1990年代のワンピースが母から娘へと受け継がれ...X投稿が話題に 販売元が決断した異例の復刻、その思いを聞いた
2025/5/1 10:30 J-CASTニュース

母が1990年代に購入したワンピースを受け継ぎ、現在も使っている。生地は丈夫で、形もきれい。同じような形のものを探している――。2024年8月のX投稿が当時SNSで注目を集めると、25年4月下旬、その販売元が復刻販売するという異例の事態が起こった。
このワンピースは、通販カタログ大手のフェリシモ(神戸市)が発売したもの。同社の担当者は、復刻した理由について「投稿に込められた想いに心を打たれた」と取材に語る。経緯を詳しく聞いた。
1990年代のワンピースを復刻販売
投稿をXで発信したのは、増永菜生さん。イタリア・ミラノ在住の歴史学研究者だ。24年8月中旬、増永さんの母が90年代に購入したフェリシモの2種類のワンピースを写真で紹介し、同じ形のものを製作依頼したいと投稿した。
異例だったのは、このワンピースを再構築したものを復刻するとフェリシモが発表したことだ。増永さんの投稿が届いていたのだ。同社は25年4月23日、「こちらの投稿に心動かされ、お客さまの思い出が詰まった90年代のワンピースをこのたび復刻販売することになりました」とXで報告した。
プレスリリースでは、次のように商品を説明している。
「時代を越えて着継がれる一着に込められたストーリーに共感し、投稿いただいたお客さまとともに、資料や型紙をもとに令和の時代に再構築しました。30年以上の熟練のパタンナーと協力し当時のエレガンスを現代の感性と技術で丁寧に蘇らせたワンピースは、世代を超えて、思い出とともに受け継がれていく"新しいクラシック"として、今の時代に寄り添う一着です」
フェリシモのオンラインショップでは、4月22日から販売。ブルーとグレーの2種類を用意し、9種類のサイズを展開。価格は税込9020円だ。
「これは私たちが実現せねばと思いました」
平成初期のワンピースを母から受け継ぎ、現在も使っている。増永さんのこの投稿を、フェリシモはどんな気持ちで受け止めたのか。担当者は4月28日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように振り返った。
「率直に非常に感動しました。増永さまのお母さまが大切にされていたワンピースを今でも大切に思い、その思いが受け継がれていることに心を打たれました。そして、『同じ形のものが今も手に入ればよいのに』という言葉やSNSでの反響を見て、これは私たちが実現せねばと思いました」
また、当時のワンピースが持つ「エレガンス」「普遍的な美しさ」などの価値は、令和でも多くの人に支持されるのではないかと考えた。さらに、25年5月に創立60周年を迎える同社は、「過去の素晴らしいものを現代に甦らせ、より多くの人々に届けたい」という思いもあったという。
そして、フェリシモは増永さんと連絡を取った。増永さんはミラノに住んでいたため、遠隔で企画を進行した。何度もやり取りを重ね、復刻するワンピースの生地や色のサンプルを写真で確認してもらった。担当者は、「距離は離れていても、想いをひとつにしながらつくりあげた復刻企画です」と語る。
平成初期のワンピースを令和仕立てに再構築したのが今回の商品だ。その際に意識した点については、次のように説明する。
「復刻版で最も意識したのは、当時の美しいシルエットと『きちんと見えるけれど、着心地はやさしい』エレガンスを再現することです。また、現代のライフスタイルに合わせた使いやすさをプランナーがさまざま配慮し、裏地を省き、キャミドレスセットを加えるなど、素材や仕様に調整を加えました。シルエットには妥協を許さず、現代的にアップデートすることを大切にしました」
今回の復刻版で再現した部分と変更した部分は?
しかし、今回の復刻版に対し、「再販じゃなくて別物じゃん」「当時のそのままワンピースの復刻がよかった」という異論も出た。増永さんが紹介したものと復刻版とでは、服の色やボタンの色、ポケットの有無などの違いがあったためだ。なお、担当者によれば、増永さんが紹介した2種類のワンピースは、そもそもデザインも異なるという。
復刻版では、グレーの色を残し、ベージュではなくブルーを販売。つまり、当時のグレーのデザインを復刻したことになる。その理由を「弊社が毎月お客さまとコミュニケーションをしていく中で、通常グレーが好まれる傾向が高いことを考慮しました」と明かす。また、増永さんとも事前に話し合った結果、より利用しやすい色をよみがえらせることになったという。
では、当時との共通点はなにか。
「同じ部分としては、当時のワンピースの特徴でもあった、美しいシルエットとウエストのダーツで仕立てたラインを大切に踏襲しています。切り替えのないクラシカルなデザインが魅力です」
一方、変更を加えた点については次のように説明する。
「変更点としては、当時は裏地つきだった仕様を、現在の猛暑の夏や着用シーンを考慮し、裏地なし+キャミドレスセットの仕様にしています。また、細かなディテールについても現代のライフスタイルの中どのようにしたら快適に着ていただけるだろうとプランナーが試行錯誤し調整を行いました」
当時の同じ素材や部品の入手も難しかったという。しかし、できる限り再現したとしている。また、年々激しさを増す猛暑での着用シーンを考慮して変更を加えたと説明している。
しかし、増永さんが紹介した商品を買いたいという声を受け、担当者は「この復刻に大きな期待を寄せていただいていたことを実感し、そのご期待にも出来る限り寄り添いたいと考えています」とも。ベージュも形にしたいとの思いがあると明かした。
さらに、増永さんが帰国するタイミングで打ち合わせする予定もあるそうだ。担当者は「引き続き、この物語をあたたかく見守っていただけたらうれしいです」と呼びかけた。
こうした声もあるなか、復刻版も想定よりも多く売れているという。「結果として企画時に予定していた受注数の2倍以上ものご注文をいただいている状況です」。
過去の名作を提供する可能性を模索
25年5月に創業60年を迎えるフェリシモ。今後もさまざまな形で過去の名作を提供する可能性を模索しているという。「今後も多くの方に愛される商品をお届けできるよう、努力していきますので、引き続き見守っていただけましたら幸いです」。
担当者は、「(増永さんのように)お母さまとの思い出をフェリシモに託してくださるお客さまが弊社には多くいらっしゃることから、今後もこのようにお客さまとの対話の中から商品作りができればとの想いです」と意気込みを語っている。