観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 地域振興の大きな分野として成長したスポーツの役割り

ジョルダンニュース編集部

 スポーツイベントによる経済的・社会的な効果は大きい。特に、参加者が移動と宿泊を伴うツーリズム型のスポーツイベントは、地域にお金を落とす経済効果に期待が高い。しかし、イベントにつきものの「一過性」や利益が一部しか潤さず、運営のボランティアを担ったり、、交通渋滞など生活に支障を生じたりする地域に還元されていないことなどが常に指摘される。

地域振興のため、サイクリング道の整備を図る自治体も多い。愛媛県のしまなみ海道で。©一般社団法人 愛媛県観光物産協会

経済的視点に加え社会的視点も必要


 これに対しては、長らくスポーツによるまちづくり、を提唱してきた一般財団法人日本スポーツコミッション(理事長:木田悟)の活動がもっと知られるべきだろう。
 木田悟理事長は、2009年の団体の設立趣旨について、「(前略)地域の活性化には、経済的視点が重要であることは重々承知していますが、まちづくりや地域づくりには、人材やアイデンティティ、コミュニティ、交流、情報発信などの経済的視点以外の考え方、すなわち社会的視点が必要と考えております。したがいまして、私ども日本スポーツコミッションでは、スポーツの有する経済的効果のみならず、社会的効果の両面からスポーツを捉え、その活用によるまちづくり、地域づくり、ひいては地域の活性化、さらには活動を行う組織の形成・支援などを図っていこうとするものであります。(以下略)」(注1)と宣言している。
 木田理事長らは、東京大学出版会から、「スポーツで地域をつくる」(2007年)、「スポーツで地域を拓く」(2013年)を世に問うてきたが、今月「スポーツで地域を動かす」を出版する(注2)。この最新刊では、人びとが幸福で楽しく生活し、それぞれの地域が活性化していくために必要なものとは何か、2011年のスポーツ基本法の制定や、今後のスポーツのあり方を見据えた国のスポーツ行政の施策や目標を定める「スポーツ基本計画」の策定など、政策的にも重要度が増すスポーツが持つ力を捉え、それを地域づくり・まちづくりにどう活用し、いかに具体的な実践につなげていくか、そのノウハウを提供している。

スポーツ庁も「スポーツによるまちづくり」を推進 ©寄贈:日本生命保険相互会社、スズキ株式会社、編集協力:大日本印刷株式会社、企画・監修:スポーツ庁

ツーリズムからひろく「まちづくりへ」


「スポーツ基本計画」は5か年の計画であり、本年(2022年)4月から第3期「スポーツ基本計画」がスタートしている。この第3期「スポーツ基本計画」には、日本スポーツコミッションの活動の成果も反映され、「スポーツによるまちづくり」ということが明記されるに至った。基本計画を解説するスポーツ庁のホームぺージには、『「ツーリズム」からひろく「まちづくり」へ』(注3)と大書されている。
 この「スポーツによるまちづくり」を実践している先進的な団体として、上記の日本スポーツコミッションが主宰する研究会で取り上げられる常連がNPO法人出雲スポーツ振興21(島根県出雲市)である。上記の「スポーツで地域を動かす」にも専務理事の白枝淳一氏が寄稿してその活動内容が詳しく紹介されている。
 NPO法人出雲スポーツ振興21は、出雲ドームなど公共施設の管理を事業の柱とする第三セクターとして出発したが、その後、自主事業を充実させ、出雲地域におけるスポーツ関連のネットワークの中核に成長し活動している(注4)。
 スポーツイベントでは、「出雲全日本大学選抜駅伝競走」などの会場設営や物品の手配など開催支援を行っており、この事業を通して得られた利益については、新たな地域活性化に資する事業に再投資されている。そのほか、出雲市のスポーツ統括団体の事務局を担い、総合型地域スポーツクラブ設立・育成にも取り組んでいる。緑化推進事業(芝生化)は特に印象的な自主事業で、子どもが安心して活発に活動できる校庭の芝生化を進めている。管理は地元の組織であり、地域で子どもを育てるきっかけとなっていると評価されている。
 地域振興において大きな分野として成長したスポーツは、コロナ禍の経験を経て、スポーツツーリズムからより広い「まちづくり」へ展開しており、その動向には目が離せない。
(本稿は個人的見解である)

(注1)https://sportscommission.or.jp/aboutus/
(注2)http://www.utp.or.jp/book/b498543.html
(注3)スポーツ庁ホームぺージ:スポーツによる「まちづくり」を応援します!
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop09/list/1372105.htm
(注4)http://sports21.jp/index.php

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス