2050年の自動車はどうなっているだろう EVの近未来は? メーカーの再編進んで日本勢の生き残りは?
2025/11/8 16:00 J-CASTニュース

今から25年後、2050年の自動車はどうなっているのか。長らく自動車の世界を追ってきた記者から見えてくる世界を描いてみた。
EV電動化目標がトーンダウンしている
ホンダの例を挙げてみる。
ホンダは「2050年にホンダの関わる全ての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルを実現する」という目標を掲げている。三部敏宏社長は2025年10月29日、「現在、電動化を取り巻く市場環境は不透明な状態が続いているが、長期的にはEV(電気自動車)シフトが進むと考えている。来る電動化時代に魅力あるEVをお届けするため、着実に準備を進めていく」と、ジャパンモビリティショーの開幕に合わせた記者会見で語った。
筆者は会場でこれを聞き、ホンダが事実上、電動化の目標を軌道修正したと感じた。ホンダに限らず、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、ボルボなど欧州の大手メーカーもEVを中心とする電動化目標をトーンダウンしている。
「電動化を取り巻く市場環境は不透明だが、長期的にはEVシフトが進むと」というのは、その通りだろう。世界の自動車メーカーで、これに異論を唱える経営トップはいないはずだ。しかし、それは飽くまで長期的な話で、25年後に100%実現するとは限らない。
注目、日経新聞の長距離運転ルポが暗示するもの
ホンダが唱える2050年のカーボンニュートラルとは、具体的にはEVと燃料電池車(FCV)の普及だ。ホンダはトヨタ自動車や独メルセデス・ベンツ、韓国の現代自動車なとど並び、EVとFCVの両方を開発し、実用化した世界でも数少ない自動車メーカーの一つだ。しかし、EVもFCVも解決すべき課題が多く、期待したほど普及していない。
なぜか。EVは通勤や買い物など近距離しかクルマを使わないドライバーにとっては便利で使いやすい。しかし、長距離を走るドライバーにとって、リチウムイオン電池を使い切った後の充電時間の長さ、不便さは、実際にEVを使ったことのあるドライバーでなければわからない。
日本経済新聞は2025年夏以降、面白いルポを掲載している。米テスラの「モデル3」を購入した記者が東京都心から自宅のある山口県まで往復約2100キロを走ったところ、充電回数は7回で合計3時間54分だった(25年8月28日電子版)。
続いて、この記者が日産「アリアB9」を借り、東京都心と徳島県を往復した。約1500キロを走り、充電回数は9回、充電時間は合計4時間20分だったという(25年10月1日電子版)。
EVはまだまだエンジン車より使いにくい
今さら「何をか言わんや」だ。EVで高速道路を長距離走行すると、リチウムイオン電池が発熱し、急速充電しても、電池を保護するため満充電がしにくくなる。このため、EVで長距離を走って充電が必要な場面になると、急速充電しても満充電できず、またしばらく走って充電を迫られるという悪循環に陥る。EVの利用者であれば、誰もが経験していることだ。ネットでは多くのユーチューバーが報告している。
この約4時間もの充電時間は大きなロスタイムで、ドライバーには経済的・心理的な負担となる。エンジン車なら給油は多くても3~4回程度で、合計10分もかからないだろう。
これは日本の急速充電方式「CHAdeMO(チャデモ)」の出力が低く、使いにくいことも大きな要因だ。米テスラなどが用いる北米充電規格(North American Charging Standard=NACS)であれば出力が大きいため、チャデモより短時間で多くの電力を充電できるだろう。それでもエンジン車より使いにくいのは否めない。
ドイツ首相はエンジン車販売禁止の緩和を求める
もちろん世界にはEV先進国もある。北欧のノルウェーでは2024年の新車販売台数の約9割がEVになったという。これは優遇税制に加え、充電インフラの整備が進んでいるからだという。ノルウェーは水力発電が盛んで、再生可能エネルギーでEVを走らせることができるという点で、理想的だと思う。
しかし、日本と並ぶ自動車大国ドイツをはじめ、欧州各国のEV普及はそこまで進んでいない。日本以上に長距離移動が多い欧州では、ユーザーがEVの使いにくさを実感しているからだろう。
2035年までにエンジン車の新車販売を段階的に禁止するとした欧州連合(EU)も軌道修正に動きつつある。ドイツのメルツ首相はエンジン車販売禁止の緩和を求めている。フランス政府も「EUは一定の柔軟性を維持すべきだ」と主張するなど、欧州はEVへの完全移行は困難で、現実的でないと考えているようだ。
e-fuelの実用化を目指す方が得策か
EUはエンジン車であっても、次世代バイオ燃料や「e-fuel」と呼ばれるカーボンニュートラル燃料であれば新車販売を認める方針だ。e-fuelは再生可能エネルギーで取り出した水素と二酸化炭素(CO2)を合成して作る燃料で、技術的には生産が可能だ。ガソリンスタンドなど既存のインフラを活用できるため、コストダウンさえ進めば、普及する可能性はある。
日本はe-fuelをめぐり、自動車業界、航空業界、石油業界などが政府と官民協議会を立ち上げ、開発を目指している。FCVは水素の生産とスタンドの整備がネックとなっている。これからFCV向けに水素スタンドを全国に整備するより、e-fuelの実用化を目指す方が得策だろう。
一方、EVは次世代電池とされる「全固体電池」の実用化が期待されている。日本ではトヨタ、日産自動車、ホンダが一番乗りを目指しているようだが、果たして、いつになったらブレークスルーが起きるのか。
中国では寧徳時代新能源科技(CATL)が5分間の充電で520キロ走行できるEV用電池を開発したと発表している。比亜迪(BYD)は5分間で400キロ走行できる新型EVのプラットフォームを開発したという。実用化すれば、全個体電池を待たず、EV普及のブレークスルーになる可能性がある。
いずれにせよ、2050年は25年後だ。今から25年前は2000年、さらに25年遡ると1975年だ。過去を振り返ると、50年の変化は大きいが、25年はそこまでの変化はないともいえる。
クルマを取り巻く社会が変化する
今後25年で、クルマは脱炭素化とともに自動運転が進むだろう。ただし、完全自動運転となる「レベル4」は、限られた市街地などでタクシーやバスで実装できても、一般向けに普及するには時間がかかるのではないか。意外と現在の「レベル2」の時代が長く続くかもしれない。
世界的にみると、自動車メーカーの再編が進むだろう。日本では50年前に9社あった乗用車メーカーが、いすゞの2002年の完全撤退で8社となった。それが事実上、トヨタ・マツダ・SUBARU(スバル)・ダイハツ工業・スズキのグループと、日産・三菱自動車工業にホンダが加わる2大グループに再編された。
日産とホンダの関係は微妙だが、独立性の高かったホンダさえも海外を含め、アライアンスを組まなければ生き残れない時代だ。ブランド力のない日本メーカーは今後の競争で徹底を迫られるかもしれない。
クルマの売り方も変わるだろう。中国のBYDは11月4日、「楽天市場」に出店し、EVのオンライン販売を始めたと発表した。米テスラも「イオンモール」で購入できる時代だ。紙のカタログや取扱説明書も消えつつある。2050年のクルマを今から予言できないが、脱炭素化、自動運転とともにクルマを取り巻く社会が少しずつ変わるのは間違いない。
(ジャーナリスト 岩城諒)









