観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 日本の観光政策に欠けている重要ポイント
2023/5/1 11:02 ジョルダンニュース編集部
日本政府観光局は4月19日に、3月の訪日外国人客数(推計値)を発表している(注1)。それによると、「3月の訪日外客数は、桜シーズンの訪日需要の高まりやクルーズ船の運航再開等の影響により、2019年同月比65.8%の181万7,500人となった。米国をはじめとした欧米豪中東地域からの訪日外客数の大幅な増加が全体を押し上げ、当月は昨年10月の個人旅行再開以降で最高を記録した」と。
また、「新たな観光立国推進基本計画(令和5年3月31日閣議決定)を踏まえ、観光立国の復活に向けて、観光地・ 観光産業について持続可能な形で『稼ぐ力』を高めるとともに、地方誘客や消費拡大を促進しつつ、インバウンドのV字回復を図る必要がある。国内関係者が連携し、海外旅行会社等へのセールス強化や情報発信を通じた高付加価値旅行、アドベンチャートラベルの推進、MICE誘致等の取組を強化していくことが求められる」と指摘している。なお、MICEとはMeeting(会議・研修)、Incentive(研修旅行)、Convention(国際会議・学術会議)、Exhibition(展示会)の4つの用語の頭文字を組み合わせた用語である。
筆者は沖縄ツーリスト(注2)の会長東良和氏から昨年末、今後の日本の観光政策について、たいへん深いご教示を受けた。上記の日本政府観光局のコメントに欠落していて、東氏が指摘している大きな視点について、今回は自分なりの理解を紹介したい。
東氏からご教示いただいた観光の4つの領域が(別添の図)である。コロナ以前に2020年に予想された姿が整理されている。Ⅰは、日本人が海外旅行をする領域、Ⅱは日本人が国内旅行をする領域、Ⅲはいわゆるインバウンドで外国人客が日本観光を行う領域、そしてⅣが世界全体の観光の領域である。 当然、世界の観光の経済規模は段違いに大きい。しかし、この領域での日本の観光産業はほとんど存在しない。ここを狙わないことには、日本の観光産業に飛躍はなく、自動車産業のように国の基幹産業の扱いを受けることはないというのだ。
日本には世界的なホテルチェーンが日本のインバウンド需要を取り込むべく、新しいホテルを続々進出させている。ザ・リッツ・カールトン、ウエスティン、シェラトンなどのブランドを持つマリオット・インターナショナル(米)、IHGホテルズ&リゾーツ(英)、ヒルトン、コンラッド、ダブルツリーなどのブランドを持つヒルトン(米)、グランドハイアット、ハイアット・ホテルズ(米)、フォーシーズンズホテルズアンドリゾーツ(カナダ)、マンダリンオリエンタルホテルグループ(香港)、ラッフルズ、メルキュール、ノボテルなどのブランドを持つアコーホテルズ(仏)である。外資系は、所有・経営・運営を分離して、ホテル会社はサービスに注力している。日本では未だに発展途上の世界標準の経営手法である。しかし、日本は世界的なホテルチェーンをもたないのだ。
1971年に出版された「ヒルトン・ホテル」(鳥羽欽一郎著)は、外資の進出が自由化された当時、東洋経済新報社が、関心の高まる外国の巨大企業について、その発展史をシリーズで出版したものの1冊である。著者の鳥羽氏は早稲田大学商学部教授(経営史・経済史)であったが、アメリカのホテル産業の世界的進出を、世界を次第に均質化させていく工業化社会の1つの側面、いわばグローバリゼーションの現れであると既に喝破した。文化のるつぼである「アメリカ的生活様式」が世界的普及したのだという。
残念ながら、その後、日本発の世界的なホテルチェーンは育たなかった。しかし、今後については、インバウンドの取り込みに満足するのではなく、「クールジャパン」を特徴とするようなホテルブランドが日本から世界に進出し、巨大な世界の観光需要に挑むことを視野にいれた野心的な政策を練って打ち出していくべきだろう。それは私が深い感銘を受けた、東会長の視野にある日本の観光業の未来でもある。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.jnto.go.jp/news/press/20230419_monthly.html
(注2)https://otspremium.com/
また、「新たな観光立国推進基本計画(令和5年3月31日閣議決定)を踏まえ、観光立国の復活に向けて、観光地・ 観光産業について持続可能な形で『稼ぐ力』を高めるとともに、地方誘客や消費拡大を促進しつつ、インバウンドのV字回復を図る必要がある。国内関係者が連携し、海外旅行会社等へのセールス強化や情報発信を通じた高付加価値旅行、アドベンチャートラベルの推進、MICE誘致等の取組を強化していくことが求められる」と指摘している。なお、MICEとはMeeting(会議・研修)、Incentive(研修旅行)、Convention(国際会議・学術会議)、Exhibition(展示会)の4つの用語の頭文字を組み合わせた用語である。
世界の観光産業での存在感が示せぬ日本
筆者は沖縄ツーリスト(注2)の会長東良和氏から昨年末、今後の日本の観光政策について、たいへん深いご教示を受けた。上記の日本政府観光局のコメントに欠落していて、東氏が指摘している大きな視点について、今回は自分なりの理解を紹介したい。
東氏からご教示いただいた観光の4つの領域が(別添の図)である。コロナ以前に2020年に予想された姿が整理されている。Ⅰは、日本人が海外旅行をする領域、Ⅱは日本人が国内旅行をする領域、Ⅲはいわゆるインバウンドで外国人客が日本観光を行う領域、そしてⅣが世界全体の観光の領域である。 当然、世界の観光の経済規模は段違いに大きい。しかし、この領域での日本の観光産業はほとんど存在しない。ここを狙わないことには、日本の観光産業に飛躍はなく、自動車産業のように国の基幹産業の扱いを受けることはないというのだ。
世界的なホテルチェーンが育っていない
日本には世界的なホテルチェーンが日本のインバウンド需要を取り込むべく、新しいホテルを続々進出させている。ザ・リッツ・カールトン、ウエスティン、シェラトンなどのブランドを持つマリオット・インターナショナル(米)、IHGホテルズ&リゾーツ(英)、ヒルトン、コンラッド、ダブルツリーなどのブランドを持つヒルトン(米)、グランドハイアット、ハイアット・ホテルズ(米)、フォーシーズンズホテルズアンドリゾーツ(カナダ)、マンダリンオリエンタルホテルグループ(香港)、ラッフルズ、メルキュール、ノボテルなどのブランドを持つアコーホテルズ(仏)である。外資系は、所有・経営・運営を分離して、ホテル会社はサービスに注力している。日本では未だに発展途上の世界標準の経営手法である。しかし、日本は世界的なホテルチェーンをもたないのだ。
1971年に出版された「ヒルトン・ホテル」(鳥羽欽一郎著)は、外資の進出が自由化された当時、東洋経済新報社が、関心の高まる外国の巨大企業について、その発展史をシリーズで出版したものの1冊である。著者の鳥羽氏は早稲田大学商学部教授(経営史・経済史)であったが、アメリカのホテル産業の世界的進出を、世界を次第に均質化させていく工業化社会の1つの側面、いわばグローバリゼーションの現れであると既に喝破した。文化のるつぼである「アメリカ的生活様式」が世界的普及したのだという。
残念ながら、その後、日本発の世界的なホテルチェーンは育たなかった。しかし、今後については、インバウンドの取り込みに満足するのではなく、「クールジャパン」を特徴とするようなホテルブランドが日本から世界に進出し、巨大な世界の観光需要に挑むことを視野にいれた野心的な政策を練って打ち出していくべきだろう。それは私が深い感銘を受けた、東会長の視野にある日本の観光業の未来でもある。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.jnto.go.jp/news/press/20230419_monthly.html
(注2)https://otspremium.com/
記事提供元:タビリス