「スーツ離れ」なのになぜ? 紳士服業界の青山、AOKIは堅調な業績...両社を支える「もうひとつの顔」
2025/11/9 19:00 J-CASTニュース

リモートワークの普及やビジネスカジュアル化の進展で「スーツ離れ」が叫ばれる中、紳士服業界の2大巨頭である青山商事とAOKIホールディングス(HD)が好業績を維持している。
両社ともに増収増益を続けているが、その好調を支えているのは大胆な事業の多角化戦略だ。
青山商事もAOKIHDも営業利益は大幅な伸長の見込み
決算発表会見でも経営陣がスーツを着ない大企業が珍しくなくなるなど、ビジネスシーンでのカジュアル化が進んでいる。コロナ禍を経てリモートワークも定着し、スーツ需要の減少は避けられない状況にあるはずだ。
ところが、スーツ業界の両雄は堅調な業績を維持している。
業界首位の青山商事の2026年3月期連結決算は、売上高は前期比2.6%増の1998億円、営業利益は11.3%増の140億円の見込み。一方、業界2位のAOKIHDの同期決算は、売上高は前期比2.8%増の1980億円、営業利益は8.7%増の170億円の見通しであり、5期連続の増収増益を見込む。
両社とも売上高の伸びは緩やかだが、営業利益は2桁ないし2桁近い伸びを示しており、収益の拡大が際立っている。スーツ離れという逆風の中で、なぜこれほどの好業績を維持できているのか。
非ファッション事業が会社を支える収益の柱に
好業績の鍵を握るのが、両社が積極的に進めている事業の多角化だ。特にAOKIHDは売上高の約半分を非ファッション事業が占めるまでに成長しており、ファッション事業への依存度を大きく下げることに成功している。
AOKIHDの非ファッション事業の中核となっているのが、複合カフェ「快活CLUB」、カラオケ「コート・ダジュール」、24時間営業のフィットネスジム「FiT24」だ。
特に快活CLUBは全国に495店舗(25年9月現在)を展開し、インターネットカフェ業界トップのシェアを誇る。鍵付き完全個室や室内アミューズメント需要の高まりを捉え、客数・客単価ともに堅調に推移しているが、AOKIHDが手掛ける事業であるということ自体、あまり知られていないのではないか。
青山商事も同様に、非ファッション事業の成長に力を入れている。子会社のglobを通じて、焼肉店「焼肉きんぐ」、寿司・しゃぶしゃぶ店「ゆず庵」、リユースショップ「セカンドストリート」などのフランチャイジー事業を展開。さらに、フィットネス事業では「エニタイムフィットネス」のフランチャイズ店を運営している。
両社に共通しているのは、ファッション販売店事業で培ったリアル店舗の企画・開店・運営ノウハウを強みとして、着実に多角化を進めている点だ。特にAOKIHDは店舗の余剰スペースを活用し、既存インフラを最大限に生かした事業展開を行っている。
リアル店舗のノウハウを武器に、着実に事業領域を拡大
スーツ市場の縮小は避けられないが、両社は早くからこの変化を見据えて対策を講じてきた。青山商事は中期経営計画で「事業ポートフォリオ経営の推進」を掲げ、既存事業への投資拡大と新規事業の開発を進めている。AOKIHDも中期経営計画「RISING 2026」で、各事業の成長戦略を明確化している。
両社はビジネスウェア事業においても、単なる既製スーツの販売からの脱却を図っている。オーダースーツやビジネスカジュアル、レディース商品の拡充など、多様化する働き方に対応した商品展開を進めることで、スーツ離れの影響を最小限に抑えようとしてきた。しかし、思い切った戦略方針転換の背景には、それだけでは生き残りは難しいとの判断があるのだろう。
両社の事例は、環境変化に応じて事業構造を柔軟に変革することで、持続的な成長が可能であることを示している。両社はしたたかな経営戦略により、今後もしぶとく生き残っていくだろう。









