ウクライナ侵攻で日本車が買えなくなったロシアの現実 新車市場を独占するのは中国メーカー

J-CASTニュース

   ウクライナ侵攻後のロシアで一般市民はどんなクルマに乗っているのか。ウクライナ侵攻以前と以後では、ロシア市民が購入するクルマも大きく様変わりしているようだ。

ウクライナ侵攻後は日本、欧州のメーカーが撤退

   日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ウクライナ侵攻前の2021年のロシアの乗用車生産台数は、ブランド別に(1)アフトワズ(2)現代自動車(3)アフトトル(4)ラーダ(5)フォルクスワーゲン(6)ルノー(7)トヨタ自動車(8)日産自動車(9)ガズ(10)ハバルモータールス――の順だった。このうちアフトワズ、アフトトル、ラーダ、ガズがロシアメーカーのブランドだ。

   これが2024年の乗用車新車販売台数のブランド別ランキングは、(1)ラーダ(2)ハバル(3)チェリー(4)ジーリー(5)チャンガン(6)オモダ(7)エクシード(8)ジェツアー(9)ベルジー(10)タンク――の順となった。2位以下はすべて中国メーカーで、9位のベルジーは中国とベラルーシの合弁という。圧倒的に中国メーカーがロシアの新車市場を独占している。

   ロシアのウクライナ侵攻を受け、トヨタ、日産など日本をはじめ、フォルクスワーゲン、ルノーなど欧州の自動車メーカーはロシアからの撤退を決めた。日産など西側メーカーが撤退した後の工場では、地場メーカーが自国向けにクルマを生産しているようだ。

部品調達難でエアバッグやABSを省略した車

   西側メーカーの撤退はロシアの自動車産業に混乱をもたらした。ルノーが2022年5月、子会社だったアフトワズの保有株式を売却すると発表。国民車「ラーダ」などを生産するアフトワズは欧米の経済制裁で主要部品の調達が困難となった。

   このため、ロシア政府はエアバッグやアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)などを搭載せず、排ガス規制も緩和したクルマの生産を認める特例を出した。これを受け、アフトワズはエアバッグやABSを省略した「ラーダ・グランタ」を発売した。

   ところが、ロシア市民の間で安全装備を省略したロシア車の評判は悪く、中古車や並行輸入車を選ぶユーザーが増えたという。

   その傾向はロシアの中古車市場を見ると一目瞭然だ。2024年のロシアの中古車販売台数のブランド別ランキングは、(1)ラーダ(2)トヨタ(3)起亜(4)現代(5)日産(6)フォルクスワーゲン(7)シボレー(8)ルノー(9)ホンダ(10)フォード――の順となっている。

日本メーカーは輸出を自粛、経済制裁の影響は無視できない

   新車市場で中国メーカーが圧倒的に強いのは、西側メーカーが撤退したからだ。ところが中古車市場ではトヨタなど日本メーカーや現代・起亜の韓国メーカー、欧米メーカーが人気なのがわかる。

   筆者がモスクワやウラジオストクを訪れたのはウクライナ侵攻前だが、クレムリン周辺はメルセデス・ベンツやBMW、アウディーなどドイツの高級車があふれていた。

   これが同じモスクワでも、中心部から少し離れた住宅街に行くと、旧ソ連時代の「ラーダ(VAZ)2103」などの旧車が庶民の足として健在だった。ウラジオストクやサハリンでは右ハンドルの日本の中古車がラーダなどロシアの国民車を圧倒していた。モスクワやウラジオストク市内には日本の主要メーカーのディーラーがあり、日本の新車も数多く走っていた。

   ところが事態は一変した。ウクライナ侵攻を受け、日本政府はロシアへの経済制裁を強化している。2023年8月からは排気量1900cc超のガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、電気自動車などの輸出を禁止した。例外的に排気量1900cc以下の小型車は今も輸出が可能だ。

   日本の大手自動車メーカーは新車の輸出を自粛しているため、実際の輸出は排気量1900cc以下の小型の中古車に限られる。ロシアでは日本の小型中古車の需要が高いというが、日本の貿易統計によると、2024年の日本のロシア向け中古車の輸出は前年比6.3%減の19万台と減少傾向にある。やはり経済制裁の影響は無視できない。

   このままでは日本の中古車もロシアでは次第に姿を消し、新車、中古車とも中国車が大勢を占める時代が来るかもしれない。ロシア市民にとっても、愛車を選ぶ選択肢が狭くなるのは耐えられないだろう。その意味でも、ロシアのウクライナ侵攻が一刻も早く終息し、西側との自動車ビジネスが正常化することを願わずにはいられない。

(ジャーナリスト 岩城諒)

記事提供元:タビリス