させる可能性を秘めています。

宇宙太陽光発電のイメージ図

研究者の自己満足で終わるのではなく、この技術が本当に皆さんの生活を豊かにし、多くの人が未来に「希望」を持てるような世界にしたいと心から願っています。

未来の起業家たちへ:自分自身の「正解」を見つける大切さ

Q: これから起業を目指す学生、特に理工系の学生に何かメッセージをお願いします。

私自身もまだまだ未熟ですが、学生の皆さんに伝えたいのは、「自分にとっての『正解』や『心情的な意味での正解』を、若いうちに知っておくこと」の重要性です。大学で何を勉強すべきか、どんな経験をすべきかといった問いをよく受けますが、人生には様々な選択肢があり、何が正解かは人それぞれ違います。

私の場合、「これをやりたい!」という明確な目標があったわけではなく、「これはやりたくない」という選択肢を消去していった結果、今の道にたどり着きました。やりたいことが明確な人もいれば、そうでない人もいる。だからこそ、自分自身の価値観を深く理解し、何が自分にとって心地よく、何がそうでないかを若いうちから知っておくことが、将来どんな道に進む上でも、後悔のない選択をするために非常に大切だと思います。

SFとサッカーへの情熱:福永桃子CEOの素顔

Q: 最後に、お仕事以外での福永さんご自身についてもお聞かせください。趣味や好きなもの、影響を受けたものなどありますか。

趣味はいくつかあります。あまり公言してこなかったのですが、実はサッカー観戦が大好きです。実家が埼玉スタジアムから2駅の場所にあったこともあり、子供の頃から家族で、浦和レッズのシーズンチケットを持っていました。今も都合がつけば、ホームの試合を観に行っています。

あとは、映画鑑賞も好きですね。特にSF作品が好きで、「アイアンマン」シリーズは何度も観ています。アイアンマンを観た後は、自分もヒーローになった気分で1週間くらい過ごせますね(笑)。魔法が使えるファンタジー作品も好きで、ハリー・ポッターを観た後は、しばらく魔法使いになりたいと言っていました。そういえば、私たちの事業も、小さく畳んだものが宇宙でパッと拡がる[1] 様子は、まるで魔法のようかもしれませんね。

実は、当社の「拡がる造物」の形は、「スター・ウォーズ」シリーズに出てくる「TIE(タイ)ファイター」という戦闘機に少し似ています。学生時代から研究室のメンバーと「これ、TIEファイターに似てるよね」と話していました。さすがに戦闘機のように物騒なものではありませんが、昔は夢物語だったSFの世界が、少しずつ現実になっていくことに、一人の人間としてすごくワクワクしています。よく「ガンダムの世界だね」と言っていただくこともあるのですが、実は私、ガンダムは見たことがないんです(笑)。宇宙兄弟も下町ロケットも見ていなくて。宇宙関連のイベントではよくお話のきっかけになるのですが、私たちのチームには、世間がイメージするような「宇宙好き」タイプは意外と少ないかもしれませんね。

(JORUDAN WEEKLY編集部)

※写真やCG画像は、cosmobloom提供。

記事提供元:タビリス