アメ車の輸入このままでは増えない 日本向けに車種絞り込み仕様改める...メーカーがやるべきこと

J-CASTニュース

   日米の関税交渉でトランプ米大統領は「日本が輸入車の安全基準の障壁を撤廃すれば、アメリカ車の輸出が増える」と主張した。果たしてそれで本当にアメ車の輸入が増えるのだろうか。輸入が増えない理由はほかにある。

アメ車はドイツ車の人気に大負けしている

   財務省の貿易統計によると、海外から日本への自動車の輸入(2024年)はドイツが8万7085台でトップ。米国からの輸入はわずか1万6074台だった。この中には中古車も含まれるが、大半は新車だ。日本自動車輸入組合(JAIA)によると、2024年の米国ブランドの新車販売台数は約1万6700台で、ほぼ貿易統計の数字に近い。いずれにせよ、日本で人気のドイツ車に比べ、アメ車の需要が少ないことがわかる。

   ただし、この貿易統計では測れないアメ車も存在する。日本国内を走る米テスラの電気自動車(EV)「モデル3」と「モデルY」で、これは中国製のアメ車だ。貿易統計上は中国からの輸入となるが、筆者を含む日本国民の多くはテスラをアメ車と認識しているだろう。

   欧州ステランティスとなった米国ブランド「ジープ」のSUV「レネゲード」はイタリア製で、同じくジープのEV「アベンジャー」はポーランド製だ。トランプ大統領は米国から日本にアメ車を輸出することを考えているだろうが、現実の自動車産業は多極分散の生産が進み、単純に分類できなくなっている。

   レネゲードもアベンジャーも米国のジープブランドだ。クルマは生産地よりも設計や開発をどこで行ったかによって、そのクルマの出自をとらえるべきだ。日本でレネゲードやアベンジャーに乗るユーザーは間違いなくジープファン、アメ車ファンのはずだ。

   言うまでもなくジープは旧クライスラーを代表する名門ブランドの一つだが、ステランティスが日本で展開するブランドはこのジープだけとなった。

人気アメ車の代表格はシボレーコルベット

   日本でアメ車の人気がさえないのは事実だ。かつてビッグ3と呼ばれた米国メーカーのうち、フォードは2016年に日本から撤退した。

   ゼネラル・モーターズ(GM)は今も日本で健在だが、シボレー、キャデラック、GMC、ビュイックの4ブランドのうち、日本への正規輸入はキャデラックとシボレーだけだ。

   かつてGMにはオールズモビル、ポンティアック、サターンといった多様なブランドが存在したが、2009年の経営破綻後の合理化などで消滅した。

   その意味で、日本への正規輸入で購入できるアメ車はGMのキャデラックとシボレー、ステランティス(旧クライスラー)のジープのほか、テスラに限られる。在京の米国商工会議所の自動車部会に加盟するメーカーもGMとステランティス、テスラの3社だ。

   このうち、日本で人気のアメ車の代表格は、GMのスポーツカー「シボレーコルベット」だろう。8代目となる現行モデルは標準仕様で6.2リッターV型8気筒エンジン、502馬力のモンスターマシンだ。

   コルベットは8代目で初のミッドシップエンジンとなったが、標準モデルはOHVのままだ。高性能モデルはDOHCだが、昔ながらのOHVエンジンを残している。これはコルベットのヘリテージ(伝統)ということらしい。

   コルベットをドライブすると、大排気量V8エンジンに魅了される。その猛獣のようなエンジンサウンドと、巨大なトルクにものを言わせた猛烈な加速はアメ車ならではだ。

GMの販売台数は日本で増加

   そんなコルベットを愛好するクルマ好きは、日本にも少数ながら存在する。潜在的に存在するアメ車ファンをコルベットが掘り起こしたのか、日本でGMの販売台数は少ないながらも、増加傾向にあるという。GMジャパンも黒字基調で、「フォードのように日本から撤退することなどありえない」という。

   それはGMジャパンが日本国内で「売れ筋」の車種に絞り込み、日本のユーザーに合った仕様に改めているからだ。かつてコルベットは左ハンドル仕様だけだったが、日本向けに右ハンドル仕様を輸入したところ、コルベットの販売台数は飛躍的に伸びたという。

   現行コルベットのサイズも全長4630ミリ、全幅1940ミリ、車両重量1670キロと、かつての巨大で鈍重だったアメ車に比べれば比較的コンパクトになった。GMのように日本向けに車種を絞り込み、仕様も改めることで、アメ車が日本でセールスを伸ばす可能性はあるだろう。

   コルベットは「古きよきアメ車」の代表格である。そのGMの対局には新進気鋭のテスラが存在する。「モデル3」はじめ、テスラの運動性能は高く、どれもスポーツカーといってよいほどだ。テスラの先進性は他メーカーと比較にならず、旧来のアメ車のイメージを大きく変えた。

   そのテスラに対抗する形で、GMはSUVのEV「キャデラックリリック」を発売し、EV市場に売って出た。ベクトルの異なる新旧メーカーが存在し、覇を競いあっているのがアメ車の魅力だ。コルベットやテスラのように、他社にないクルマの魅力を高めることによって、アメ車が日本で伸びる可能性はあると思う。

(ジャーナリスト 岩城諒)

記事提供元:タビリス