薬よりお米...ドラッグストア、いまや「食品スーパー」に変貌 物価高で存在感、売上支える食品・雑貨
2025/12/6 19:00 J-CASTニュース

2025年12月1日、ウエルシアホールディングス(HD)とツルハホールディングスが経営統合し、売上高2兆円を超える巨大トップ企業が誕生するなど大きな転換期を迎えつつあるドラッグストア業界――。
そのドラッグストアが今、「変身」している。主に医薬品や化粧品を買いに行く場所というイメージは過去のものとなり、食品や日用品を買い求める消費者が増えているのだ。
業界全体の販売額は年間ベースで約8.5兆円にまで伸び、そのうち食品カテゴリーが約3割を占めるようになった。物価高騰で節約志向が強まる中、「近くて便利」なドラッグストアが消費者の買い物先として存在感を増している。
コンビニに迫る10兆円市場、食品が成長のエンジン
経済産業省「2024年上期⼩売業販売を振り返る」によれば、24年上期のドラッグストア業界の商業販売額は前年同期比7.9%増の4兆3045億円であり、年間ベースで8.5兆円超となる。これは百貨店の商業販売額(24年上期:3兆909億円)を上回っており、ドラッグストア業界の存在感が一段と高まっていることがうかがえる。
興味深いのは、その成長を牽引しているのが食品だという点だ。同レポートによれば、ドラッグストアにおける米や調味料、冷凍食品といった日常の食卓を支える商品群が売上の約3割を占めるまでになった。食品類の販売額は前年同期比10.9%の伸びとなっており、全カテゴリーの中で最も高い伸び率となっている。
ドラッグストアの店頭を見ると、日配品や冷凍食品の品揃えを充実させる店舗が目立つ。一部では生鮮食品も取り扱っており、スーパーマーケットとの競合が本格化。業態間の境界線が曖昧になりつつある。
物価高で節約志向、ドラッグストアに集まる消費者
なぜ、ドラッグストアで食品が売れるのか。その背景には、物価高騰に苦しむ消費者の節約志向の高まりがある。デロイトトーマツ グループが7月に発表した2025年度「国内消費者意識・購買行動調査」によれば、食料品の支出が増えたと答えた人のうち67.4%が、その理由として「物価高」を挙げている。
また、業界のビジネスモデルも背景の1つだと考えられる。ドラッグストア各社は食品を低粗利で販売し、集客の武器としている。業界最大手ウエルシアHDの25年2月期決算資料によれば、食品の粗利率は18.5%であり、医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品(40.8%)や化粧品(33.2%)に比べて大幅に低い。「食品で集客し、医薬品を買わせる」というモデルが、価格に敏感な消費者を引き寄せているとみられる。
加えて利便性の高さも見逃せない。ドラッグストアは住宅街に近く、駐車場を備えている店舗も少なくない。食品だけでなく、洗剤やティッシュ、子どものおむつまで一度に買える。この「ワンストップショッピング」の魅力が、忙しい子育て世代を中心に支持を集めている。
前出・デロイトトーマツ グループの調査によれば、約6割の消費者が食料品については「少しでも価格が高ければ購入しない」と回答。これは、前年の調査より上昇している。こうした節約志向の高まりが、食品の粗利率を抑えたドラッグストアへと消費者を向かわせている可能性がある。
「ついで買い」の連鎖が売上を押し上げる
ドラッグストア各社の戦略は興味深い。食品を「集客の武器」と位置づけ、低価格で販売する。その代わり、店内に入った客に利益率の高い医薬品や化粧品を買ってもらう――。このビジネスモデルが成果を上げているようにみえる。
店舗数は拡大が続き、全国で2万店を超えて、いまやドラッグストアがない地域を探すほうが難しく、「生活インフラ」としての地位を固めつつある。
この変化は小売業界全体に影響を与えている。特に食品スーパーにとっては、主力商品である食品で新たな競合相手が現れたことになる。
コンビニエンスストアも対応を迫られている。価格競争では不利なため、弁当や総菜といった「中食」や、淹れたてコーヒーや店内調理品などの出来立てをアピールする商品で差別化を図る動きが出ている。
消費者にとっては選択肢が増えるのは、歓迎すべき状況だ。一方で小売各社にとっては、業態の垣根を超えた競争が本格化しつつあることを意味する。スーパーは品揃えと鮮度で、コンビニは利便性で、それぞれの強みを再定義する時期に来ている。
物価高という環境変化の中で、ドラッグストアは新たなポジションを築きつつある。









