年収50万円アップした20代エンジニアの「納得の転職」の秘訣 転職は「やりたいこと」と出会う旅

J-CASTニュース

「動いてみたら、自分のやりたいと思える仕事に巡り合えた」

   そう語るのは、20代後半で初めての転職に挑んだエンジニアのAさん。Aさんが、どのようにして「納得の転職」を実現できたのか。その過程には、自己理解を深め、自身の情熱を言語化していく重要なプロセスがありました。

   リクルートエージェントでキャリアアドバイザーをつとめる大和 航希が解説します。

転職活動を始める理由は、年収アップだけでなく

「正直キャリアに自信はないけれど、自分は転職できるのだろうか」
「自分のこれまでの経験に自信が持てないまま転職活動を進めていいのだろうか」

   Aさんのような相談はよくあります。特にエンジニアは、専門性が高いがゆえに、自身のスキルや経験が他社で通用するのか、自分の市場価値がどれくらいあるのか見えにくい、と感じるケースが少なくありません。しかし、Aさんのケースは、そんな不安を抱える方々にこそ知ってほしい事例です。

   Aさんが転職を考え始めたのは、社会人3年半を迎えたころでした。彼が目指していたのは、年収アップというよりも技術者としての知識と経験の幅を広げることでした。

   前職の部品メーカーでは生産技術職として、社内の限られた設備や工程の中でモノづくりに関わっていました。しかし、Aさんには「もっと技術を極め、モノづくりを支える人々に技術を伝えたい、指導者として生産現場に貢献したい」という強い思いがありました。

「理想は、工場のサブスクをつくることです」

   この壮大な目標を達成するために、彼には「もっと多くの生産現場を見て、もっと多様な技術に触れたい」という明確な動機があったのです。

   しかし、前職ではその目標には限界があると感じていました。そこで彼は、自身の熱意と目標を実現できる環境を求めて、再び転職活動を開始することにしました。

   というのは、新卒入社して1年半ほど経った頃にも一度転職活動をしていた経験があるからです。ただ、その際にはまだ経験が足りずに転職には至らなかったため、今回はやりたい仕事があるか改めて探したいという要望でした。

知らなかった仕事に出会い、可能性が広がる

   転職活動を始めたAさんの目に留まったのは、大手産業用機械メーカーの求人でした。部品メーカーの生産技術として、まさにその会社の機械を導入する側だった彼は、その企業が「生産技術」の業界におけるリーディングカンパニーであることを知っていました。

   当初は別のポジションで応募したのですが、書類選考の段階で企業側から今回のポジションを打診されました。それは、生産技術の知識を活かして、顧客であるメーカーに技術コンサルティングを行うというものでした。

   具体的には、生産現場の課題をヒアリングし、自社の機械でどう解決できるかを提案したり、業務改善のサポートをしたりする仕事です。

   これまでのキャリアとは異なり、多くの生産現場に携わり、多様な製品づくりのプロセスを深く知ることができ、さらに技術的な検証やテストにも関われるという、まさにAさんが求めていた「知識と経験の幅を広げる」ことに直結するものでした。

   この新しい仕事は、日本国内だけでなく、海外の生産現場にも携わることができます。前職では「提案される側」だったのが、「提案する側」になることで、より広い視野でモノづくり全体を俯瞰できるようになります。

   年収も前職の500万円から550万円へと50万円アップ。これは、Aさんが自身のスキルと情熱を信じ、新たな挑戦に踏み出したことの結果です。

言葉にできない思いを「対話」で引き出す

   転職活動中、Aさんはキャリアアドバイザーに「気持ちと気持ちで話ができる・通じ合える」ことを求めていました。

   転職を決めた後、退職交渉でつらい思いをした時も、キャリアアドバイザーに電話で相談。お世話になった上司を前に、なかなか気持ちの整理をつけることができず葛藤を抱えていたAさんに対し、キャリアアドバイザーは「どう気持ちの整理をつけるか、どう伝えるか」を一緒に考え、具体的なアドバイスを提供しました。

   実は、技術職に携わる人の中には、自身の思いをうまく言語化するのが苦手だと感じている方が少なくありません。頭の中には漠然とした理想や、現職への不満があるものの、それを言葉にしようとすると、なかなか難しいと感じられるケースがあります。

   しかし、誰かに話を聞いてもらい、質問を投げかけられることで、自分でも気づいていなかった「声にならない声」が引き出されることがあります。

   Aさんの場合も、初回面談で「工場のサブスク化」という大きな目標を語ったことで、その根底にある「モノづくりをより楽しくしたい」という熱い思いが明確になりました。対話を通じて、自分自身の「やりたいこと」が整理され、それが次のステップに進むための大きな原動力になったのです。なかなか普段整理をできないことでも、対話を通じて言葉にしてみることで、明確になっていくことも多いと思います。

「目標を掲げること」が、人生を楽しくする

   今回の転職は、Aさんにとって「胸の内にあるやりたいことが原動力」となったポジティブな挑戦でした。

   しかし、それでも転職活動の目標を見失いがちになるものです。彼は、目標を忘れないように「見えるところに張り出す」「アラートを設定する」などの工夫をしていました。

「やりたいことができているから、仕事が楽しい」

   Aさんはそう言います。そして、今後、自分が得た知識や経験を活かして「仕事は楽しくない」と感じている生産現場の人々に、モノづくりの楽しさを伝えていきたいと語っていました。

   転職活動は、必ずしも転職をゴールにする必要はありません。

   「転職活動」と「転職」は別物です。転職活動を通じて自分の市場価値を知り、キャリアの可能性を広げること。その結果、今の会社にとどまるという選択肢もあります。大切なのは、対話でも、市場価値を知ることでも、まずは一歩「行動」してみることだと思います。

   Aさんのように、最初から明確な目標を持って転職活動に臨む人はそこまで多くないかもしれません。しかし、だからこそ「少しでも気になるなら、始めてみること」が重要。一歩踏み出すことで、少しずつ自分のことが分かり、それが自信となり、納得のいくキャリア選択につながっていくのです。



【プロフィール】
キャリアアドバイザー 大和航希/理系大学卒業後、最初は機械エンジニアへ。その後、生命保険株式会社にて営業を経験し、リクルートへ入社。キャリアアドバイザーとして、主にエンジニア領域の求職者を支援。転職の失敗も成功も経験しているからこそ、求職者にとって後悔のない選択をしていただくことにこだわりを持つ。

記事提供元:タビリス