ブロックチェーンと都市コミューン 「希望のコミューン 新・都市の論理」より(1)

ジョルダンニュース編集部


希望のコミューン 新・都市の論理

本記事は9月25日に出版された「希望のコミューン 新・都市の論理(著:布野修司, 森民夫, 佐藤俊和)」の内容を抜粋したものです。

サトシ・ナカモトSatoshiNakamotoという、いかにも日本名と思われる正体不明の人物(あるいは集団)がビットコインと呼ぶ仮想通貨virtualmoney(暗号通貨cryptocurrency、デジタル通貨)のソフトウエア(コンセンサス・アルゴリズム)をネット上に公表し、運用を開始したのは2009年である。

ビットコインという仮想通貨が実際に運用開始され始めたことで、専ら、資産運用のための新しい技術としてのブロックチェーンが注目されるが、ここで見極めたいのは、そのシステムあるいはモデルが都市コミューンの運営とそのネットワークに応用可能かということである。

ICT革命│Web3の世界

21世紀に入って、巨大なプラットフォーマーとなるビッグテック企業が出現する。ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが検索エンジンによる情報収集を目的とするGoogleLLC(LimitedLiabilityCompany)を設立したのは1998年、株式公開したのが2004年である。Gmail、GoogleChrome、GoogleMap、GoogleEarthなどは今や世界中に行きわたっている。

Web1・0の時代は、ウェブサイト(ホームページ)が主であり、ユーザーは情報(コンテンツ)の消費者に過ぎなかった。1991年から2004年までの期間はWeb1・0の時代である。それに対して、Web2・0は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の時代、「プラットフォーム・ウェブ」の時代で、ブログblog、ウィキwikiなど誰でも情報発信ができる時代である。

しかし、結果として出現したのは、世界中で発信される莫大な量の情報を特定のビッグテックが独占的に所有し、利用する時代である。グーグルを例にすれば、自分がいつ何を調べ、どこにいたのか、デフォルトはすべて記録するモードになっている。設定を変えない限り、プライバ第3章 都市コミューンの基本原理105 104問題設定 keynote 都市コミューンの論理シーはほぼない。その情報をもとに、グーグルは巨大な広告収入を得る。広告の表示順は支払い総額と一回表示の単価をもとに入札で決める仕組みになっており、最も高額な広告収入を獲得し続けることができるのである。

このあまりにも巨大化したビッグテックとその情報独占化に対して、立ち向かおうとする新たな動きがWeb3である。Web3とはいかなるものか? Web3の世界は果たして世界システムとなりうるのか?

仮想通貨

Web3という用語は、ブロックチェーンのプラットフォームイーサリアムEthereumの共同設立者であるギャビン・ウッドの造語というが、「ブロックチェーンに基づく分散型オンライン・エコシステム」をそう呼んだ(2014年)。ブロックチェーンという技術を基盤として、仮想通貨、NFT(非代替性トークン NonFungibleToken)によって運営される、中央集権ではなく分散自律組織DAOのネットワークの形成が可能という。資産運用に関しては、ビットコイン以降、イーサリアム(内部通貨イーサEther 2014〜)、ポルカドットPolkadot(内部通貨Dot 2020〜)…などのコミュニティが既に運用されている。

国家の信用をベースに発行される法定通貨ではなく、その信用を全く別の仕組みで担保するブロックチェーン技術は、国民国家と中央銀行による金融システムと異なるネットワークを形成する可能性を示している。エルサルバドルと中央アフリカは法定通貨としてビットコインを使用している。

ビットコインの運用開始後、1年ほどして、フロリダ州でプログラマーがピザ2枚を1万ビットコインで購入する。これが、ビットコインで商取引が成立した最初の例である。仮想通貨と法定通貨との交換比率は、仮想通貨取引所と呼ばれるオンラインのプラットフォームで、基本的には需要と供給のバランスによって決定される。24時間取引が可能であり、規制は少ない(未整備である)。交換比率は、仮想通貨取引所によって異なる。従って、変動は、通常の金融市場や外国為替市場より早く、大きい。今のところ規模は小さく、少数の有力メンバーによる発言や投資行動によって左右されるなど不安定である。

ブロックチェーン

ブロックチェーンは以下のような特性をもつとされる。

分散性:ブロックチェーンは、参加者(ノード)間でデータを共有する分散型ネットワークである。中央集権的な機関やサーバーがなく、複数のノードが相互にデータを確認・更新する。

ブロック:ブロックは、ブロックチェーン上でデータを保存する単位である。複数のトランザクション(取引データ)を含み、一つ前のブロックへのリンク(ハッシュ)を持つ。

ハッシュ:ブロックは、その中に含まれるデータの一意の識別子であるハッシュを持っている。ブロックの内容が変更されると、ハッシュも変化するため、改竄を防ぐのに役立つ。

マイニング:ブロックチェーンは、新しいブロックを追加する際に競争が行われるプロセスである。これをマイニング(採掘)という。マイナー(マイニングをする人)は数学的な問題を解いて新しいブロックを作成し、ネットワークにブロックを追加する権利を得る。

トランザクション:ブロックチェーンは、透明性と不変性を持つ。一度ブロックに記録されたトランザクション(一定の情報処理単位)は改竄できず、全参加者が同じデータを共有する。

プログラミングの知識がないと、俄かに理解しがたいが、ブロックチェーンは、既に、金融業界や供給チェーン管理、不動産登記、医療、投票システムなどさまざまな分野で応用されている。従来の企業や組織は、中央の管理者や組織の管理部門によって運営されるが、DAOでは、ブロックチェーン技術によってその運営がプロトコルとして定義され、コードによって制御されることが特徴で、参加者は自動的にプロトコルに従って意思決定を行い、トランザクションを承認したり、新しいルールを提案したりすることができるのだという。また、DAOは、中央集権的な管理体制に頼らず、より民主的かつ透明性の高い組織を実現することを目指すという。

一般的な組織形態と組織運営について、分散自律組織を支える技術がブロックチェーンであるとすれば、会社組織のみならず、さまざまなコミュニティの形成に応用可能である。そして、都市コミューンの運営にも導入可能であろう。


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記事提供元:タビリス