「後妻に全財産」は嘘だった? 前妻の子が「遺留分」主張し大逆転...支払いのため家まで売った再婚家庭の末路
2025/11/9 18:00 J-CASTニュース

再婚家庭の相続では、「誰にどのくらい遺産を残すのか」という感情面と、「法律で定められた権利」という制度面が複雑に絡み合う。特に、前妻との間に子がいる場合、再婚相手との関係性が不十分なまま相続を迎えると、思わぬ対立に発展することがある。
前妻の子を除外した遺言が招いた対立
Aさん(70代男性)は、郊外で不動産仲介業を営んでいた。前妻との間には成人した息子Bさん(40代)がいたが、離婚をきっかけに疎遠となり、Aさんは十数年後にCさん(60代)と再婚した。Cさんは専業主婦で、Aさんの事務作業や顧客対応を手伝いながら、夫婦で穏やかに暮らしていた。
再婚当初、Aさんは「息子にも悪いことをした」と時折口にしていたが、Bさんからの連絡はほとんどなかった。Aさんが70代半ばで体調を崩し、事業を縮小する中で「残された妻が困らないようにしておきたい」という思いが強まった。
相談相手のいないまま、自筆で遺言書を作成して、「全財産を妻Cに相続させる」とだけ記した。前妻の子Bさんの名は、どこにも書かれなかった。Aさんの死後、再婚相手のCさんは遺言に従って、自宅や預金、会社の名義を自分に変更した。葬儀には前妻の子のBさんは姿を見せず、香典だけが郵送で届いた。
その後、遺言の内容を知ったBさんは「自分は実の子であるのに、何も受け取れないのか!」と強い不信を抱き、弁護士を通じて家庭裁判所に「遺留分侵害額請求」を申し立てた。
再婚相手のCさんは「夫は息子とは絶縁したと言っていた」「私が生活を支えてきた」と主張したが、法律上、Bさんには遺留分が認められており、遺言だけで権利を奪うことはできない。裁判所は、前妻の子Bさんの主張を認めて、Cさんに遺産の一部を金銭で支払うよう命じた。
結局、再婚相手のCさんは、支払いのために自宅を売却せざるを得ず、Aさんが守ろうとした「安定した暮らし」は失われた。(※プライバシー保護のため、内容を一部脚色している)
再婚家庭で起こりやすい法的な誤解
再婚家庭で多く見られる誤解は、「遺言を書けば、望みどおりに財産を渡せる」という考えである。実際には、相続人には最低限の取り分である遺留分が保障されており、これを侵害した遺言は争いの対象となる。
また、「前妻の子を相続から外したい」と考えて、遺言でその旨を記す人もいるが、法律上の相続人を、一方的に排除することはできない。相続人の地位を失わせるためには、「廃除」という法的手続きが必要であり、家庭裁判所の審判、または遺留分を侵害するような重大な非行が認められた場合に限られる。
単なる不仲や疎遠といった理由では、認められない。こうした仕組みを十分に理解せずに、遺言を作成すると、亡くなった後に残された配偶者と前婚の子が直接交渉することになり、感情的な対立が深刻化しやすい。
再婚家庭の相続では「思い」と「仕組み」の整理を
再婚家庭では、感情だけでなく、法的な権利関係を踏まえて、財産の分け方を考えることが大切だ。再婚相手の生活を守りつつ、前婚の子にも配慮するには、生命保険金の受取人指定や、遺言信託などを組み合わせる方法がある。
生前に家族の理解を得て、専門家のアドバイスを受けながら、仕組みを整えるのが理想だ。疎遠な家族がいる場合には、調整が難しいこともあるが、将来の争いを防ぐための現実的な対応といえる。
【プロフィール】
石坂貴史/証券会社IFA、AFP、日本証券アナリスト協会認定 資産形成コンサルタント、マネーシップス運営代表者。「金融・経済、住まい、保険、相続、税制」のFP分野が専門。









