テスラが売れない!中国BYDに大きく離される 欧米でイーロン・マスクへの拒絶反応、日本EVメーカーに勝機は
2025/9/8 12:00 J-CASTニュース

米国の電気自動車(EV)メーカー、テスラの新車販売台数が世界的に減少している。2025年4~6月の世界販売台数は38万台で前年同期比13.4%減少である。同じく12.9%の減少だった1~3月に続き、2四半期連続でマイナスとなった。7~9月の実績も振るわず、年間で2年連続のマイナスとなるのは確実な情勢だ。
世界的な不買運動が起きている
25年1~6月のテスラの世界EV販売台数は72万台で、ライバルの中国・比亜迪(BYD)の102万台に大きく離され、世界首位の座を明け渡している。
トランプ米大統領と親密だったイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の政治的な言動で、ドイツなど欧州や米国を中心に世界的な不買運動が起きているのが原因とみられている。
ブルームバーグによると、ドイツでは8月のEVの新車登録が前年同月比で46%増えたが、テスラは39%減少し、年初からの8か月間では56%の大幅減となった。欧州全体でも年初からの7か月間でEVの販売は26%増加したが、テスラは40%減少したという。
「私はイーロン・マスクがおかしくなる前に買いました」
米国では「I bought this before Elon went crazy」(私はこのクルマをイーロンがおかしくなる前に買いました)とか、「ANTI ELON TESLA CLUB」(反イーロン・マスクのテスラクラブ)などのステッカーをテスラのリヤバンパーに貼るユーザーが増えているという。
そんな「言い訳」をするステッカーをテスラに貼る習慣が、環境意識の高い米国カリフォルニア州では一般的になっているそうだ。日本でもここ数年、テスラが普及したが、今のところ東京都心でもここまでの拒絶反応は見かけない。
テスラは日本国内の新車販売台数を公表していないが、業界団体によると、テスラの25年1~8月の販売台数は前年同期比87%増の約6600台となった模様だ。年間販売で初の1万台を超える勢いで、日本は不買運動の起きた欧米と異なり、テスラの販売は好調を維持している。
日本では新しいもの好きの需要が続いている
世界でテスラの販売が減速しているのは、イーロン・マスク氏の言動のほか、アーリーアダプター(初期採用者)と呼ばれる「新しいもの好き」のテスラ需要が一巡したのも理由で、日本では、まだアーリーアダプターの需要が旺盛で、供給が追い付かない状況なのだろう。
では、テスラの実力はどうなのか。筆者は日産自動車の2代目「リーフ」のほか、テスラの「モデル3」、BYDの「ATTO 3(アットスリー)」など各国の最新EVをテストした経験から、テスラやBYDの実力は侮れないと思っている。
テスラはEVの基盤技術であるリチウムイオン電池の制御と充電方法などで他メーカーに「一日の長」があると感じる。
EVの弱点である充電時間の長さを抑え、電池の経年劣化を防ぐため、リチウムイオン電池の温度を制御するバッテリークーラーとヒーターをいち早く標準装備したのはテスラだ。
電池管理を細かく促す説明書には感動した
筆者は日本で発売前のモデル3の米国オーナー向けマニュアルを2019年に読んで驚いた。そこには「モデル3は世界で最も進んだバッテリーシステムを備えている。電池を長持ちさせるために最も大事なことは、クルマを使わない時もずっとコンセントにつなぎっ放しにしておくことだ」と書かれていた。
注意すべき事例としては「旅行などで空港の駐車場に長期間、テスラを駐車しなければならないようなケース」が例示され、「2週間で電池は約14%減少する。残量がゼロ%になると電池などクルマの構成部品に悪影響が及ぶ」と警告していた。ここまで電池の管理を促すメーカーはそれまで見たことがなかった。
日産などの日本メーカーがEVにバッテリークーラーやヒーターを搭載するのは、テスラよりずっと後のことだ。
テスラ方式の大出力急速充電器は見事
自動車メーカーが無線でデータを送受信し、販売したクルマの車載コンピューターのソフトウエアを更新するOTA(Over The Air)と呼ばれる先進システムを業界に先駆けて実用化したのもテスラだ。
これまで自動車ディーラーで修理していたような不具合にも、OTAならスマホやパソコンのソフトウエア更新のように即座に対応できる。日本メーカーはOTAでも出遅れている。
テスラの「スーパーチャージャー」大出力急速充電器も優位性が高い。スーパーチャージャーは「北米充電規格(North American Charging Standard=NACS)」となり、他メーカーにも使用を開放した結果、トヨタや日産、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなど世界の自動車メーカーが米国とカナダでNACSを採用。事実上、テスラ方式のNACSが北米の標準となった。
これに対して、日本の急速充電方式「CHAdeMO(チャデモ)」は出力が低く、充電時間が長いので使いにくい。最近はスーパーチャージャー並みの出力200キロワットの大出力充電器も登場しているが、最大出力40~50キロワットが今なお主流だ。結果的にチャデモは世界には普及せず、ガラパゴス化している。
量産EVはまだ発展途上
日本は世界初の量産EVとして、三菱自動車工業が09年に「アイ・ミーブ」、日産が10年に「リーフ」を発売したが、販売台数はもちろん、技術的な先進性でもテスラやBYDに後れを取っている。
本来なら「世界のEVのパイオニア」を自負する日産から、テスラやBYDを凌駕するEVが出てもおかしくないはずだ。しかし、日産が25年内発売予定の新型リーフにそこまでの先進性があるとは、発表直後の現段階では思えない。
チャデモ方式の日本のEVにも優位性はある。V2H(Vehicle to home、クルマから家へ)と呼ばれるシステムで、EVやプラグインハイブリッドカーの電池に貯めた電力を自宅に送り、災害時など家庭で使うことができる。晴天の昼間に自宅の太陽光で発電した電力をEVに蓄えておき、夜間は自宅で使うこともできる。
この点、テスラはチャデモ方式でないため、V2Hに対応していない。BYDはチャデモ方式を採用しているため、日産リーフなどと同様に自宅でV2Hを行うことができる。
世界のEV市場はテスラとBYDが覇権争いをしている。まるで米中の代理戦争のように見える。しかし、そのテスラもBYDも万能とは思わない。EVはまだ発展途上であり、電池の経年劣化、充電時間など克服すべき課題は多い。
世界のEV市場にはまだ不確定要素が多く、この先は見通せない。しかし、残念ながらトヨタ、ホンダ、日産など日本メーカーからテスラやBYDをしのぐEVが登場する兆しは、まだよく見えない。
(ジャーナリスト 岩城諒)