食の未来を創造するフードテック、「録食」技術や巨大植物工場船 八重洲には国際拠点も ITイベントレポート:TIDE&WAVE
2024/11/12 15:32 ジョルダンニュース編集部
AIやビッグデータを使ったアルゴリズムが一流シェフの味をも再現するという革命
フードテックが食の分野に革新をもたらしている。人工知能(AI)やビッグデータ、ロボティクスなどの最新技術を取り入れ、食品の生産から流通、調理までのプロセスをイノベーションし、食品ロスの削減や食の安全性向上、新たな食体験の創出を目指している。スタートアップと大企業がこぞって参入し、世界的なトレンドになってきた。
日本最大級のフードテックイベント「SKS JAPAN 2024」(UnlocX、The Spoon共催)が10月に開催された。日本橋室町にある三井不動産のホールで3日間のカンファレンスと展示を実施した。会場では大企業やスタートアップが最新技術や新サービスを発表した。
サントリーホールディングスは、社内から生まれた新規事業と出資するスタートアップの事業を展示した。新規事業では、サプリメントをミスト方式で噴霧して摂取する「IN MIST(インミスト)」と、コーヒー豆をまるごと利用した食品を提供する「CAFEXLATE(カフェレート)が出展した。いずれも、発案した社員新規事業支援を手掛けるゼロワンブースターに出向して、事業に取り組んでいる。
出資先のスタートアップでは、エシカル・スピリッツ(東京都台東区)とRem3dy Health (レメディ・ヘルス、英国)、AIアバターのGatebox(東京都千代田区)が出展した。エシカル・スピリッツは、日本酒造りの過程で廃棄されてきた酒粕や賞味期限が近づいたビールで、新時代のクラフトジンやウィスキーを生産する。Rem3dy Health (レメディ・ヘルス、英国)は、3Dプリンターでユーザーひとりひとりの健康ニーズに合わせてカスタマイズ可能なサプリメントのグミを製造する。Gateboxは、サントリーブースの展示内容を生成AIで解説する役割を担った。
三菱UFJ銀行は、2050年の未来に、食料自給率を高めるための巨大な船の構想を披露した。船長5キロメートル、船幅2キロメートルで、大規模な植物工場を設置する。1隻で日本の食料自給率を5%引き上げることができるという。構想では8隻を建造するという。
ソニーグループは、新規事業の「録食」を展示した。調理過程をデジタル化し、全く同じ味を再現できる新技術だ。
食材の温度変化や水分蒸発量などを取得できるセンサーを搭載した特製のIH調理器を使用する。有名シェフの調理工程を記録し、独自のアルゴリズムで解析することで、火加減や調理時間を自動でコントロールするナビゲーションシステムを構築する。このナビゲーションに従って食材を投入するだけで、高度な調理技術がなくても、一流シェフの味を再現できる。
音楽を録音・再生する技術でエンターテイメント業界に貢献してきたように、食の分野でも同様の革新を起こす意気込みだ。
料理と科学の関係をあらためて、学び直す試みも始まる。東京建物は11月7日、スペインの美食科学アカデミア「Basque Culinary Center(BCC、バスク・カリナリー・センター)」と共同で、BCCの次世代教育・事業共創プラットフォーム「Gastronomy Open Ecosystem(GOe、ガストロノミー・オープン・エコシステム)」初の国際拠点「Gastronomy Innovation Campus Tokyo(GIC Tokyo、ガストロノミー・イノベーション・キャンパス・東京)」を、東京駅近く、八重洲地区に開設した。
GIC Tokyoでは、BCCのカリキュラムに加え、国内外の食のエキスパートを招いたプログラムを日本語・英語で提供する。3Dフードプリンターや科学研究機器を設置し、シェフや食関連企業、研究者、スタートアップとの共創によるイノベーション創出を目指す。
三菱総合研究所の試算では2020年時点で24兆円だったフードテックの世界市場規模は、2050年にはその12倍の約280兆円まで成長する可能性がある。国内外のスタートアップや大企業が次々と参入している。絵に描いた餅に終わらせず、実現するためには、既存の食品業界との競争激化、消費者への認知拡大、そして安全性の担保など、克服すべき課題は山積している。フードテック企業が、これらの課題に正面から向き合い、技術革新と社会実装を力強く進める必要があるでしょう。
(今川涼、佐藤曜子)