「株価5万円突破」なのに景気の良さを感じない 株高を引っ張るのは政府がお金を注ぎ込む一部産業、大企業

J-CASTニュース

   2025年10月27日の東京株式市場で日経平均株価が5万円を突破、10月31日には一時5万2000円台に達するなど、歴史的な高値を記録した。

   「いよいよ日本経済が復活した」との声が広がる一方で、家計の実感は冷え込んだままだ。

   景気はいいはず......なのに、市民の生活は楽になっていないからである。

AI・半導体を「国家戦略産業」と位置づけ

   株高の背景には、高市早苗新首相への期待感やアメリカの株高に加え、AI(人工知能)と半導体産業、そしてそれを支える大企業への需要が高まっていることが挙げられる。

   近年、日本政府はAIと半導体を「国家戦略産業」と位置づけ、集中的な支援を行っている。

   国は半導体・AI分野を国の安全保障と経済基盤の中核ととらえている。

   2024年11月12日、石破茂前首相は経済産業省による「AI・半導体産業基盤強化フレーム」の枠組みを発表。2030年度までに10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円を超える官民投資を促し、約160兆円の経済波及効果を実現する方針を掲げた。

   具体的な支援策としては、半導体メーカーのラピダスが北海道千歳市で建設中の最先端半導体工場に対して、政府が1兆円規模の補助金を支出。熊本県に進出した台湾の半導体メーカーTSMCの日本工場にも、約4760億円が投じられた。

   さらに、高市首相が安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を継承する意向を示していることも後押ししている。すなわち、円安基調と金融緩和志向が続く見通しとなるのだ。

   円安水準は、輸出企業の利益を大きく押し上げた。半導体装置メーカーやAI関連の輸出企業は軒並み好決算を記録し、株式市場の時価総額上位を独占している。

   こうして政策・為替・金融が同じ方向に働いた結果、一部業種だけが急成長しているということになる。

   つまり、半導体・AI関連企業は国に選ばれた成長産業なのである。

投資が落ち込み硬直化する業界も

   公益財団法人ニッポンドットコム(Nippon.com)によれば、2021〜2023年で政府が半導体産業向けに投入した資金は、「GDP比でも米/独より大きな割合」になっているという。

   他の産業の現状はどうか。

   日本貿易振興機構(JETRO)の「Invest Japan Report 2024」によれば、2023年の対内直接投資(FDI=海外から日本国内に向かう投資)の流入額が全体で約3.0兆円と前年から33%減少している。

   そして、サービス・運輸・通信などの非製造分野では顕著な落ち込みを見せ、前年比から50.4%という深刻な減少となっている。

   一方で、財務省が2025年9月1日に発表した「法人企業統計調査」によれば、企業の内部留保は637兆円に達し、13年連続で過去最高を更新した。

   つまり、資本が半導体・AIに集中している間に、他産業の新規投資環境は硬直化していく傾向が見られるのだ。

実感なき好景気はいつまで続くのか

   そして、好景気が実感できない最大の理由が、従業員の賃金がアップしないことだ。

   厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2025年6月)によると、実質賃金は前年同月比−0.8%と、6か月連続でマイナスを示している。

   内部留保から見て、企業は一定の利益を上げていても、そのお金が一般家計には回っていない。

   もしAI活用が雇用調整や固定費削減の手段にとどまるなら、本末転倒である。

   日経平均5万円台の好況は、生活者には少しも実感できていない。実感なき好景気の行方が、いま問われている。

記事提供元:タビリス